第三百七十話:解決の道
ひとまず、レイヴンの解析をするということで、しばらくユグドラシルに滞在することになった。
いつもの部屋を与えられ、日々そこでボーっとしているのだけど、やっぱり、考えてしまう。
帝国も神殿も、アーリヤを狙っているけれど、逆に考えれば、アーリヤがいるからこそ、狂ってしまったとも言える。
アーリヤは、神様の力を手に入れてから、様々な人にその恩恵を分け与えてきた。
しかし、その力が大きすぎたからこそ目をつけられ、自分達の手のうちに入れようと考えるきっかけを与えてしまった。
つまり、アーリヤが力を持たなければ、帝国も神殿もそこまで目をつけることはなかったんじゃないだろうか?
もっと言うなら、アーリヤという存在自体しなければ、戦争も起こらなかったはずである。
過去は変えられないから、俺が召喚されてしまったのは仕方ないかもしれない。けれど、そんな俺が、何の力も持たない、ただの人間とかだったらどうだっただろう?
ドラゴンではなく、ただの一般サラリーマンとして転生していたら、こうして狙われることもなかったんじゃないだろうか。
ドラゴンという、強力な幻獣の力を持ってしまっていることが、問題を大きくしている。
であるなら、俺はすべての力を消し去ってしまった方がいいと思う。
あるいは、先ほども考えたけど、元の世界に戻る方法があるのなら、それもいいかもしれない。
この世界にいることで問題が起きるのなら、元の世界に帰ってしまえば問題はなくなるわけだから。
「また、もどる……?」
ふと、社畜時代のことを思い出す。
あの頃は、本当に大変だった。
日々ストレスをため続け、責任だけが膨らみ、世界から色が失われていった。
そんな牢獄のような場所に、戻る? ……考えたくない。
「でも、ひきこもるも、ちがう」
一番簡単な対策があるとすれば、人前に姿を現さず、ただじっと引きこもっていること。
人に会わなければ、帝国も神殿も手出しできないし、アーリヤの力を巡って戦争が起きることもない。
でも、それでは以前の生活とほぼ変わらない。
いや、精神をすり減らしながら仕事するのと、ただぼーっと過ごすのだったら、後者の方が楽かもしれないが、どこへも行けないという点では、どちらも同じことだ。
俺の夢は、世界を見て回り、自由気ままに生きること。
せっかく、自由に飛び回れる翼を得たのに、それを手放すなんてことは、できない。
結局俺も、欲にまみれた人間の一人なのかもしれないね。
「ね、ねぇ、ルミエール」
「ふぇる」
もやもやと考え込んでいると、フェルが話しかけてきた。
どことなく、ぎこちなさを感じるが、何かあったんだろうか?
「えっと、散歩でもしない? 今日はいい天気だし」
「? うん」
引きこもっているのもつまらないし、散歩に行くのは賛成だ。
俺は、フェルの手を取り、外へと出る。
このユグドラシルも、結構探索してきたけど、未だに行ったことがない場所があるくらい、広い場所だ。
大型ショッピングモールみたいなものだろうか? いや、それと比べるのはちょっと失礼かもしれないが。
そこかしこにいる幻獣や人化した姿を眺めながら、歩く。
ここらへんは何度か見た景色だけど、それでも気分転換にはちょうどいい。
「……ねぇ、ルミエール」
「ん?」
「ルミエールは、いなくなったりしないよね?」
ちょっと俯きながら、わずかにこわばった声で聞いてきた。
まさしくそんなことを考えていた身としては、とっさに応えることはできなかったけど、それをどう受け取ったのか、フェルはぎゅっと俺の手を握ってきた。
「お願い、どこにもいかないで。私、ルミエールがいなかったら、とても……」
「ふぇ、ふぇる?」
「……ルミエールは、私にとっての光なの。何もかも失った、私にとっての希望の光。どうか、その光を消さないで」
どうやら、俺が思いつめていたことが顔に出ていたのかもしれない。
確かに、元の世界に帰るとなったら、フェルはもちろん、リトやイグニスさん達とも別れなければならない。
フェルに関しては、初めてできた人間の友達だったし、今や伴侶になるくらいには親密な仲になれた。
そんなフェルを置いて、元の世界に戻る? ……そんなこと、できるわけがない。
名付けてもらった恩もあるし、俺の心の拠り所でもあるし、俺にとっても、フェルは光かもしれない。
夢物語でも、俺がいなくなるかもしれないと思えば、真剣になるのも頷けた。
「いなくならないよ」
「ほんとに? 自分が消えれば解決だとか、思ってない?」
「おもってたけど、きえないよ」
「ッ!?」
息を飲む音が聞こえた。
今のは、思ってないと言うべきだったかな。ちょっと反省。
俺は、フェルにしゃがむように促し、そっと抱きしめる。
俺が消えれば、解決するかもしれないが、それでは幸せになれない人がいる。
もちろん、どんな形であれ、すべての人が幸せになるような結末にはならないかもしれないけど、少なくとも、手の届く範囲くらい、幸せになって欲しいと思う。
フェルも、リトも、みんな。
「ルミエール……」
「よしよし」
しばらくの間、抱きしめていると、ようやく落ち着いてきたのか、フェルは立ち上がった。
ちょっと泣いていたような気もするけど、悟られないようにか、そっと笑って見せていた。
こんな顔させちゃうのは、伴侶として失格かな? せめて、悩むにしても見えないところでやった方がいいかもしれない。
その後、しばらく散歩した後、部屋に戻った。
部屋には、少し不機嫌そうなリトの姿があった。
「戻ったか。どこへ行っていたのだ?」
「ちょっと、さんぽ」
「ふむ、まあいい。それより、ラスクが呼んでいたぞ」
「らすくさん?」
ラスクさんは、あれからレイヴンの解析と魔石の取り出しのために、しばらく引っ込んでいた。
まあ、実際に指揮をしているのは分身かもしれないけど、それ以外にも忙しかったのかもしれない。俺達の下に訪れることはなかった。
そんなラスクさんから呼び出しとは、何かわかったのかもしれないね。
「我も気になることがあるし、さっさと用件を済ませよう」
「きになること?」
「後で話す」
リトの気になることも気になるけど、今はラスクさんの用件が先か。
俺は、リトに言われるままに、ラスクさんの下へと向かう。
ラスクさんがいたのは、倉庫のような場所だった。
ユグドラシルには、古今東西から様々なものが集まるらしく、それらを集積しておく場所があるらしい。
と言っても、ここはその一部で、言うなれば安全かどうかを判断するための関所のようなところらしいが。
なぜこんなところなのかと思ったけど、その理由がすぐにわかった。
なにせ、でかでかと鎮座するレイヴンの姿があったから。
「やあ、来たね。急に呼び出してごめんね」
「もんだい、ない」
「ここに呼び出したということは、魔石の取り出しが終わったのか?」
「うん、手こずったけど、何とかね」
そう言って、ラスクさんはその魔石を見せてくれた。
小指の爪ほどの大きさの小さな魔石。明らかに、本来の大きさではなさそうだけど、こんな小さな動力であのロボを動かしていたのか?
俺は、幻獣の力に感心すると同時に、捕らわれた幻獣はどうなっているのだろうと顔をしかめた。




