第三百六十五話:想定外の兵器
それから時は経ち、ついに帝国がやってきた。
この二日で、巫女達が敷いた陣地は村の周りを覆うほどになり、巫女曰く、どんな場面にも対応して見せると言っていた。
このことは村人には内緒にしてあり、村人達は、少数ではあるけど、勇敢に帝国に挑む勇者、みたいな意識を植え付けているらしい。
皆、戦闘は素人だが、村にあったなけなしの槍を持ちだし、少ない時間ではあるけどトレーニングもした。
気持ちだけなら、一騎当千の騎士である。
「皆様、ついに帝国がやってきました。私達も、全力で戦いますが、戦いは不得手、苦戦することは必至でしょう」
巫女は、村人達の前で声を張り上げる。
実際には、巫女達だけでも帝国の兵をどうにかする手段はあるようだが、それは言わないようだ。
村人達は、ここが死地と悟り、気を引き締めている者もいる。
そこに恐怖の色はない。なぜなら、こちらには神様がついているのだから。
「ですが、私達にはアーリヤ様がついております! ただ利用されるだけではない、自分達にも意地があるのだと、帝国に見せつけてやりましょう!」
「「「おおー!」」」
武器を手に、雄たけびを上げる村人達。
流石、巫女だけあって、人を引っ張るのがうまい。
裏の顔を知っていると、村人達が可哀そうに見えてくるけど、今はその口八丁を利用させてもらおう。
そうこうしているうちに、村の近くまで帝国の部隊がやって来る。
帝国の目的は兵器の実験。村を制圧したいわけではないので、特に口上もなく、さっさと準備を始めたようだ。
だが、そうやすやすとやらせるつもりはない。
巫女の号令で、先制攻撃が行われた。
「歩兵部隊、前へ! 兵器の準備が整うまで、奴らを足止めせよ!」
それを皮切りに、村人達と帝国の兵士との戦いが始まる。
村人達は、必死に槍を振るうが、その動きはおぼつかない。
しかし、巫女達が敷いた陣地によって、兵士は幻術を見させられ、攻撃をすかしたり、逆に見え見えの攻撃に当たったりしている。
村人達はそれに自信をつけ、次々に攻撃していった。
本当に、魅せ方がうまい。ただの突きも、エフェクトがついて物凄い威力で放っているように見える。
巫女の部隊も、同時に攻撃を開始し、帝国も敵が誰であるかを理解し始めたようだ。
兵器の準備を急がせているようだけど、そもそもこんなに近づく前に準備しておけばいいのに、何やってるんだろうか。
抵抗されるなんて思いもしなかったとか? まあ、実際この村は何の変哲もない普通の村で帝国に害成すようなところではなかったようだしね。
それにしても舐め過ぎだとは思うけど、巫女の潜入部隊が何かやったんだろうか。
いずれにしても、帝国は有利なようで、かなり不利な戦いを強いられていそうだ。
「我とイグニスは兵器を見張る。貴様と小娘は適当に村人を助けつつ、巫女の動向に気をつけろ」
「わかった」
巫女の作戦では、ある程度村人に戦わせた後、神であるアーリヤが手を差し伸べ、敵を一掃するという流れだった。
まあ、それに乗る必要もないけど、このまま村人だけに戦わせるのは悪いし、いくら陣地を敷いているからと言っても限界はある。
だから、頃合いを見て助ける必要はあった。
兵器の起動にももう少し時間がかかるようだし、それまで少し相手をしてやろう。
「てかげん、する」
「そうだね。ちゃんと殺さないように気を付けるよ」
もちろん、殺しは絶対にしない。
なんなら、村人や巫女の部隊が倒した兵士も、治癒魔法で助けるつもりだ。
いつまで経っても終わらないかもしれないけど、兵器がコンテナから出されたら、それを確認し、破壊するなり奪い取るなりするつもりなので、それまでの辛抱である。
心配なのは、巫女達がどのタイミングで兵器の奪取を狙っているかだ。
村人達に自分達が村を救ったことを見せつけたいってことは、やはり戦闘が終わった後だろうか?
