第三百七十八話:加護の導き
「それはそうと、ディートリヒさんがここにいるってことは、幻獣の気配を感じたってことですよね?」
「ああ、そうだ」
話は、ディートリヒさんがここに来た理由に移っていった。
ディートリヒさんが旅をする理由は、人々を助けるため。
今では、加護の力も得て、幻獣も同じように助けようと旅をしているわけだが、その導きによってここに来たということは、ここには幻獣がいるということになる。
しかし、俺の探知魔法では、特にそれらしい反応は見当たらなかった。
本当に、そんな幻獣いるんだろうか?
「我らが近づいていたから、という可能性もあるが、それには我も心当たりがある」
「というと?」
「あの女だ」
リトが示したのは、この孤児院の先生である、あの先生だった。
巧妙に隠してはいるが、わずかに幻獣の気配を感じ取ったという。
あの先生が幻獣ってこと? とてもそうは見えなかったけど。
「あの先生が幻獣だと? 根拠はあるのか?」
「ただの勘だ。だが、妙な気配を感じたのも確かだ」
過去の戦争を機に、幻獣は人々の下から離れて行ってしまったが、今でも、人化の術を用いて、人の世界に溶け込もうとする幻獣もいる。
だから、あの先生が幻獣であっても、不思議はない。
しかし、今までの幻獣は、人の世界に溶け込むと言っても、大抵はその上に立つ立場だった。
守り神として崇められていたり、王様として君臨していたり、人を導く立場として、上に立っていた。
でも、あの先生は、別にそう言う立場にはいないだろう。
それとも、アンズさんみたいに、他にも幻獣がいて、その幻獣に任せているから必要ないという感じなんだろうか。
「仮に、その話が本当だとして、彼女は何の目的で孤児院の先生をしているのだ?」
「知らん。人に友好的というのはわかるが、何を目的にしているかまではわからん」
「きけば、いい」
「あ奴が幻獣だという確証が持てるならそれでもいいが、今のところ、少し違和感を感じた程度だからな。どう出てくるかわからない以上、むやみに聞くものでもない」
今までは、大抵相手の方からこちらの正体に気づき、話を振ってくれたから楽に進んでいたが、今回は特にそう言った話は来ていない。
ディートリヒさんがいるからだろうか? 幻獣以外の者がいる中で、話はしたくないって可能性もある。
あるいは、幻獣であるというのはリトの勘違いで、普通の人間という可能性もあるし、確証がないまま聞くのは少し怖いか。
「困っている幻獣が彼女だというのなら、それを助けたいと思う。が、流石に先の迷子騒動がそれとは思えないな」
「あれは偶然だろうしな。加護に反応したなら、何か他に困っていることがあってもおかしくはないが」
わかりやすく、孤児院の経営に困っています、というなら納得できるが、見たところ、そんな様子は微塵もない。
体調が悪いようにも思えないし、何に困っているのかは謎だ。
強いて言うなら、メル君が蹲っていても、町の人は誰一人として気にしていなかったのが少し気になるが、この町は自然と花に視線が吸い寄せられるし、本当に見えていなかったって可能性もある。
それこそ、直接聞いた方がいいだろうか? 幻獣であることに触れないのであれば、聞いてもおかしくはないし。
「ひとまず、明日聞いてみるとしよう」
「そうしろ。我は、別の切り口から攻めてみる」
「なにか当てが?」
「一応、この町には知り合いがいるのでな。そちらを当たろう」
「めずらし」
幻獣の知り合いは数多いけれど、人間の知り合いとなれば極端に少ないリトが、知り合いがいるなんて言うとは珍しい。
幻獣の気配は感じなかったし、この町には幻獣がいないと思っていたけど、もしかしているんだろうか?
幻獣でも人でも、どちらでも興味がある。
方針も決まったので、今日のところは休むことになった。
孤児院にしては上等なベッドに身を預けながら、眠りにつくのだった。
翌日。目を覚まし、顔を洗いつつ、食堂へと顔を出す。
孤児達は、今回もフェルの料理を期待しているのか、目を輝かせながらこちらを見ていた。
これ、あんまり依存させちゃうと、フェルがいなくなった後が大変そうだな。
たまに贅沢するくらいならいいけど、それが染みついてしまうとハードルを下げるのが難しくなってくる。
そこらへんは、少し注意しないといけないね。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「はい、泊めていただきありがとうございます」
「いえいえ、あなた方はメルの恩人ですし、いつでもいらっしゃってください」
先生は、昨日と変わりなく、ニコニコとしながら挨拶をしてくる。
食事を終え、片付けをしている最中に、それを手伝いながらディートリヒさんがさっそく切り込んでいった。
「先生、何かお困りごとはないですか?」
「子供達と遊んでくれるだけでも、十分すぎますよ。わざわざありがとうございます」
「いえいえ、こちらは一宿一飯の恩もあります。私にできることであれば、何でも言ってください」
「ふふ、お優しいのですね。それでしたら、買い出しを手伝ってくださいますか?」
「ええ、喜んで」
そう言って、先生はディートリヒさんと共に去っていった。
なんか、困っていることと言えば困っていることなのかもしれないけど、そんなに差し迫ったことではないような気がする。
加護の導きが間違っていた? そもそも、困っている幻獣の下に導くのかどうかもただの勘だし、単に幻獣がいる場所を示しているだけの可能性もある。
仮に先生が幻獣だったとしても、困っているかどうかはわからないよね。
「まあ、予想通りだ。こちらはこちらで動くぞ」
「どこ、いく?」
「この町を作った張本人。領主の家だ」
そう言って、リトはさっそく外へと歩いて行った。
領主って、凄い人と知り合いなんだね。
リトの人としての交友関係って、基本的に冒険者としてが基本だろうから、領主と知り合いになるって言うのはあんまり想像つかないけど。
それとも、領主直々の依頼でもこなしたんだろうか。
「ちょっとした縁だ。深い理由はない」
「ふーん」
まあ、その領主に話を聞けば、少しは関係性もわかるだろう。
リトの後を追って、俺も外に出る。
領主の家があるのは、町の奥。わずかに丘になった場所にあるらしい。
花の都の領主だけあって、周辺はひと際華やかな花に囲まれ、庭はこれ以上ないくらいに手入れされている。
入り口には門番がいるようだけど、ちゃんと入れるだろうか?
「おい、通せ」
「おや、お嬢ちゃんは誰かな? ここは関係者以外入っちゃいけない場所なんだよ」
「我はニクスだ。領主にそう伝えろ、そうすればわかる」
「領主様に? 会う約束はしているかな?」
「そんなものはしていない。早く伝えてこい」
「ごめんね。約束のない人を通すわけにはいかないんだ」
意気揚々と門番の前に出たリトだったが、優しそうな声で追い返されてしまった。
まあ、確かにいくら知り合いとは言っても、今のリトは子供の姿。いつもの冒険者の姿でないなら、別人と思うよね。
さて、どうしたものか。




