第三百八十話:町の問題点
家の中に入り、応接室へと案内される。
入った瞬間、メイドさんが出迎えてくれたけど、急な来訪にも拘らず、顔色一つ変えずに通してくれた。
やっぱり、いつものことなのかもしれない。
そんな簡単に知らない人を通していいのかと思わないことはないけど。
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。私はラウネと申します」
「わたし、るみえーりゅ」
「ふふ、可愛らしいお名前ですね」
こちらも自己紹介を済ませ、さっそく本題に入ることになった。
ラウネさんの困りごと、それは、この町に巣食う、ある問題点だという。
一日見回ってみた感じ、特に問題があるようには見えなかったけど、何かあるんだろうか?
「ニクスさんは、この町がどういう経緯で作られたのか、知っていますか?」
「ああ。子供のためだろう?」
「その通りです」
この町を作ったのは、先代の領主であるナツキさんである。
元々は、この土地を持つ一領主だったらしいが、子供を授かったのをきっかけに、この町を作ることを決めたそうだ。
生まれてくる子供が、何不自由なく暮らせるような町。それが、この花の都なのだという。
「ナツキは、私財をなげうって、全力でこの町を作り上げました。私も、その考えに賛同し、少しだけ手を貸したのです」
「ここまで整然と花が並んでいるのは、貴様の力添えのせいか」
「ええ。私には、花を育むことくらいしかできませんから」
ラウネさんの能力は、花に関連することらしい。
町を作る際、折よく知り合ったこともあって、この町の建設に力を貸し、その縁で仲良くなったのだとか。
町が完成した後も、その管理を任される立場にあり、ささやかながら、楽しい毎日を過ごしていたという。
「子供が生まれ、町も完成し、子供のための地盤づくりは、盤石なものだったはずでした。しかし、一人の子供に与えられるにしては、この町は美しすぎた。故に、手を出してくる輩が出てきたのです」
今でこそ、花の都は観光地として人気を博しているけど、元々は、子供のために作られた箱庭だった。
しかし、これは金になると踏んだ周りの連中は、言葉巧みに観光地化を進めさせようとし、ナツキさんを困らせていたという。
この町は、子供だけのためのもの。人が増えるのはよいが、観光客が増えることによって、外敵が入り込むことは阻止せねばならなかった。
しかし、この町の建設費用は、莫大だった。町が完成した頃には、財政は相当苦しくなっており、ナツキさんは、苦渋の決断で一部の観光地化を決めた。
花の都に似つかわしくない宿屋や、あぶれた人達が入り口でたむろしているなどの問題は、後付けで作られたものだったかららしい。
一応、観光地化によって、収益は爆増したし、お金の心配という意味では、特に困ることはなくなった。
が、それで満足するほど、敵は甘くないようだ。
「彼らにはお金しか見えていないようで、どんどん観光地化を進めるべきだと何度も問い合わせて来ました」
「人の遊び場を金儲けの場所にするとは、いつの世も愚か者はいるものだな」
「中には、木を切り倒し、花を踏みにじってでも、観光向けの店を出すべきだという過激派もいて、ナツキは激怒していました」
美しい花があるからこその町なのに、それを壊して、新たに観光向けの店を建てようって、それは本末転倒ではないだろうか?
人々がこの町に来るのは、その美しさからであって、その美しい部分を壊しては何の意味もない。
さらに言うなら、店が増えることによって足りなくなる人手を、他の町から人を連れてくることによって解消しようとしていたようだ。
静かな町だったはずなのに、外から色々入り込んだせいで、秩序が乱れ、荒らされていく。
ラウネさんも、それには憤慨しており、どうにかしたいと思っているようだった。
「困りごとというのはそれのことか?」
「その通りです。特に、今は敵の攻撃も激しくなっていますから、早急な対処が必要なのです」
以前は、ナツキさんがそれらの要求を突っぱね、この町を守ってくれていた。
しかし、そのナツキさんが亡くなり、領主の座は、その子供へと引き継がれた。
すでに成人はしているし、頭も悪くはないから内政はできるが、相手も利権を手に入れようと必死で、あの手この手で誘惑してくるようである。
最近では、その対処に頭を悩ませており、断り切るのも難しくなっている状況。
このままでは、以前の静かな花の都はなくなり、ただ金を搾り取るだけの場所と化してしまう。
故に、どうにかしてほしいというわけだね。
「事情は大体わかった。この町を、価値もわからぬ猿共に渡すわけにはいかん。協力しよう」
「ありがとうございます。頼りにしていますよ、ニクスさん」
いつもなら、面倒事には首を突っ込むなというリトが、即決で協力を申し出た。
やっぱり、この町や、ナツキさんには思い入れがあるんだろう。
ナツキさんが遺したこの町を、何としてでも守り抜かねばならない。そう決意しているようだった。
まあ、俺としても、この町がぐちゃぐちゃになるのは見たくないし、協力するのは吝かではない。
ただ、これは結構難しい問題ではないだろうか?
「どうするの?」
「その利権野郎どもを皆殺しにすれば楽だろうが、それで解決するものではないのはわかる」
この町が目指すのは、子供のための町であり、観光地ではない。
つまり、極端な話をすれば、観光客をすべて追い返し、町の魅力をなくせば、解決する話ではある。
しかし、花の都と謳われたこの町から魅力を奪うとなると、花をなくすということになるし、それでは残っても意味がない。
それに、観光客がいなければ、収益が足りなくなる可能性が高い。
今でこそ、安定しているだろうけど、観光客からの収益がなくなれば、一気に没落してしまうだろう。
観光業に代わる収入源を見つけない限り、それでは町を維持することもできなくなり、結局は意味がなくなる。
つまり、ある程度の観光客は維持しつつ、要求は突っぱね、静かな町を取り戻すというのが目標になるわけだ。
敵は明確だけど、それを倒しきってしまったら意味がなくなる当たり、難易度が高いよね。
「うーむ、どうしたものか」
「ある程度の痛みは覚悟すべきではないか? 美味しい場所だけもらって、後はいらないから排除するというのは、なかなか難しいと思うぞ」
「せめて、奴らに頼らなくてもいい体制にできればいいのだが」
現状、宿屋関連の権利は、外の人達が持っているらしい。
そもそもの話、ここは領主の町なのに、外からやいのやいの言った程度で干渉できるのかとも思うけど、この町はいわゆる行き止まりにある場所で、外からの流通には必ず他の領地を通らなくてはならないらしい。
つまり、言うことを聞かなければ、流通を止めるぞと脅されているわけだね。
花に関しては、ラウネさんの能力ありきだし、何とかなるにしても、その他のことに関しては外からの流通は不可欠。
自給自足できるほどの生産力もないし、それが一番のネックなようだ。
流通の問題か……どう対処すべきだろう?
俺は、腕を組みながら、何かいい手はないかと考えた。




