第三百八十二話:ラウネの特技
それから、一通り町を回って見た。
相変わらず、町には花が咲き乱れ、美しい場所だとは思うが、その裏に伸びる悪意の籠った手を想うと、ちょっと可哀そうに思えてくる。
見た目は何ともないけど、見えないところでじわじわと腐り始めているみたいな、そんな感じだろうか。
できれば、腐る前に何とかしたいところだけど、どうにもいい案が思いつかない。
フェルには悪いと思ったが、花街にも足を延ばしてみたけれど、ここも本来はもっと建物が少なかったらしく、劇場などがある程度だったという。
見たかった演武が見れたのはいいけど、これを特産品にすることはできないし、どうしたものかね。
「道づくりに関しては、我らが本気を出せば何とかなるだろう。取引先も、魅力的な品があれば乗ってくれる可能性はある。だが、物がない現状では、どうにもならんな」
「魅力的な品、うーん……」
劇場の端で、考え込んでみるが、なかなか思いつかない。
いっそのこと、視点を変えてみてはどうだろうか?
そもそも、たとえ魅力的な品だとしても、取引先が欲しいと思うものでなければ意味はないわけだし、取引先が欲しいものを見つけるというのはありかもしれない。
後は、他の人に意見を聞くのもいいだろう。
俺達だけではわからないことも、他の人からすればなんてことはないものかもしれないし、聞き込みは大事だ。
「そうだな。ここは二手に分かれて、調べてみるとするか」
「うん」
聞き込みをする班と、取引先を見つける班。二手に分かれることにする。
俺はフェルと組むことになった。まあ、イグニスさんはリトの護衛みたいなものだし、当然の分かれ方だね。
どちらをやるのかという話だけど、俺達は聞き込みする側になった。
この世界の地理に関しては、リトの方が圧倒的に詳しいし、川から繋がる町に心当たりもあるようだ。
なら、そちらは任せてしまっていいだろう。
俺達は、ひたすら地道に聞き込みをするとしよう。
「それじゃあ、聞いて回ろっか」
「おー」
できることなら、この町の人達に聞きたい。
観光客に聞いても、この町のためになるような答えは返ってこないだろうからね。
というか、多分観光客が求めているのは、潤沢な宿の部屋だと思う。
今だって、相当数が野宿を強制させられているし、不満は多いだろう。
もちろん、観光業を切り捨てるわけではないから、ある程度は聞いた方がいいかもしれないけど、宿関連は完全に相手の手の内だから、あまり手を出したくはない。
この辺も、こちらの手の中に入れられたら強いけどね。
「さて、ききこみ」
色々な場所で、話を聞いていく。
元からこの町に住んでいる人達は、やはり観光客に迷惑しているようだ。
いくらルールを厳格化しても、それを守らない奴は必ず出てくる。
ポイ捨てに関してはかなり厳しく取り締まっているけれど、それは昼間の間だけで、夜の間はそもそも警備が少ないこともあり、あまり取り締まられない。
夜にポイ捨てしたり、大声を出したり、迷惑している人はたくさんいる。
特に宿屋の近くはそれが酷く、中には無断で家に入られたりすることもあったようだ。
宿屋の周辺だけ治安が終わっている。警備隊の人も大変そうだ。
大抵は、愚痴ばかりで、あまり有用な情報は掴めなかったけど、子供に話を聞いた時に、これはと思うものがあった。
それが、花のアクセサリーである。
「花のアクセサリー?」
「うん! ラウネ姉ちゃんがくれたんだ!」
そう言って見せてくれたのは、花飾りが施されたブローチだった。
見たところ、質感は金属に近いけど、ちゃんとした花らしい。
こんな質感なのもおかしいけど、切ったり張ったりした様子がないから、最初からこの形だったように思える。
領主の家で、地図を出した時も思ったけど、もしかしてラウネさんって結構器用に植物を作れるんだろうか?
それは後で聞いてみるとして、これは結構使えるのではないだろうか。
見せてもらったのは、ブローチだけではなく、他にも色々あった。
中には、はさみと言った実用的なものまであったし、もしこれを自在に作れるのだとしたら、強力な特産品になるかもしれない。
まあ、ラウネさんの負担がやばいから、主力にしていいのかはわからないけど。
「ひとまず、戻る?」
「うん」
とりあえず、これに関しては確認して見なければならない。
俺達は、さっそく孤児院に戻ることにした。
「お帰りなさい。何かいい案は浮かびましたか?」
「かくにん、ある」
「おや、なんでしょう?」
俺は、さっそく先程聞いた話をラウネさんにしてみる。
ラウネさんは、ああ、と思い出したかのように手を叩いていた。
ラウネさんの能力は、花を操ることのようだ。
花であれば、好きな形に変形させたり、様々な属性を付与することができる。
あの時見たブローチは、そう言う形に育つように調整した花であり、種さえあれば、それを量産することも難しくはないという。
「でも、本質は花ですし、日持ちはしませんよ?」
「あのとき、みた、かれて、なかった」
俺が見たブローチなどの作品は、どれも枯れているようには見えなかった。
渡してから間もないのかと思ったけど、以前から大事にしているというような発言もあったし、ここ数日で貰ったものではないだろう。
それでも、枯れているようには見えなかったから、枯れさせないこともできるんじゃないだろうか?
「うーん、枯れさせないってことはできないです。地面に植わったままのものなら、できないことはないですが、切り離されてしまうと、どうしても」
「じゃあ、あれは?」
「見た目は枯れていないように見えても、しっかり枯れていると思いますよ?」
見た目に変化はないけど、枯れている。
でもそれって、花として扱うなら問題だけど、アクセサリーなどとして扱うなら、何の問題にもならないよね。
それらは見た目を飾るために使うものであって、重要なのは見た目だ。
それらが枯れても変わらないのなら、十分使える武器になると思う。
「なるほど……枯れてしまうとダメかと思いましたが、見た目だけにこだわるなら、それでもかまわないというわけですね」
「そうそう」
「すみません、枯れた花にも役割があるのですね」
花は咲き誇る姿を愛でるもの。だから、枯れてしまえば、その価値は著しく落ちる。
ラウネさんの考えでは、枯れてしまっては意味がないと思っていたようだ。
でも、その能力があるなら、問題はない。
まだ売れるかはわからないけど、これは強力な糸口になりそうだ。
「ありがとうございます。希望が見えてきました」
ただ、売れるものがあっても、それを相手が欲しがるとは限らない。
取引先が、アクセサリーなんていらないというのなら、意味はないだろう。
まあ、アクセサリーだけに留まらず、ある程度色々なものを作れるようなので、汎用性はありそうだけど、その辺はリト達の成果に期待するしかない。
リト達は、取引先を見つけられるだろうか。
俺は、あちらの成果に期待しつつ、その帰りを待つのだった。




