幕間:冥界王の心配
冥界の神様、冥界王の視点です。
冥界王の仕事は、冥界を管理すること。
それ故に、基本的に冥界から出ることは許されず、常に最奥で見張ることが推奨されている。
まあ、見張りと言っても、大体の管理は配下がやってくれるし、やることと言えば、のんびりと茶菓子でもつまみながら、時折やって来る罪人を見極め、報告書に目を通すくらいなのだが。
「俺はなんだってこんなことやってんのかねぇ」
ただ、今は最奥の玉座には誰もいない。
今俺がいるのは、天界の入り口。本来なら、ほぼ足を運ぶことのない天界に、わざわざ来たのには、理由がある。
それは、アーリヤの生まれ変わりの存在だ。
以前、冥界に白い竜がやってきた。
その竜は、冥界のシステムである、潜る度に何かを奪われるというルールを完全に無視し、無傷の状態でやってきた。
その時点で、疑いはあっただろう。冥界のシステムを受け付けない幻獣として、アーリヤの名前は有名過ぎた。
俺も、あいつのことは気に入っていたし、来ることはないだろうなと思いつつも、密かにその死に目を見守ってやるくらいはしていたつもりだ。
だが、どういうわけか、奴は冥界にも天界にも現れなかったし、ましてや地上をさまよっているわけでもないようだった。
一体どこへ消えたのだと思っていたら、アーリヤの気配を漂わせた白竜が来たのだから、疑いたくもなる。
結局、あの場は疑念を抱きつつも、ラスクに任せたが、あれからどうにも気になって仕方がなかった。
あの白竜がアーリヤの生まれ変わりというのは、恐らく間違いない。そうでなければ、冥界のシステムを突破した説明がつかない。
だからこそ、天界に確認し、どんな状況になっているのか調べようと思ったわけだ。
魂の転生には、天界も関与している。転生を司る神もいるし、俺が関与していないのだから、奴らが関与しているのは間違いないはずだ。
しかし、連絡をしてもガチャ切りされるばかりで、全然情報が降りてこない。
ここまでくると、もはや隠蔽しているとも取れる。
だからこそ、こうして直接出向いてきたわけだ。
「おい、通してくれ」
「あなたは……冥界王ですか? 仕事をほっぽりだして、なぜこのような場所へ」
「確認したいことがあってな。連絡だけで済ませられたらよかったんだが、そっちがいつまで経っても答えてくれないもんでな。わざわざ足を運んでやったというわけだ」
「それは日頃の態度の問題だと思いますが……あなたも神の一柱、私達には止めることはできませんが、あまり問題を起こさないでくださいね」
「それが神に仕える者の言葉かねぇ。ま、いいや。んじゃ、通らせてもらうぜ」
門番と一悶着の後、天界へと入る。
俺は天界とは少し仲が悪い。
奴らは、俺の態度が良くないと言うが、別にちゃんと仕事はしているし、さぼっているわけではないはずだ。
まあ、それは向こうも同じなんだろうが、やってることはそう大差ないはずである。
それなのに、どうしてここまで嫌われるのかが理解できない。
まあ、強いて言うなら、冥界という場所を忌み嫌っている奴がいるからというのはあるだろうが。
冥界は、天界よりも地上に近い。そして、神は地上には降りられない。
なぜ降りられないのかは俺も知らないが、そう言う取り決めがあるらしい。
そんな場所に近い冥界は、穢れているとでも言いたいのだろう。そうやって、特に理由も知らぬまま、毛嫌いしている奴がいるのだ。
俺としては、冥界も悪くない場所だと思うが、箱庭育ちの神にはそれがわからない奴もいるらしい。
ま、別に俺もそこまで仲良くしたいわけではないから、別にいいんだが、こういう時は少し不便である。
さっさと用件を済ませて、茶菓子でも食べたいものだ。
「おーい、じーさん、いるか?」
「お前、シリウスか。今代の冥界王が、なぜこんなところに来た?」
「別に来たっていいだろ。先代と顔合わせしちゃいけないって決まりはないだろ?」
俺はとある家を訪ねる。
冥界王の座は、ある一定の時期に交代することになっている。
まあ、交代と言いながら、次の冥界王も自分だった、なんてこともあるらしいが、俺は先代の冥界王であるこのじーさんから、その座を預かった。
金糸の入った服を身に纏い、顔にはこれまた金をあしらった仮面をつけている。
趣味悪いなぁとか思いつつ、とりあえず用件を伝えることにした。
「聞きたいことがある。ここ最近、天界で転生させた奴はいるか?」
「なにを藪から棒に。そんなことを聞いてどうする?」
「重要なことだ。下手をしたら、アーリヤの時の再来になる」
「……なるほど。そう言うことか」
じーさんは、何かを察したのか、一つため息をついた後、教えてくれた。
ここ最近で、天界で転生させた人物はいないらしい。ただ、転生するように掛け合った人物がいたようだ。
その人物は、成長を司る、グウィネという神。今話題に出した、アーリヤの夫である。
「誰を転生させたかったんだ?」
「奴が欲する者など言われずともわかるだろう。だが、天界にいないものを転生させることはできない」
「まあ、そうだろうな」
グウィネのことはあまり知らないが、アーリヤのことを深く愛しており、アーリヤがいなくなった後も、ずっと想い続けていたようだ。
もし転生できるのなら、とっくにやっていてもおかしくないような人物。
しかし、天界が転生させることができるのは、天界にある魂のみ。アーリヤが天界に召されていないのなら、転生させることはできない。
そもそも、アーリヤはどこに行ったのかがわからなかった。天界にもいないし、冥界にもいない。
どこにいるかわからないからこそ、グウィネも焦ったってことだろうか。
すでにあれから数百年。ダメで元々で頼んだが、結局ダメだったってところかな。
「結局、あいつはどこに行っちまったんだろうな」
「さあな。だが、どこからかその魂は呼び戻され、一つの竜の器に収まった」
「ああ。誰がやったのかは知らないが、その意味をちゃんと理解してほしいものだな」
グウィネが呼び戻そうとしているのはまだわかる。だが、呼び戻した結果、どうなるかを考えると、あまり応援できない。
万が一にも、人間が呼び出したなんてことになったら、かつての戦争の再来である。
それだけは、阻止しなければならない。
「あの白竜、誰の仕業だと思う?」
「グウィネ、と言いたいところだが、それだけではないだろうな」
グウィネなら、もっと正確な姿形で呼び出すはず。しかし、それができない理由があったのなら、話は別だ。
やはり人間の仕業? そんな神に介入できるほどの力を、いつの間にか手に入れていたんだろうか。
「しばらくしたら、お前の仕事も増えるだろう。こんなところにいないで、さっさと冥界に戻ればいい」
「その仕事を減らしたいから来たんだけどな。どうにかできないもんか」
「今の神は地上への介入に消極的だ。呼びかけたところで誰も動かん」
「そうだよなぁ……」
最悪仕事が増えるのはいいが、アーリヤの生まれ変わりであるあの白竜が、また彷徨うことになるのは、少し納得がいかない。
どうにか止める手段はないものかと考えながら、しばらく話に興じていた。




