第三百七十二話:該当する者
しばらくして、ラスクさんがハーピーを連れて戻ってきた。
普段は、こんなに呼び出されることは少ないのか、ハーピーの人も少しうきうきした様子だった。
連絡役って、そんなに名誉なことなんだろうか? 重要な役職ではあると思うけど。
「よし、さっそくシリルに繋げろ」
リトの言葉に、ハーピーは目を閉じて集中する。
しばらくすると、繋がったのか、シリルさんの言葉を伝えてくれた。
『あら、リト。そろそろ連絡をくれるころじゃないかと思っていたわ』
「その様子だと、こちらの聞きたい情報はすでに掴んでいるということか?」
『ええ。先日大立ち回りした末に手に入れた、得体のしれない機械に入っていた魔石の話でしょう?』
どうやら、シリルさんはあの時のことを知っているらしい。
あの近くにハーピーがいたのか、それとも自力で調べたのかわからないけど、話が分かっているなら都合がいい。
さっそく、例の幻獣について教えてもらうとしよう。
「それで、土の幻獣、ラウドの居場所はどこだ」
『え、ラウド? その魔石の持ち主って、ラウドなの?』
「なんだ、知っていたんじゃなかったのか?」
シリルさんの反応に、少しびっくりしてしまった。
すべてを知ってそうな感じだったのに、名前は初耳なのか?
リトはどうやらその幻獣のことを知っているようだけど、どういう関係なのか気になるね。
『ああ、いえ、ラウドの名前が出るとは思っていなくて』
「どういうことだ? あの魔石は、ラウドのものではないのか?」
『い、いえ、その可能性もないことはないと思うけど、ラウドが帝国に捕まると思う?』
「思わんが、これほどの力を持つ魔石となると、候補は限られるだろう」
見つかった魔石は、砕かれてなおかなりの力を誇っていた。
そもそも、魔石は素の状態だと、魔力を使ったらその分内包している魔力はなくなっていく。
そして、小さければ小さいほど、内包している魔力も少なくなるわけで、あんなでかいロボを動かしていたのに、未だにこれだけ強い力を保っているのは、相当な量の魔力を誇っていたということだ。
欠片でそれなら、実際の大きさではもっと強かったはずだし、だからこそ、その候補となる幻獣は少なかった。
一般的に、その属性において最強と呼ばれている幻獣なら、それに当てはまると思い、土の幻獣、ラウドさんが話に上がったわけだけど、シリルさんは、別の誰かだと思っているってことだろうか?
『確かに、あの巨体を容易に動かせるとなれば、その候補は限られるでしょう。その様子だと、魔石は思ったより小さかったってことかしら?』
「ああ。小さく砕かれていて、それでもなお相当強力な魔力を持っていた」
『なるほどね。でも、その魔力。もし本来の大きさの魔石となっていた場合、該当する幻獣は、そもそもいないんじゃない?』
「どういうことだ?」
シリルさんの予想では、もし、砕かれずに元の状態の魔石だった場合の魔力は、幻獣の器に収まるようなものではないのではないかということらしい。
確かに、いくら最強とは言っても、リトの魔力は天井が見える。この魔石のように、底なしのような魔力ではない。
もちろん、俺に比べたら底なしと言っていいレベルかもしれないけど、少なくとも、全盛期のリトよりも、数倍強い魔力を持っていることになる。
そんな幻獣が、いるのかという話だ。
『恐らくは、元は普通の幻獣だったけど、神の力を与えられて、魔石が強化されたということでしょう。そこに宿っているのは、神の力なんじゃない?』
「ふむ、なるほど。確かに、砕かれてなお、ここまでの魔力を誇っているのは異常ではある。元は普通の幻獣だったのか?」
『あるいは、このためだけに作り出された幻獣なのかもね』
幻獣を送り出したのは、グウィネだ。その理由は、アーリヤを呼び戻すため。
アーリヤの夫であるグウィネなら、そこにかける想いは相当なものだろうし、新しく幻獣を作り出していてもおかしくはない。
どんな幻獣かは知らないけど、俺達の知っているものではないのかもしれない。
「しかし、そうなってくると、一気に手掛かりがなくなるな。痕跡を追うにしても、知らない幻獣では精度が下がる」
『帝国に囚われていることは間違いないんでしょう? なら、潜入部隊が見つけてくれるんじゃない?』
「実際どうなのだ?」
「それなんだけど、あちこちから妙な気配はするんだけど、どれが本物なのか見分けがつかないみたい。多分、砕かれた魔石が使用されている兵器に反応してるんじゃないかな」
「本体がわからないわけか。いっそのこと、全部回収するしかないか?」
最悪の場合、すでに死んでいる可能性もあるけど、生きているとするなら、どのみち魔石は回収しなければならない。
砕かれた魔石を繋ぎ合わせても意味はないけど、同じ魔石から砕かれたものなら、本人がいれば取り込むことはできるだろう。
最悪、食らえば糧とできるし、力を取り戻すにおいては不可欠なものだ。
ただ、いくら潜入部隊が優秀でも、帝国のど真ん中で騒ぎを起こすことはできない。
レイヴンも結構強かったし、あれが複数出てくるとなれば、幻獣でも対処しきれないかもしれない。
ただでさえ、厄介な捕獲装置があるしね。
『つまり、帝国の守りを突破しないといけないわけね』
「結局、帝国を潰す必要があるわけか」
「そ、それは……」
「わかっている。できるだけ被害を出したくないというのだろう? 全く、この期に及んで何を言っているのか」
文句を言いつつも、一応は考慮に入れてくれる当たり、やっぱり優しい。
しかし、帝国になるべく被害を出さず、どこにいるかもわからない幻獣を助け出すって言うのは、現実的に不可能だ。
せめて、何か目印でもなければ……。
『……ねぇ、その幻獣は、アーリヤを呼び戻すために、方々を回っていたのでしょう? なら、アーリヤの生まれ変わりである白竜ちゃんが接触すれば、何か反応があるんじゃない?』
「まあ、一理あるな」
そう言って、みんなの視線が俺に向く。
確かに、その幻獣の目的はアーリヤ、つまりは俺なわけで、俺が接触すれば、何かしらの反応を返してもおかしくはない。
たとえ姿も記憶さえも全く違うものだとしても、魂はアーリヤのもののはずなんだから。
俺は、ラスクさんが持っている魔石の欠片に視線を向ける。
今のところ、強い魔力を発しているというだけで、反応はないけど、直接触れてみたらどうだろうか?
「らすくさん、ちょっと、かして」
「あ、うん」
俺は、ラスクさんから魔石の欠片を受け取る。
すると、その瞬間、欠片がまばゆい光を発した。
『アーリヤ……アーリヤ……』
ふと、頭の中に何か声が聞こえてくる。
男性の声? 幻獣の声だろうか。
それはすぐに遠のいていき、光も徐々に収まっていく。
今のは、なんだったんだろう?
聞いたことのない声だったけど、でも、なんとなく、暖かな気持ちが胸の中を駆け巡っていった。
今のは、一体……。
「だ、大丈夫?」
「あ、はい、だいじょうぶ」
「なにがあった?」
俺は、みんなに先程の声のことを話す。
恐らくは、魔石の持ち主の声。アーリヤの名を呼んでいたことを考えても、そうだと予想ができる。
わかったことは、男性っぽいということくらいだけど、何かの手掛かりになるだろうか?
俺は、不思議な感触がする胸を抑えながら、先ほどの声のことを思い返していた。




