第三百六十三話:兵器の確認
しばらくして、村人達を伴って、巫女がやってきた。
どう説明したのかはわからないけど、村人達は俺のことをアーリヤとして敬ってくるし、リト達もアーリヤを守る神獣として敬意を表していた。
リトに関しては、あの時に姿を見せたからわからないでもないけど、フェルやイグニスさんも神獣として見られているんだろうか?
一応、人前で幻獣の姿を現すのは、あまりよくないことだとは言われているので、仮に正体がばれても姿を現す気はないけど、村人達はどんな姿なのかと興味津々なようだ。
巫女はそのルールを知らないだろうから、お構いなしだけど、言っておいた方がいいだろうか?
いや、あえて弱みを見せれば、それを利用してくる可能性もあるかな。
神殿にあまり情報を渡したいとも思わないし、とりあえずは保留にしておこうか。
「お待たせしました。今日のところは、そちらの家にお泊りになるのがよろしいかと思います」
「寝込みを襲う気か? 貴様らと同じ寝床で寝るなど御免だ」
「そんなことはしませんよ。まあ、伝承で囁かれるお姿とはだいぶ違うので、どういう経緯でそうなったのかは聞いてみたい気もしますが」
巫女は、相変わらず気持ち悪い笑みを浮かべながらこちらを見てくる。
なんか、喜んでるって言うのはわかるんだけど、その喜び方が気持ち悪い。
リトも言っていたけど、相手の指定した場所で寝るなんてことをしたら、寝ている間に色々いじくられそうだ。
村人には悪いけど、寝るなら離れた場所でだね。
「残念です。まあ、神があまり人に近づきすぎるのもよくありませんか」
巫女は、バレバレの泣き真似をした後、すぐに表情を戻して、陣地作成の指揮をすると言って去っていった。
喋り方は普通な気がするけど、やっぱりちょっと苦手な気がする。
これなら、演技だとわかるミトさんの方がましだ。
「さて、どうする? 村の守りは、問題なさそうだが」
「信用できん連中ではあるが、村人を信者に仕立て上げるためには、生き残ってもらわねばならん。陣地に関しても、小娘の目から見て正確なら、はったりというわけでもないだろう」
「じゃあ、たいき?」
「それか、先に帝国の兵器を見に行くという手もあるな」
俺達の目的は、兵器を確認し、それが幻獣であるなら助け出すこと。
神殿側も、兵器を狙っている関係上、兵器に関することは常に先手を取っておきたい。
特に、相手は幻術が得意な集団。いつの間にか兵器がすり替えられていましたじゃ困る。
コンテナに守られているという話だったけど、一体どんなもんなんだろうか?
「いってみよう」
「よし。小娘、貴様はここに残り、奴らの動向を監視していろ。何かあれば、すぐに知らせるのだぞ」
「わかりました!」
村を放置して行くわけにもいかないので、フェルを残し、さっそく向かうことにする。
巫女の話では、あと三日もすれば到着するという話だった。
人の足で、しかも森の中の行軍でそれなら、俺達なら一日もかからずに辿り着くことができるだろう。
フェルのことも心配ではあるので、なるべく早めに戻ってくるとしよう。
巫女達にばれないようにこっそりと移動し、元の姿に戻る。
さて、どんな風になっているだろうか。
『……あれだな』
すでに時間も遅かったので、帝国の部隊と接触する頃には、夜になっていた。
森の中なのに、奴らが通ってきたと思われる部分だけ綺麗に木がなくなっている。
部隊の真ん中には、巨大なコンテナがあり、あれを運んできたとなれば、木々がなくなるのも納得だけど、環境破壊もいいところだ。
今は夜なためか、移動はしておらず、簡易的なテントを張って野営しているようである。
昼間よりは見づらいけど、止まってくれているのはありがたいね。
『……あのコンテナの中に、幻獣がいるのか?』
『ふむ、確かに妙な気配だ。弱っている、というわけでもなさそうだが』
ここまで近づけば、俺にもその気配は感じ取れた。
コンテナの中からは、幻獣特有の魔力を感じる。しかし、どうにも反応がおかしい。
なんというのだろう、とても弱弱しい? でも、死にかけているというわけではなくて、とても小さい反応だ。
カーバンクルのような、戦闘力を持たない幻獣なのかとも思ったけど、それとも微妙に違う気がするし、よくわからない。
実際に見てみればわかるかもしれないけど、コンテナには窓もついていないし、見るためには中に入らないといけないだろう。
流石に、この姿では入るのは難しそうだけど、どうしたものか。
『いっそのこと、この場で吹き飛ばすか?』
『そんなことしたら大惨事でしょ』
『そうでもないかもしれんぞ? ほら、貴様のブレスなら、貴様が傷つけたくない者に対しては効果を発揮しないだろう』
『それは、そうかもしれないけど……』
確かに、俺のブレスは、人に対しても、幻獣に対しても、俺が敵と認めていない相手に対しては効果はない。
一応、余波で吹き飛ばされはするが、怪我をするとしても、吹き飛ばされた時にしりもちをついたりする程度だ。
それなら、コンテナだけを破壊し、中にいる幻獣だけを助け出すことも、可能かもしれない。
でも、流石に中に何がいるかもわからないのに、ブレスを放つ勇気はない。
いくら敵以外は傷つけないとは言っても、絶対ではないかもしれないし。
『とにかく、まずは確認が大切だよ』
『ふむ、となると、どうにかして入り込む必要がありそうだな』
野営している最中とはいえ、見張りは当然起きているし、明かりもある。
闇に紛れてこっそりというのは難しいだろう。
それこそ、フェルがいれば、幻術でちょちょいだったかもしれないが、弱っているリトを残していくわけにはいかないし、イグニスさんはそんなリトの護衛だ、離すわけにはいかない。
となると、フェルが残るしかなかった。
まあ、もしもの時はニーシャさんが知らせてくれると思うし、フェルがみすみすやられるとも思っていない。
そもそも、今は協力関係にあるわけだし、早晩裏切っては来ないだろう。
フェルの方は問題ないとして、今はこの場をどう切り抜けるかである。
『隠密魔法で姿を消せば何とか?』
『近づけはするかもしれんが、中に入るのは難しくないか? どうやらコンテナの入り口には、常に見張りが立っているようだし』
『うーん……』
流石に、見張りに気づかれずに入り込むことは難しい。
なら、見張りを気絶させてしまえば、とも思ったけど、そんなことしたらすぐに異変に気付かれて、大騒ぎになってしまうだろう。
見張りを隠しておけば、多少は時間を稼げるかもしれないが、コンテナの中にも人がいたら、面倒なことになる。
『思ったのだが、別に騒ぎが起きてもよくないだろうか?』
『え?』
少し考え込むような仕草をした後、イグニスさんがそう言って話し出す。
いったい、どういうことだろうか?




