第三百六十七話:レイヴンの奪取
レイヴンはかなり硬かった。
威力を高めた攻撃でも、ちょっと怯むくらいで、破壊されることがない。
これは、俺が手加減しすぎなのか?
確かに、なるべくパイロットを傷つけないようにとは考えているけど、割と本気で攻撃してるんだけどな。
そうこうしている間に、剣も引き抜かれちゃったし、また振出しに戻ってしまった気がする。
あんまり手こずると、撤退されてしまう可能性もあるし、そろそろ決着をつけたいところだけど。
「ええい、いつまで手をこまねいているのだ!」
そんな言葉と共に、背後から炎の球が飛んでくる。
炎の球は、そのままコックピットに着弾し、その周りを炎上させた。
俺は思わず振り返る。そこには、呆れ顔のリトの姿があった。
「魔法の使い方は教えただろう。それに、多少破壊してもいいと言ったはずだ」
「でも……」
「貴様の考えていることはわかる。だから、少しは頭を使え」
そう言って、リトは顎でレイヴンを示した。
相変わらず、レイヴンは健在のようだったけど、よく見ると、先ほど着弾した炎がまだ消えていない。
燃えるものはないし、いつまでも燃えるのはおかしな話だけど、もしかして意図的にやっているんだろうか?
「操縦者がいるのなら、それは人間だ。いくら外装が硬かろうと、人間の脆さは変わらない。こうしてあぶってやれば、いずれ蒸しあがって動きが止まるはずだ」
「いや、それは……」
それって、下手したら死ぬよね? 周り全部熱を通すものなんだから、火傷どころじゃすまない気がする。
俺はとっさに、指揮官の方へと目を向ける。
指揮官は、トランシーバーのような通信機を持っていたが、そこからは断末魔が響いていた。
周りの兵士達が何とかして消火しようとしているけど、リトの炎がそんなもので消えるはずもない。
これは、早く助け出さないと本当に死んじゃう!
「り……にくす、やめて!」
「尊い幻獣の一部を使った兵器にまたがるのだ、これくらいの覚悟はしていただろう。むしろ、これくらいの覚悟もなく乗っているのなら、死んで当然だ」
リトは聞く耳を持たない。
俺は、すぐさまコックピットの下へと向かう。
水魔法で炎を消そうとするが、リトの炎はなかなか消えない。
いくら弱体化していようとも、炎に関することなら、リトの右に出る者はいないだろう。
近づいてみると、必死にコックピットのシェルターを叩いている音が聞こえる。
こういうロボって、脱出装置がついていそうなものだけど、ないんだろうか?
もはや、助け出すには壊すしかない。
「もう、どうにでも、なれ!」
俺は、頭を元の姿に変化させ、ブレスの準備をする。
これまですべての攻撃を弾いてきたなら、これくらいしなければ壊せない。
この姿でブレスを放つのは初めてだけど、やるしかない。
息を大きく吸い込んで、それを勢いに変えて放つ。
レイヴンの至近距離から放たれたブレスは、その背後にあった森を巻き込んで、地平線の先まで吹き飛ばした。
「ぶじ!?」
レイヴンは、ブレスによって上半身が吹き飛んでいた。
とっさのことで、少し狙いが逸れたせいか、コックピットも半分ほどなくなっている。
しかし、内部にいた人は無事なようだ。
ぐったりとしているけど、まだ死んじゃいない。
俺はすぐさま頭を戻すと、その人を抱え上げて、地上へと降りる。
すぐさま兵士達に囲まれたけど、そんなことはどうでもいい。
俺は、治癒魔法で治療を試みた。
服の一部が焼け、肌が赤く腫れあがっていたけど、治癒魔法にかかれば、すぐさま治っていった。
「ぶ、無事なのか?」
「だいじょうぶ、ぶじ」
指揮官の男が走り寄って来る。
先程まで、敵と認定していた相手ではあるけど、パイロットを運び出したことで、優先順位が変わったようだ。
俺は、パイロットを指揮官に引き渡す。
指揮官は、すぐに兵士達に指示を出し、パイロットを運んでいった。
「貴様、一体何のつもりだ? 神殿が敵を助けるなど……」
「わたし、しんでん、ちがう」
「なに? では、貴様は何なのだ?」
「んー……」
幻獣と名乗ってしまおうとも思ったけど、帝国は幻獣を捕えているようだし、そもそもの狙いが俺の可能性があるから、あまり情報を明かしたくない。
なので、俺は曖昧に微笑むだけに留めた。
指揮官は、なおも言葉を重ねようとするが、それよりも早く、咆哮が轟いた。
「な、なんだ!?」
空を見上げれば、巨大なドラゴンの姿がある。イグニスさんだ。
イグニスさんは、半壊したレイヴンを掴むと、そのまま持ちあげて飛び去る。
半壊しているとはいえ、イグニスさんの体と比べても結構大きいのに、よく持ち上がったものだ。
でも、これでレイヴンに取り込まれている幻獣の一部を取り返すことができたし、最重要目的は達したかな。
「じゃあね」
「あ、ま、待て!」
俺は、指揮官がイグニスさんに気を取られている間にその場を飛び去る。
さて、ここからどうしようかな。
帝国は、神殿の抵抗の末に、兵器を失った。重大な損失ではあるけど、まあ、首を切られることはないだろう。
後は、このまま撤退してもらって、村に平和が訪れてくれたら、万々歳だけど。
「アーリヤ様! 一騎当千の活躍、しかと目に焼き付けさせてもらいました!」
村まで戻ってくると、巫女が興奮した様子で近寄ってきた。
隣には、呆れた様子のミトさんの姿もある。
下がってろって言ったのに、出てくるの早くない?
まだ戦闘は終わってないというのに。
「アーリヤ様にかかれば、あのみょうちきりんな兵器もイチコロですね!」
「しかし巫女様、肝心の兵器はドラゴンが持ち去ってしまったようですが」
「そんなもの、後で追いかければいいだけの話です! それよりも、今はアーリヤ様が神殿に舞い戻ってきてくださった、それが重要なのです!」
どうやら、巫女の中では、俺は神殿に行くことが決定しているらしい。
まあ、見ようによっては、神殿に味方したとも取れるし、元々巫女の目的はアーリヤを手に入れることだから、間違ってはいないのかもしれないけど、俺の意思を無視して話を進めないでほしい。
今回はたまたま巫女に味方する形になってしまったけど、俺は神殿にも帝国にも身を置くつもりはないのだから。
「まずは、帝国の残党を倒してしまいましょう! そうすれば、ゆっくり話せます!」
「はぁ……」
この期に及んで、退く気はないらしい。
ここはお互いに退き際だろうし、さっさと撤退すればいいのに。
俺はとっさに帝国の方に視線を向け、耳をそば立てる。
帝国としては、このまま撤退する気のようだ。
最重要の兵器を奪われてしまったし、今の戦力で神殿を相手にするのは分が悪いと踏んだらしい。
あっちの方がまだ理性的かな?
まあ、一部は反対の声も上がって、せめて神殿の勢力を潰さないと気が済まないって人もいるみたいだけど。
本当に、なんでこんな愚かなんだろう。
俺は、冷静な判断ができていない両者を見比べつつ、どうしたものかと頭を悩ませた。




