第三百七十一話:幻獣の候補
「この魔石だけど、幻獣のもので間違いはない。けど、出力は相当なものだね」
「そのようだな。この小ささで、これだけの魔力があるのは異常とも言える」
魔石って言うのは、基本的には大きければ大きいほど魔力が多いとされている。
魔石は他の魔石を食らうことで成長し、より多くの魔力を溜め込めるようになる。
強くなるための手っ取り早い方法に、魔石をたくさん食べるというのがあるけれど、魔物は本能的にそれがわかっているから、積極的に食らうらしい。
俺も、リトから食べるように言われたこともあるけど、普通にまずいからあんまり食べたことはない。
せいぜい、人化が解けるほどに魔力が少なくなった時に、緊急で食べるくらいか。
そんな魔石なのだけど、これだけ小さい割には、その魔力の量が異常らしく、名のある幻獣の魔石と言われても過言ではないらしい。
どう考えても、これが正規の大きさではないことは明白だし、砕かれてなお、これだけの魔力を秘めているということは、この魔石の主である幻獣が、いかに強力な存在なのかがわかる。
「この様子だと、もっと細かく砕かれて、いろんな場所に使われていそうだね」
「扱いが道具以下だな。魔石を使う魔道具職人ですら、こんな雑に小さくしたりはせんぞ」
「それだけ強力なのがわかっていたんだろうね。ただ、そうなると、何で捕まっちゃったのかが気にかかるけど」
この小ささでこれだけ強いなら、完璧な状態なら、それこそ幻獣の頂点に立ってもおかしくないほどの出力のはずである。
そんな強力な幻獣が、いくら幻獣を捕える兵器があるとはいえ、そう簡単に捕まるだろうか?
「罠にでもかかったか、それとも……」
「そこらへんはわからないけど、それだけ強い幻獣というなら、誰なのかはある程度絞り込めてくるよね」
幻獣にもピンからキリまでいるが、これだけ強力な幻獣となれば、見当がつくらしい。
幻獣の中には、それぞれの属性に特化した頂点に君臨する者がいる。
特に、基本属性である火、水、土、風の幻獣は数も多く、その道では有名だという。
「此方としては、火か土の幻獣あたりが怪しいと思うんだけど」
「それはなぜですか?」
「他は生存が確認できてるからね。もしかしたら、会ったこともあるんじゃない?」
「うーん?」
そんな凄い幻獣と、会ったことなんてあるだろうか?
ぱっと思いつく限りだと、火ならイグニスさんがそれなりに強そうだけど、ここで上がらないってことは違うのかな。
そもそも、どういう基準で選ばれているのかもわからないし、本当に最強なのかどうかもわからない。
「火は違うだろうな」
「おや、なんでわかるの?」
「……我のことだからだ。今の姿では説得力がないだろうがな」
「え、そうだったんだ? それは意外」
そう思っていたら、リトが答えを言ってくれた。
確かに、全盛期のリトなら、最強と言っても差し支えないかもしれない。
幻獣の中でも最上位と言われるようなドラゴンのイグニスさんよりも強いと考えると、相当だよね。
なんか、改めて尊敬したかもしれない。
「火の幻獣は放浪癖があって、滅多なことでは姿を現さないとか聞いたことあるけど、まさか彼方がねぇ」
「我は最強などと思ったことはないがな。転生の時期も考慮すれば、最強の名を与えられる奴は他にもいるだろうよ」
「まあ、そう呼ばれるだけの逸話があるってことだし、実力は確かなんじゃない? 実際、此方から見ても、相当強いと思ってるし」
「世事はいい。それより、残りの土の幻獣だ」
「あ、そうだね」
土の幻獣で、最強と呼ばれているのは、ドラゴンらしい。
各地の竜脈の力を借り、幾多もの魔物を屠ってきた英傑なんだとか。
ユグドラシルにも、時たま顔を出すらしいのだけど、ここ最近はぱったり姿を見せなくなり、連絡もないから、今どこで何をしているのかわからないのだそうだ。
「一応、最後に連絡をよこした時は、帝国の近くの地域に寄るような話をしていたから、可能性はあるかもね」
「その時に捕まったという話か? 最後に連絡をよこしたのはいつだ?」
「確か、百年くらい前かな」
リトは、少し考え込むように腕を組む。
その土の幻獣が楔を打った幻獣であるなら、楔が打たれなくなった時期に捕まったと考えるのが妥当だろう。
しかし、幻獣によって打たれたと思われる楔は、ここ数十年の間まで打たれているという話だった気がする。
となると、百年も前に囚われたというのは、少し時期が食い違うことになる。
まあ、行ってすぐに捕まったのではなく、ある程度してから捕まったと考えれば、辻褄は合うかもしれないけど、ちょっと微妙か?
でも、他に候補もいない。こんなに強力な魔力を持つ魔石なのだから。
「ちなみに、水と風はどんな幻獣なんですか?」
「水はドラゴン、風は鳥だね。鳥の方は、知っているはずだけど」
「? 誰ですか?」
「シリルだ。自分で戦うことは少ないが、その魔力は唯一無二と言える」
「へぇ……」
リトが何度か連絡を取っているというシリルさんか。
俺も少し話したことがあるけど、あの人がねぇ……。
会ったことはないけど、世界のことを色々知っているようだし、その土の幻獣のことも知っているんじゃないだろうか?
「ふむ、確かにシリルなら何か知っていてもおかしくはないか。最近は、後手に回っていたし、そろそろ有益な情報が欲しいところだな」
元々、リトはシリルさんに頼んで、世界の情勢を観察していた。
俺が、何者かに召喚された可能性を考慮して、先手を打っていたみたいだけど、結局あまり有効な場面はなかったらしい。
まあ、ユグドラシルを攻められた時とか、すでに情報は持っていたし、情報屋としては有能な気がするけど、どうしても連絡速度が足りないんだろう。
そう言う意味では、帝国に潜入した部隊はやたらと連絡が早いけど、何か特殊な能力でも持ってるんだろうか?
「ちなみに、水の方はレヴィアだ」
「そんな凄い人だったんですね」
「海で奴に敵う奴はおらん」
なんか、意外に知り合いが多くてびっくりである。
世界って案外狭いもんだね。
「それじゃあ、ハーピーを通じてシリルに聞いてみようか。こっちじゃ手に入れてない情報も、あるかもしれないしね」
「なら、さっさとハーピーを連れてこい」
「オッケー。ちょっと待っててね」
そう言って、ラスクさんは去っていった。
これで、土の幻獣について少しでもわかることがあれば、楽に動けそうだけど、どうなるかな。
俺は、少しそわそわしながら、ラスクさんが戻ってくるのを待った。




