第三百六十四話:最善を尽くす
そもそも、俺達の目的は、兵器を調査し、それが幻獣であれば救出することだ。
巫女は、村人達に自分達が村を救ったことをアピールするために、村に到着してもらわなくてはならないと言ったが、それはあちらの都合であって、こちらには関係ない。
そして、兵器を確認しなくても、それは勇者が開発したものであり、脅威になる可能性は高いわけで、幻獣でないなら、破壊すると決めていた。
つまり、この場で騒ぎが起き、村に辿り着けなくなったとしても、困るのは巫女達だけであって、こちらは困らないのである。
もちろん、巫女を捕らえるという目的まで達しようとするなら、もう少し協力していった方がいいかもしれないけど、あくまで一番優先すべき目標は、兵器となってしまっているかもしれない幻獣の救出。
ここで巫女を取り逃がすことになったとしても、それさえ達成できるのなら十分な戦果ではないだろうか。
『いっそのこと、あのコンテナをそのまま持ち帰ればよいのではないか?』
『あ、あんな大きなもの運べるんですか?』
『もちろん』
コンテナは、俺の今の体と比べても相当でかいが、イグニスさんなら余裕で運べるという。
どれだけ馬鹿力なんだろう。いや、ドラゴンならそれが普通なのか?
『それは名案だな。兵器の中身が何にせよ、それを失えば帝国はここにいる理由がなくなる。村も守れて一石二鳥ではないか?』
『そんな単純なことかなぁ……』
まあ、兵器の実験で来ているのに、その兵器がなくなったら確かにいる意味はないのかもしれないけど、そんなことして上が納得するんだろうか。
要塞にいた主任も言っていたけど、どんな理由であれ、主要な拠点を失ったことの責任は取らなければならない。
今回の場合は、兵器は勇者が開発したものであり、その重要性はかなり高いだろう。
それを失ったとあれば、少なくとも上官の処刑は免れない。
ただ仕事を全うしていただけの人が、俺達のせいで首を切られると考えると、ちょっと可哀そうな気がする。
もちろん、コンテナの中にいるのが例の幻獣であるなら、絶対に助け出さなくてはならないし、優先順位としてはそちらの方が上ではあるんだけど、下手をしたらやけを起こして村を襲う可能性もなくはないし、このままここで持ちだすのは、まずい気がする。
『はぁ……貴様は本当にお人好しだな。尊い幻獣を捕らえた、それだけでも皆殺しにされても文句言えないだろうに、それでも奴らを助けようとするのか?』
『だ、だって……』
『まあ、そう言うだろうとは思っていたがな。しかし、その理屈で言うなら、我らが兵器を奪った時点で、誰かしらは犠牲になることになるぞ?』
『そ、それは……』
確かに、兵器を破壊するにせよ奪取するにせよ、帝国は兵器を失う事になる。
どんな理由であれ、処罰されるというのであれば、どうあがいても助けることはできない。
もちろん、帝国だって鬼ではないだろうし、優秀な人材をみすみす処刑するのは避けたいはずだから、真っ当な理由があれば、処刑まではされないはずだ。
要塞の時のように、唐突にドラゴンがやって来て破壊されました、みたいな、荒唐無稽な話ではだめだけど、戦った末にやむなく破壊されました、みたいな感じなら、いいんじゃないかな。
でも、こんな大きそうな兵器に対抗できる戦力なんて……いや、いるな。ちょうど、村に陣取っている、神殿の勢力とぶつければ、それらしい戦いを演出できるんじゃないだろうか?
『神殿とぶつける。そして、そのどさくさに紛れて、奪い取る』
ここで兵器を奪うのは簡単だけど、それではまた唐突にドラゴンが現れて、って言う話になってしまう。
しかし、予定通り村に到着し、実験を開始しようとしたけど、そこには先んじて神殿が待ち構えており、兵器を奪おうと抵抗してきた、という話なら、それらしい筋書きにはなるだろう。
実際、神殿は兵器を奪うことが目的だったわけだし、別に嘘を言っているわけでもないしね。
その末に、兵器を奪われたなり、破壊されたなりってなれば、減給くらいはされるかもしれないが、処刑まではいかないはず。多分。
『ど、どう?』
『まあ、実際そうなるかは知らんが、一芝居打つことで、助けられる確率を上げようという話か。どう思う? イグニス』
『よいのではないか? 神殿も、帝国と交戦している最中に兵器に手を出すことは難しいだろう。であれば、その隙に奪い取ることは難しくない』
『だそうだ。気は乗らんが、頷かなければ貴様は動かないだろうからな。今回はその話に乗ってやる』
『あ、ありがとう!』
これが、できる限り人々を助けるための作戦だと信じ、やっていくしかないだろう。
協力してくれるリトやイグニスさんに感謝しつつ、ひとまずはこの場を後にすることにする。
できることなら、コンテナの中を確認しておきたい気持ちもあったが、下手に騒ぎを起こせば、進行が遅くなって、兵器を奪取する機会が遅くなるし、よくよく考えれば、ここには巫女の潜入部隊がいるはずである。
下手に騒ぎを起こせば、巫女にもそれは伝わるわけで、そうなったら後で何か言われるかもしれない。
別に、完全に協力する必要はないかもしれないが、相手が誠意を見せている間は、こちらも誠意を見せてもいいと思う。
もちろん、最終的には出し抜くけどね。
『全部、丸く収まるといいけど』
時間的にも、帰る頃には朝になっているだろう。
到着まであと二日。村人達を守るのも含めて、ちゃんと準備しないとね。
「おや、皆様どこへ行ってらっしゃったのですか?」
村に帰ると、さっそく巫女が出迎えてきた。
昨日の夕方から、俺達の姿が見えないことは把握していたらしい。
本来なら、逃げられたのかと慌てふためきそうなものだけど、巫女はそんな心配は微塵もしていなかったようだ。
俺が、村を見捨てて逃げるなんてことは絶対にしないと思っているらしい。
まあ、確かに、ちゃんと守るって言っちゃったしね。
「貴様には関係ないことだ」
「それはそうかもしれませんが、その身はとても尊いものです。うっかり帝国の手に落ちようものなら、目も当てられませんよ?」
「それは侮辱か? あの程度の奴らに、こ奴が負けるとでも?」
「ああ、申し訳ありません。しかし、心配になってしまうのです。どうかお許しください、アーリヤ様」
そう言って、土下座しだす巫女。
心配してくれるのは嬉しいけど、あんまりに度が過ぎても困るな。
ただでさえストーカーみたいな感じなのに、これでは束縛まで強くなってしまう。
「しんぱい、ありがと」
「ああ、もったいなきお言葉です!」
さて、誤魔化せたかは知らないけど、とりあえず協力関係は途切れていないと思う。
後は、帝国が到着するのを待ち、機を見て兵器を奪取するのみ。
俺は、明るくなり始めた空を見上げながら、時を待った。




