幕間:行方不明の召喚者
とある帝国の指揮官の視点です。
今回の作戦は失敗に終わった。
帝国が誇る、兵器開発部門が作り上げた戦闘機械、レイヴン。
その姿形に、多くの賛否が寄せられたが、その性能を見れば、誰もが黙り込んだ。
何物をも寄せ付けない鉄壁のボディに、剣状に放出された熱線による広範囲攻撃。
操縦者の訓練不足も相まって、その動きは鈍重ではあるが、どんな攻撃にもびくともせず、ただ熱を振りまくその姿は、まさに悪魔と言っていいだろう。
まあ、私としては、その機能だけを盛り込むのなら、人型である必要はないとも思うが、そこは兵器開発部門のこだわりかなにかだろうな。
さて、テストの時点でそれだけの性能があったレイヴンを、実戦訓練と称してとある村を襲撃する作戦が持ち上がった。
その性能を見れば、すぐさま戦争に赴いても大活躍できそうだが、上は慎重な姿勢らしい。
もちろん、最新兵器を間近で見られるということもあって、作戦に文句はなかったが、これが実戦配備されたらどうなることやら。
今回の作戦で一番面倒なのは、道中だろうと踏んでいた。
兵器が巨大なのは言わずもがなだが、そんな巨体を目的の村まで到達させるためには、進路を確保しなければならない。
これまでにも、そう言ったことはよくあって、以前は悪路走行にも耐えうる兵器や車両の開発を進めていたようだが、最近は妙な方向に進んでいる。
まあ、性能はしっかりしているからいいのかもしれないが、おかげで進路確保班はてんやわんやだ。
木を伐り、道を埋め立て、均し、通れるように整備する。
単純なようで、相当大変な作業だけに、進みはとても遅かった。
それに、今回は色々と事故も多かった。
盗み食いをする者がいて、食料の備蓄が心もとなくなったり、些細なことで喧嘩をして、部隊の不和を生み出したり、ただの行軍でも、相当神経がすり減らされた。
これが戦争のためだったらもう少し気を引き締めていたのかもしれないが、今回は単なる実験。それも、百パーセント負けはないというものだった。
だから、こんなにも事故が起こったのだろう。
まあ、今考えると、それは単なる序章に過ぎなかったのかもしれないが。
「大丈夫か?」
「は、はい、大丈夫です……」
先にも言ったが、今回の作戦は失敗した。
百パーセント成功するはずの作戦だったにもかかわらずだ。
その原因は、村になぜか存在した神殿の勢力。そして、謎の少女の存在である。
神殿に関しては、恐らく作戦がどこからか漏れていたのだろう。
妨害するつもりだったのか、何なのかはわからないが、帝国は神殿にとって仇敵とも呼べる存在。邪魔をしたくなる気持ちはわかる。
ただ、もう一方、少女の方は、本当によくわからなかった。
神殿すら恐れおののくレイヴンの前に飛び出したかと思えば、殴る蹴るで足止めし、派手な魔法でよろめかせ、最終的にはよくわからない魔法で消し飛ばしてきた。
耐久テストでは、絶対に破壊されることはないと豪語されていたレイヴンが、一人の少女にあっけなく負けたのだ。
もちろん、機体の性能が良くても、操縦者が未熟ならすべての力を発揮することはできない。
レイヴンのような兵器は、まだ作られてから間もなく、操縦者の技量も未熟だったのはもちろんあるだろう。
しかし、それを差し引いても、ただの子供が勝てるようなものではない。
最初は、神殿の隠し玉か何かかと思ったが、本人の口から、違うと言われた。
まあ、嘘かもしれないが、あの場で嘘を吐く理由が見つからない。
むしろ、神殿なら、自分達が上だと示すために、派手な口上付きで名乗ってきてもおかしくないからだ。
しかも、不可解なのは、そうして敵対していたにもかかわらず、操縦者を助け出してくれたこと。
あれこそ神殿の攻撃だったかはわからないが、レイヴンのコックピットに炎をまとわりつかせ、蒸し焼きにする作戦を取られ、操縦者は危機に瀕していた。
それを、少女は強引にレイヴンを破壊し、操縦者を救ったのである。
さらに言うなら、服が焼き切れるほどのやけどを負っていたにもかかわらず、すべてを治療して見せるという奇跡付きで。
あれは、ただの人間ではない。もっと、得体のしれないものだった。
「本当に、痛む部分はないのだな?」
「はい。この通り、動きに支障もありません」
作戦の失敗により、撤退することになったが、操縦者に何度確認しても、ぴんぴんしているという。
恐らくは治癒魔法。だが、あれほどのやけどを瞬時に治療できる魔法など存在しない。
そこまで考えて、一つ思い出したことがあった。
帝国はここ最近、勇者召喚の儀式に傾倒しており、今までにも幾度となく勇者召喚が行われてきた。
そんな中で、一つ気になることを聞かされていたのだ。
曰く、勇者召喚によって呼び出した者が行方不明となっている。それを探し、連れて来いと。
勇者召喚に関しては実際に見たことはないが、召喚者はその場に現れるのではなかっただろうか? それが、行方不明とは、何ともおかしな話である。
私も、その時は頷いたが、特徴も何も知らされなかったので、探しようがないと思い、記憶の片隅に追いやっていた。
でも、確か名前だけは知らされていた気がする。
確か名前は……。
「アーリヤ、か……」
召喚された勇者は、皆独特な名前をしていることが多いらしい。
かくいう今回のレイヴン開発にも勇者が関わっており、その方も周囲と浮くからという理由で略称使っていたはずだ。
それに当てはめるなら、アーリヤという名前は勇者らしくはない。
一体、何者なんだろうか。
「申し訳ありません、私のせいで、このような……」
「……ああ、いや、気にすることはない。むしろ、あれを予測できる方がどうかしている」
今回の作戦失敗の要因は、間違いなくアーリヤと思われる少女だが、根本的な原因はもう一つある。
それが、突如乱入してきたドラゴンだ。
ドラゴンは、半壊したレイヴンを持ち去り、いずこかへと消えていった。
大事な最新兵器を持ち去られたというのは、大失態ではあるが、あんなもの、どう予測し、回避しろというのだ。
持ち去られていなくても、レイヴンは半壊していたし、戦闘続行は不可能だったが、ドラゴンにとっさに対応できる人類など、この世界に存在しない。
故に、あれは仕方のない事故だった。
「でも、この結果では、もしかしたら……」
「大丈夫だ。少なくとも、君の首が飛ぶことはない」
しかし、どんな理由であれ、兵器を奪われてしまったのは事実。
責任追及は免れないし、もしかしたら、物理的に首が飛ぶかもしれない。
神殿と戦ったことを言い訳に、虚偽の報告をしてもいいかもしれないが、どっちにしろレイヴンを失った事実は変わらない。
すべては上の判断次第だが、これが私の最期の作戦になるかもしれない。
だが、不思議と恐怖は感じない。
ちらりと浮かぶのは、あの少女の顔。あの顔を思い出すと、なぜか安心できる。
根拠のない自信だが、どのみちやることは変わらない。
せいぜい、降格処分で済むことを祈るとしよう。
そう考えながら、士気の低い部隊を率いて戻るのだった。