なら、戦闘中に奪ってしまえば、先を越される心配はないはず。
奪取に関しては、イグニスさんが何とかしてくれるらしいから、気にする必要はないけど、どんな兵器かは俺も見ておきたい。
村人達の援護をしつつ、機を待つ。そして、ついにその時はやってきた。
「あれは……」
コンテナが開き、そこから現れたのは、どこか見覚えのある、鉄の塊だった。
フレームを軸に、人型に形成された物体。胸部には球状のシェルターが設置されており、まるでコックピットのようである。
どこかで見たことあると思ったのは、まさにそれだろう。
それはいわゆる、巨大な人型ロボットだった。
「な、何ですかあれは!?」
巫女が悲鳴を上げている。
流石の巫女も、これは想定外だったようだ。
まあ、この世界でロボなんてオーバーテクノロジーもいいところだろうしね。
村人も、巫女の部隊も、一様に口を開け、その巨大な姿を見上げている。
帝国も、切り札の起動が間に合ったからか、一転攻勢で勝負に出てきた。
「見よ! これが我が国の誇る叡智の結晶! その名も、レイヴンである!」
兵器というからには、大砲とか、戦車とか、そんなものをイメージしていたけど、ロボは流石に予想外である。
俺も昔は、ロボに憧れていた純粋な少年時代もあったけど、今ではすっかり冷めてしまっていた。
でも、こうして間近で見てみると、結構かっこいいかもしれない。
どこまでできるんだろう? 宇宙でも戦えるのかな?
「やってしまえ、レイヴン!」
指揮官らしき人の号令でロボ、レイヴンが動き出す。
動きは、そんなに早くないかな? もっと俊敏に動き回るのかと思ったけど、かなり鈍足である。
まあ、あんな質量で踏みつけられたら、ひとたまりもないだろうから、それでも十分なのかもしれないけど、ちょっと拍子抜けである。
手には赤い光でできた剣を持っており、ゆっくりとそれを振り上げると、凪ぐように切り払った。
その瞬間、周りの森が焼け始める。
どうやらあれは、かなりの熱量を持っているようだ。当たらなくても、生身で食らったらやばそう。
「ひ、ひぃ! お助けぇ!」
あれだけ勇敢に戦っていた村人達も、それを見て恐怖したのか、槍を捨てて次々に逃げて行った。
巫女の部隊も、留まってはいるものの、どうしたらいいのかわからず、巫女を見るばかりである。
あれは、あのままだったら死んじゃうかも。
「巫女様、ここは退いた方がよろしいかと」
「な、何を言っているのです!? あれを奪取せよとの命令ですよ!?」
「今の戦力であれを持ちだすのは不可能です。それに特化した神器がなければ」
「くっ……で、ですが、ここにはアーリヤ様がいらっしゃいます。アーリヤ様なら、きっと何とかしてくれる!」
そう言って、きょろきょろと辺りを探し出す巫女。
完全に冷静さを欠いてるね。
そんな巫女の下に、レイヴンの剣が振り下ろされる。
俺はとっさに、水の障壁を張った。
熱を持っているなら水がいいと思ったけど、そのせいで障壁に触れた瞬間、辺りに水蒸気が発生する。
でもまあ、防げはしたから、問題はないかな。
「なにをやっている、白竜の。守る必要があったか?」
「ごめん、つい」
「神殿の上層部であろう奴がいなくなれば、犠牲も少なく済むだろうに」
いつの間にか背後にいたリトに窘められる。
確かに、言われてみればそうなんだけど、目の前で死なれるのはちょっと……。
とりあえず、やっちまったもんはしょうがないので、あれをどうにかする手段を考えよう。
呆れ顔のリトに肩をすくめつつ、真っ白な視界の先にいるレイヴンを見上げた。




