第三百七十五話:ちょっとした違和感
腹ごなしも終えて、町を観光することにした。
どこを見ても綺麗な町ではあるけど、それでもより映える場所というのはあるらしい。
なんか、雰囲気的には、テーマパークにでも来た気分だな。
これでアトラクションでもあれば、完全にそれな気がする。
町自体が花を見るために作られた場所だから、順路のようなものもあるし、一日歩いているだけでも、楽しい気分になりそうだ。
「……ん? あれは?」
「ああ、あそこは花街と呼ばれる場所だな。花以外にも、踊りや演武なんかも見られるようになっている」
「へぇ」
この世界における、娯楽の詰め合わせみたいな場所ってことかな?
踊りはともかく、演武は少し見てみたい気もする。
俺は基本的に武器を使わないけど、使ってみてもいいかなとは思っているんだよね。
というのも、先日のレイヴン戦の時、武器がなくて困ったことがあったからだ。
ただ攻撃するだけだったら、威力的にも射程的にも魔法で十分なのだけど、近接戦をしたいという時に武器がないと、素手て戦うしかなくなる。
そりゃ、人化していても、腕力はあるから、十分戦えはするけど、個人的には、やはり武器を持って、それを使って戦ってみたさがある。
少しでも、その参考になるなら、見てみてもいいかもしれない。
「行くか?」
「うん」
「ちょ、ちょっと待って!」
ひとまず行ってみようと足を延ばそうとすると、フェルが止めてきた。
フェルはあんまり興味ない感じだろうか?
まあ、そう言うのって結構値段が張りそうだし、興味がないなら行く必要はないよね。
というか、お金に関しては大半がフェルが稼いだお金だし、フェルが行きたくないというなら、俺も行かないでもいいけど。
「どうかしたのか?」
「あの、花街って、それ以外にもありますよね?」
「まあ、そうだな。我も一度誘われたことがあるが」
「わ、わかってるなら誘わないでください!」
「? ……ああ、それもそうか。悪かった」
なにやら顔をしかめているけど、何のことだろうか。
ちらりとリトの方を見てみると、少し迷った後に、教えてくれた。
花街というのは、芸に秀でた者が集う場所である。が、その中には、特に男性向けのサービスも存在する。
それが、娼館だ。
男性が、一夜の夢を見るために訪れる場所。そんな場所、番であるフェルにとっては、絶対に行かせたくない場所である。
もちろん、今の俺は性別的には女性だから、何の問題もなさそうではあるけど、気持ち的な問題として、あまり行かせたくないって感じみたいだね。
なるほど、それは盲点だった。
「まあ、白き子竜のような子が、相手にされるとは思えないが」
「小娘の気持ちも考えてやれ。たとえ寄らないにしても、気になることはあるだろう」
考えてみれば、俺の姿は子供なわけで、大人向けのサービスである娼館を利用することなどありえない。
まあ、興味という意味では気にならないでもないが……流石にフェルを裏切るような真似はしない。
演武を見れないのは残念だが、後でリトにでも教えてもらえばいいだろう。
「ふぇる、いかない、あんしん」
「そ、そう? ならいいんだけど……」
フェルを安心させるように、手を握る。
まだ観光できる場所は色々あるし、そちらを回って見るとしよう。
花街の入り口から離れ、さらに街を歩いていく。
道中、芸術の域に達している花畑などを見ながら歩いていると、次第に日が暮れてきた。
そう言えば、宿をとっていなかったな。
基本的に、観光は宿を取ってからするのが普通みたいだけど、あまりに美しい光景に忘れてしまっていた。
今からでも取れるだろうか?
「ふむ、今から宿を取るのは難しいかもしれん」
「そうなの?」
「今の時期は観光客が多いからな。ここに来た時点で宿に向かっても、取れたかどうか」
この町は、観光のために作られたような場所だけど、実は宿屋自体はそこまで数がないらしい。
町を作る段階から、計算して花を植えるほどの気合の入りっぷりなのに、そこは雑なのかと思わなくもないが、そう言うわけで、宿屋は町から少しはみ出すようにして並べられているようだ。
当然ながら、キャパが足りなく、この時期ではいつも予約すらいっぱいらしいので、泊るのは至難の業だとか。
だが、それでいて町の中で寝るのは禁止らしいので、もし宿を逃した場合は、町を出て野宿するしかないという。
微妙に観光客に優しくない設計だけど、なんでこんなことになっているのだろう。
「まあ、ダメ元で聞いてみてもいいかもしれん。別に、ダメならダメで野宿すればいい」
「そうだな。この辺りには魔物が少ないようだから、襲われる心配はない」
とりあえず、空いている宿屋がないか探してみることにする。
宿屋がある区画は、華やかな中心部とは打って変わって、とても殺伐としていた。
あれだけ咲き誇っていた花は見る影もなく、ちょこっと申し訳程度に配置されているくらい。
宿屋の店先では、泊れなかったと思われる観光客が怒鳴り声をあげ、その辺の道端には横になって丸くなっている人々の姿が見える。
なんか、印象が全然違うな。
観光のための町であるなら、宿屋にこそ気合を入れるべきだと思うけど、これではイメージが台無しである。
「まあ、所詮は人間どもの考えることよ。禁止されようが何だろうが、自分の利益のためなら他者を蹴落とすことを厭わない。醜い姿だ」
「うーん」
「なんだ、言いたいことでもあるのか?」
「いや……」
リトの言う通り、この場所は町の中心部からはかなり離れているし、観光客以外には誰の目にも触れない場所ではある。
それ故に、観光客がのさばっていても注意できない。
でも、観光が収益の大半を占めていそうなこの町でそこをないがしろにするのはおかしい気もする。
まるで、目的は観光業ではないような。
まあ、いずれにしても、この様子だと泊れる宿屋はなさそうだ。
あまり空気もよろしくないし、一度戻るとしよう。
「こうなると野宿することになるが、できれば人が少ないところがいいな」
「町の入り口は、人が多いからな。このままだと人化したまま寝ることになる」
宿屋からあぶれたと思わしき人々は、町の入り口に集まっているようだ。
町の外であれば、町の中でのルールは適用されないのか、そこらへんは許されているようである。
俺としては、人化したまま眠っても別にいいけど、やはりできることなら、元の姿の方が好ましい。
魔力は寝ている間に回復するけど、人化したままだと、回復が遅いからね。
町の入り口付近がダメとなると、反対側だろうか?
ただ、この町には入り口が一つしかなく、普通に出るには入り口を通らなければならない。
入り口が一つしかないというのも珍しい気がするけど……なんか色々変な町だな。
俺は、わずかな疑問を抱えつつ、寝場所をどこにするか考えた。




