第三百七十三話:気分転換
『声ねぇ……。持ち主の幻獣の声だとして、他には何も言っていなかったの?』
「なにも」
『居場所でも言ってくれたら楽だったけど、そう言うわけにもいかないか』
声が聞こえたということで、この魔石がグウィネが遣わせた幻獣のものだということはほぼ確定したようなものだが、結局何も解決はしない。
その幻獣の居場所もわからないし、それこそ帝国を攻め落とすとかしない限り、取り返すのは難しくなっている。
それに、幻獣の命が大切とはいえ、助けたところで大本の問題が解決するわけでもないというのが問題だ。
なにせ、すでに召喚はされてしまっているわけで、幻獣を取り返すことによって防げるのは、新たな召喚くらいである。
もちろん、新たな犠牲を出さないためにも、取り返すことは必須ではあるけど、帝国の目的は変わらないわけで、どうやったら説得できるのかはわかっていない。
本当に、俺がいなくなるくらいしか解決方法が思いつかないんだけど。
「とにかく、潜入部隊を通じて、魔石の行方は逐一報告してもらおう。取り返すにしても、帝国の中心で暴れるわけにもいかないし、離れたところを狙って回収する時間は必要でしょ」
「そうだな。魔石の欠片が回収できれば、必然的に反応も減る。周りをすべて回収できれば、いずれ本体に辿り着くだろう」
「気の長い話だがな」
帝国に戦争を仕掛けるわけにもいかない以上、今できることは、魔石の欠片の行方を調査すること。そして、回収できそうなタイミングが来れば、すぐさま赴き、回収することくらいだ。
もどかしくはあるけど、じっくりやっていくしかない。
『一応、私はラウドのところに顔を出してみるわ。万が一があるかもしれないしね』
「わかった。何かわかれば、すぐに連絡しろ」
『そっちが出てくれたらね。それじゃあ、また』
そう言って、シリルさんとの会話は途切れた。
さて、やることは決まったとはいえ、俺のやることはただ待つことくらい。
捕らわれた幻獣のことは気になるけど、情報がなければ動きようがないからね。
ただ待っているって言うのは苦手なんだけど……そういえば、リトが何か言っていたような?
「ねぇ、きになること、なに?」
「ん? ああ、その事か。冥界王のことだ」
「?」
冥界王と言えば、冥界を管理する神様である。
楔を打った幻獣の候補として、冥界の幻獣が挙げられた時もあったけど、ルーナさんの情報により、グウィネの仕業だということがわかったので、行く必要もなくなっていた。
というか、元々冥界は冥界王の許可がなければ入ることすらできないし、わざわざ行くところでもない。
何か気になることでもあるんだろうか?
「少し聞きたいことがあってな。ラスクに頼んで、連絡をつけてくれるように頼んでいたんだが」
「ああ、うん、残念だけど、今だに連絡がつかないよ」
リトがちらりとラスクさんを見ると、ラスクさんは肩をすくめてそう言った。
すでにそれなりに日にちが経つけど、未だに連絡がつかないのか。
やっぱり、何かあったんだろうか?
「冥界のシステムは正常に機能してるし、冥界から罪人が溢れ出たとかの報告もない。冥界で何か起こったわけではないと思うよ」
「じゃあ、なんで?」
「さあねぇ。よっぽど手のかかることに手を出しているとか?」
冥界王ですら手こずるようなことってなんだろうか。
あの人には恩もあるし、何か困っているなら助けてあげたいところだけど、そもそも行けないしなぁ……。
いや、俺一人だったら行けるけど、他のみんながついてこれない。
冥界では、潜る度に何かを奪われる。俺は、そのシステムが効かないみたいだから、何とかなるけど、他はそうじゃないからね。
「やれやれ、使えんな。割と重要なことなんだが」
「それは、白竜君のため?」
「……ああ、そうだ。貴様にも後で協力してもらうか」
「仕事を増やさないでほしいんだけどなぁ」
なにやら険しそうな顔をしているけど、どういうことなんだろうか。
イグニスさんも、少し複雑そうな顔をしているし、気になる。
けど、リトもイグニスさんも、聞いても教えてくれなかった。
元から、何かしら秘密にされていることは多いけど、なんだかなぁ……。
「まあ、いないもんは仕方がない。これからどうするか」
「待機ですか?」
「それが一番ではあるが、あんまり長引くとな」
ちらちらとこちらを見ながらそう言うリト。
まあ、数日くらいだったら待機していてもいいけど、数ヶ月とかかるなら、俺は多分耐えられない。
引きこもりたくないというのはあるけど、それ以上に、何かしていないと落ち着かないのだ。
今こうしている間にも、誰か困っている人がいるかもしれない。そう考えると、一か所に留まっているのがどうにも悪いことに思えてしまう。
帝国や神殿に狙われている今、あんまりむやみに外に出るのは悪手ではあるのかもしれないけど、いつまでもその生活を続けることはできないし、だったら好きなように生きたい。
みんなには心配かけちゃうけどね。
「あはは……いっそのこと、観光にでも行って来たら? ほら、気分転換に」
「観光と言っても、どこに行くのだ?」
「そうだなぁ……花の都とかどう?」
「ああ、あそこか」
花の都、なんだか楽しそうな雰囲気である。
観光している場合じゃないのかもしれないけど、どちらにしろ、今できることはないし、それなら羽を伸ばすのもいいのかもしれない。
いつまでも、ずっと緊張していては、疲れてしまうしね。
「今の時期なら、ちょうど綺麗な頃合いだろうしね」
「ふむ、まあ、悪くはないか。毎回厄介事がやってくるわけでもあるまいしな」
「だといいんですけどね……」
フェルがちょっと苦笑しているけど、そんな毎回毎回トラブルは起きない、と思う。
まあ、今なら神殿とか帝国の勢力がいる可能性もあるから、絶対とは言い切れないけどね。
それにしても、町に入るのが嫌いなリトが、悪くないというのは、珍しい気もする。
そんなに綺麗な場所なんだろうか?
「どんな、ところ?」
「その名の通り、花が綺麗な都だ。町を作る段階から、美しく映えるように街並みが整えられていて、毎年開花の時期には多くの観光客で賑わう場所でもある」
「おー」
その後も、色々と見どころを教えてもらったけど、普通に楽しそうな場所だ。
リトも、どうせ観光するならそう言うところをチョイスしてくれたらいいのに、と思ったけど、口には出さないでおこう。
リトにとっては、観光というより、修行の旅だろうしね。俺みたいに、欲望のままに旅をしたいというわけではないだろうから。
俺は、本格的な観光地にわくわくしつつ、出発の準備を整えるのだった。
今回で第十四章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十五章に続きます。




