第三百七十七話:別れてからのこと
「お知り合いですか?」
「ええ、ちょっとした縁で」
「まあ、偶然もあるものですね」
ディートリヒさんは、改めてなぜここにいるのかを聞いてくるが、それはこちらの台詞である。
あれから、ディートリヒさんは、自分の得た加護を正しく理解し、幻獣を助けるべく、旅に出たはずだった。
ちゃんと活動できているのか心配だったが、まさかこんなところで会うなんて予想外である。
「我らはちょとした観光だ。ここ最近、根を詰め過ぎていたのでな」
「なるほど。私は加護に導かれるままにここに来た。まさか、また会えるとは思っていなかったな」
そう言って、ディートリヒさんは俺の前で膝を折り、頭を下げてきた。
ディートリヒさんの中で、俺は神様に連なる者って感じなんだっけ?
一応、正体はドラゴンだと明かしたし、それは幻獣だということも明かしたはずだけど、どこかで信じている部分があるのかもしれない。
大の大人がいきなり子供の前で跪くなんて目立つし、あんまりやって欲しくはないけども。
リトも、複雑そうな顔で睨んでいるし。
「それで? なぜここにいる」
「この町を訪れた後、偶然この先生と出会ってな。どうやら、迷子になった子供がいるが、孤児院を開けるわけにもいかないと困っていた様子だったので、手伝ったのだ」
「なるほどな。迷子というのは、あいつのことか?」
「どうやらそのようだな。見つかって何よりだ」
それで探しに出ていたわけだね。
一部では、英雄騎士とももてはやされるような人がやるようなことではない気もするけど、ディートリヒさんは誠実な人だし、頼まれたら迷わずやるだろう。
この辺りでは、あまり名が知られていないんだろうか?
先生も、特に気にしている様子はないし。
「こうして再会できたのも何かの縁だ。よければ、今夜にでも話さないか?」
「なぜ貴様の話を聞かねばならん。こちらは休憩中だ、面倒事を持ち込んでくるな」
「まあまあ」
相変わらず、リトはあまり乗り気じゃなさそうだけど、あれから、ディートリヒさんがどのような活動をしていたのかは気になる。
どうせ、この後は町に出ること事もないだろうし、少し話すくらいはいいんじゃないだろうか。
そうやって訴えると、リトはため息をつきながらも了承してくれた。
「皆様、仲がいいんですね。部屋は自由に使っていいので、ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございます」
その後、夕食を食べて部屋に戻ることになった。
こちらで何とかすると言った手前、適当に肉でも食べようと思ったのだけど、先生がキッチンを貸してくれたので、フェルが料理することになった。
食材は自前のを使ったけど、やっぱりフェルの料理はおいしい。
孤児院の子供達も、その匂いにつられてか、自分も食べたいと言ってきたので、ふるまって上げたら、凄く喜んでくれた。
火の魔石や水の魔石を平然と使えるくらいに整ったキッチンだったから、そこまで困窮はしていないだろうけど、それでもフェルの料理は絶品ってことだね。
結局、みんなで食卓を囲み、ワイワイと騒いでいたので、戻るのが遅くなったのはご愛敬。
ここからは、大人の時間だ。
「すまないな。わざわざ時間を作ってもらって」
「でぃーとりひさん、いらっしゃい」
俺達にあてがわれた部屋で、集まって話すことにする。
まず聞きたかったのは、ディートリヒさんの今までの活動だ。
あの町で、加護の本当の意味に気づいた後、きちんと幻獣を助けることができたんだろうか?
「あれから色々な場所を回ってきたが、幻獣がいるという前提で考えてみると、意外に話がわかる連中だと感じたな」
加護の導きを頼りに、幻獣と向き合ってみると、人々が言っていることが、的外れなことも多いと感じたようだ。
狂暴な魔物が出て困っている、そう言う話は山ほど聞いてきたが、幻獣側の視点に立つと、無理に森を開拓しようとして来たり、川を汚したりと、怒りを買っても仕方がないことをやっている人々はたくさんいたらしい。
もちろん、幻獣側が悪いということもあったようだけど、こうして違う視点を持つと、今まで自分がいかに愚かだったのかを痛感したという。
中には、実際に幻獣と話せる機会もあり、人々に対して、こうしてほしいといった要望を伝えることもあったという。
さながら、人と幻獣を結び付ける橋渡しのような感じだね。
「ニクス、君の教えてくれた名前は大いに役に立った。礼を言うぞ」
「ふん、やたら滅多ら幻獣に喧嘩を売られても困るからな。少しでもそれが是正されたのなら何よりだ」
以前別れる際に、リトは幻獣だと判断する材料として、幻獣の言葉で自分の名前を教えた。
リトは顔が広いから、もしかしたらそれで話を聞く気になってくれた幻獣もいるだろう。
なんだかんだ、役に立っているようなら、よかったよかった。
「君達は、あれから何かあったか?」
「面倒事が山ほどあったな」
「あはは……」
自分の正体が、アーリヤの生まれ変わりではないかというのは、以前から考えていたことだったけど、神殿や帝国が本格的に表に出てきたり、アーリヤを召喚すべく、神様が遣わせた幻獣が帝国に捕らえられていたりと、もはや俺達だけでは処理しきれないことが多くあった。
というか、今もそれを横に置いて、現実逃避のように息抜きしているのであって、何も解決はしていない。
一応、ラスクさん達の協力があれば、ある程度情報を得ることはできるし、もう少ししたら進展するかもしれないけどね。
「そちらも苦労しているのだな」
「苦労なんてものではない。貴様の苦労と一緒にするな」
「それはすまない。だが、結局私の加護は、君の力ということでいいのか?」
「え?」
ディートリヒさんは、過去に瀕死になっていたところを、泉の水を飲んだことで完治し、加護を得たという。
当時は、それは幻獣の誰かの声ではないかと思っていたわけだが、今では、その声はアーリヤの声であることがほぼ確定している。
そして、俺はそんなアーリヤの生まれ変わりであり、あの声が与えた加護はすなわち、俺が与えた加護ということになるのではないかと、そう言いたいようだ。
俺は全く自覚がないけど、確かにあれがアーリヤの声だとするなら、俺が与えたことになるのか?
というか、そもそもあそこで聞こえた声は、アーリヤの残留思念のようなものであり、その魂は、すでにそこには存在していないという話だったはず。
それなのに、一個人に加護を与えるなんてこと、本当にできるんだろうか?
まあ、アーリヤは神様の力を持っているわけだし、残留思念と言えども、その遺志を継いでもらいたいという気持ちが、加護を与えたという可能性もなくはないけど、ちょっと気になる。
悪いものではないから、大丈夫だとは思うけど……。
「そのあたりはよくわからんが、アーリヤの意思が介在しているのは確かだろうな」
「今まで間違えて屠ってきてしまった幻獣達に報いるためにも、正しく力を使いたいものだ」
「ぜひそうしてくれ」
その後も、今まであった出来事をお互いに話していく。
夜は、次第に更けていった。




