第三百六十六話:重いハンデ
レイヴンは、水蒸気によって視界を奪われているためか、動きを止めている。
まあ、元々動きが遅いから、止まっているように見えているだけかもしれないが、恐らく操縦しているのは人だし、視界に頼っているのは確かだろう。
しかし、ロボが出てきたのは色々な意味で予想外である。
この世界にしてはオーバーテクノロジーというのはあるけど、そもそもあのコンテナの中には、幻獣の気配がした。
それなのに、実際に出てきたのはロボで、幻獣のげの字もない。
俺の勘違いだったのかとも思ったけど、リトもイグニスさんも、同じく気配を感じていたから、勘違いってことはないだろうし、実際、今もロボから幻獣の気配を感じる。
まさかとは思うけど、幻獣がロボに改造されたとかないよね?
「どうなってる?」
「恐らく、あれの動力として、幻獣の一部が使われている。気配が小さかったのは、そのためだろう」
そう言って、リトは苦々しげな表情を浮かべる。
改造ではないけど、動力源として、幻獣の一部が使われている。ということは、魔物で言うところの、魔石を奪われたってことかな?
幻獣にも、魔石のようなものはあるし、魔力はそこに集まる性質がある。
元々、幻獣はそこらの魔物よりもよっぽど強力な魔力を持っているし、その一部でも、取り出せれば、エネルギー源としては十分すぎるものになるだろう。
でもそれは、その幻獣の力の源が失われたということでもある。
死んでいてもおかしくはないし、そうでなくても、かなり弱っていることは確かだろう。
いくら魔物として見られているとはいえ、そうまでして魔石を取り出したと考えると、かなり強引だよね。
「本当に、反吐が出る」
「どうする? たすける?」
「あれを奪ったところで幻獣は戻ってこない。が、その力の源である魔石を取り戻すことは重要だ。外枠は破壊しても構わんが、魔石だけは絶対に取り返すぞ」
「わかった」
目標が幻獣ではなかったというのは問題だけど、その一部が使用されているなら、取り戻す必要はある。
つまり、やることは変わらない。
「まずは動きを止めよ。動かなくなれば、イグニスが運んでくれる」
「そういわれても……」
話しているうちに、水蒸気が晴れてくる。
ロボの胸部にある球状のシェルター。外からは中の様子は見えないけど、恐らくはあそこがコックピットだろう。
破壊するのは行けそうだけど、中の人を傷つけないようにってなると、ちょっと難しいかも。
とりあえず、様子を見ながら戦ってみよう。
「あ、アーリヤ様、助けていただきありがとうございます!」
「さがってて」
「は、はい!」
前に出て、巫女を下がらせる。
近くにミトさんがいたけど、こちらを少し見た後、巫女を支えて下がっていった。
取り乱した巫女と違って、ミトさんは全然取り乱した様子がないけど、何者なんだろうね?
まあ、それはともかく、戦うにしても一つ問題がある。
それは、今の俺は、人化しているということだ。
基本的に、人化していると、若干弱体化する。
身体能力はそのままだし、魔法だって人間と比べたら強力なものが使えはするけど、元の姿で放った時と比べたら弱体化しているのは間違いない。
それに、重い攻撃を受けたら、それだけで人化は解けてしまうし、戦うにはかなり不利な形態なのだ。
でも、かといって元の姿に戻るわけにはいかない。
今、この場には村人達や巫女達がいるから、人の目がある。
あんまり幻獣の姿を人目に触れさせるわけにはいかないし、多少許容するにしても、神殿にあまり姿を知られたくない。
だから、このまま戦う必要がある。
オーバーテクノロジーのロボを相手にするには、ちょっと重いハンデだよね。
「でも、やるしかない」
俺は、フェルに目配せをして、タイミングを合わせる。
本来の姿を見せるわけにはいかないが、多少のぼろであれば、フェルの幻術で何とかしてくれるだろう。
絶対にしてはいけないのは、重い攻撃、例えば、あの剣の一振りを受けたりすること。
それさえなければ、ちょっと空を飛ぼうが、誤魔化せるはず。
なので、援護はフェルに任せ、俺は盛大に前に飛び出すことにした。
「はっ!」
まずは一撃、コックピット付近に殴り込んでみた。
魔法でもいいけど、ロボの耐久力がどの程度かわからなかったので、まずは小手調べと言ったところだ。
いくら人化した状態とは言っても、身体能力はそのまま。腕力なら、岩を破壊する程度には威力があるので、これで破壊できるなら楽でいいのだけど。
「さすがに、かたい」
間近で見た限り、シェルターは樹脂製か? でも、それにしては硬すぎる。他にも色々混ざっていそうだ。
俺は一度離れ、剣を持っている腕に向かって水の刃を放つ。
しかし、それもたやすく弾かれてしまった。
思ったより耐久性がある? 人化しているという弱体化を含めても、ただの鉄ってわけではなさそう。
あるいは、動力にされている幻獣の一部の影響なんだろうか。
「な、なんだあの子供は!?」
「わかりません! 神殿の戦力と思われますが、詳細は不明です!」
次々に攻撃していく俺の姿に、相手の指揮官が怒号を上げている。
フェルの支援によって、多少の矛盾は誤魔化せているとは思うけど、流石に全部は無理だ。
空を飛んでいるのは高く跳躍しているから、とか、魔法はエフェクトの影響で威力が高く見えている、とか、色々やっていると思うけど、子供がやっていいものではないだろうからね。
よくよく考えたら、これで帝国側にも俺の存在が知られてしまった気がしないでもないが、まあ、仕方ない。
今は、あのロボを奪取することだけを考えよう。
「うわっ」
ロボは、度重なる攻撃で呆然としていたが、破壊されないとわかると、その鈍重な腕を振り下ろしてきた。
握られている剣から、物凄い熱量が発せられる。
先程は水の障壁を張ったせいで面倒なことになったので、今度は土の壁をぶつける。
すると、うまく受け止めることができ、剣を壁に封じることができた。
あの熱量なら溶けてもおかしくはないけど、まあ、魔法の壁だし、こんなもんだろう。
「どうしたレイヴン! 早くそいつを叩き潰せ!」
指揮官の声に、レイヴンは剣を引き抜こうとするけど、それなりに硬い壁の前には、わずかに身じろぎする程度だ。
まあ、時間の問題なので、今のうちに何とかしたい。
先程までの攻撃でダメとなると、もう少し威力を上げてもいいだろう。
ひとまず、リトの真似をして、炎の柱を出現させる。
さあ、これでどこまで削れるかな?




