第三百六十二話:神殿の神器
巫女が率いる部隊の戦略は、かく乱作戦。
相手の懐に入り込み、破壊工作をしたり、不和を煽って仲間割れをさせたり、そんな感じのことを平然とやる。
ただ、それだけだと人知れず片が付いてしまうので、パフォーマンスのために、ある程度は派手な戦闘を繰り広げなければならない。
そのために必要なのが、陣地作成だという。
幻術の応用で、壁を作り出したり、人数を水増しして見せたり、後は攻撃にエフェクトをつけたりして、それっぽさを出すという。
もちろん、すべて幻術なので、実際には割と地味だけど、そうやって戦ってきたこともあって、陣地作成はお手の物のようだった。
「なるほど、ああやれば広い範囲に、高速で幻術を展開することもできるわけだね」
フェルが、感心したように呟いている。
フェルの主な特性は、幻惑だから、幻術とは相性がいい。
その気になれば、巫女達がやろうとしていることを再現することも簡単であり、且つ陣地などなくても行うことができる。
簡単に言えば、巫女達がやっていることは、フェルの劣化なわけだけど、それでもフェルはその知恵に驚いたようだ。
元々、フェルも幻獣になるまでは、その手の知識は全くなかったわけだし、それを人間の手で再現するのは難しいと考えていたようだ。
しかし実際には、こうして準備さえすれば、できるというところを見て、それで驚いたのかもしれない。
俺は、パフォーマンスのためだけに、よくそんなにできるなとは思うけど、これも有名になるには必要な知恵だったのかもしれないね。
「陣地作成にはいましばらく時間がかかります。その間に、村人達にも説明をしておかなければなりませんね」
そう言ってこちらを振り向く巫女。
村人達を避難させるのは諦めたわけだけど、では閉じ込めておくのかと言われたらそう言うわけでもない。
そもそも、今残っている村人達は、共に戦おうということで残っているわけで、ずっと引きこもっていろと言われても、無理な話だ。
だから、村人達にも武器を与え、活躍の場を用意してやらねばならない。
巫女が言っていた、仕事が増えるというのは、このことのようだ。
「幻術を用いれば、全くの素人でも、まるで善戦しているかのように演出することはできます。ただ、流石にいくら弱らせているとは言っても、帝国の兵士にそうやって戦い続けるのは難しい。なので、頃合いを見て、アーリヤ様には村人達に加勢していただきたく思います」
「さいしょから、だめ?」
「人というのは、実感があった方が納得するものです。神が守ってくださるというのは嬉しいことではありますが、できることなら共に戦ったと思いたいものですよ」
私もその戦いぶりを間近で見たいですしね、と続ける巫女。
ただ守られてくれる方が楽なんだけど、そう言うことなら仕方ない。
筋書きとしては、帝国がやって来て、村人達も善戦するも押し込まれ、絶体絶命という場面で、神の助けが入り、帝国を退けるという演出をしたいらしい。
すでに、潜入部隊によって帝国の部隊は疲弊しており、兵器を除けば、そこまでの戦力ではないという。
ただ倒すだけなら、巫女の部隊だけでもなんとかはなるらしいけど、そこはやはり神の介入があった方が心に響くものだとか。
まあ、その気持ちはわかるし、なるべく助けてあげるとしよう。
「では、しばしの間失礼します」
そう言って、巫女は村人の待機する家に入っていった。
さて、なんだか妙なことになって来たけど、村を守り、兵器を奪取するという目的は変わらない。
最後に、巫女を出し抜ければ問題ないので、ちゃんと観察して油断しないようにしておけば大丈夫だろう。
俺は、陣地の準備をしている巫女の部隊を見回す。
皆、黒いローブにフードを被った怪しい集団ではあるけど、その中に一人、フードを脱いでいる人物を見かけた。
その顔には見覚えがある。そう、あの町で、俺達を襲ってきた男だ。
「……ん? おお、これはこれはアーリヤ様、ご健在のようで何よりです」
「なまえ、なに?」
「わたくしめの名前など、些細なこと。ですが、もし記憶の片隅にでも置いていただけるのなら、ミトとお呼びください」
そう言って、ミトは恭しく頭を下げる。
仕草は凄く敬っているように見えるけど、目が笑っていない。多分、演技な気がする。
まあ、この人は問答無用でリュートさんの分身を撃った奴だし、俺以外は殺してもいいとか言っていたから、そこまで好きじゃないんだけど、なんとなく、気になったから話しかけてしまった。
「陣地作成まではまだしばらく時間がかかります。アーリヤ様に置かれましては、適当に暇をつぶされていてはいかがでしょう」
「なら、それ、みせて」
「……ええ、どうぞ」
俺が指さしたのは、ミトが持っている銃である。
この世界にも銃は存在するが、ミトが持っている銃は、帝国が使っていた現代に近い銃でもないし、この世界の銃とも違うように思えたのだ。
ミトは、一瞬渋っていたが、周りの目があると思ってか、素直に銃を渡してくれた。
持った瞬間に分かる、重圧感。
ただの銃ではないな。魔力も感じるし、魔道具の一種かな?
凝った装飾が成されていて、ほんのりと暖かい気がする。
こんな銃、どこで手に入れたんだろうか?
「……それは、神器の一つです。かつて神が作ったという、加護が込められた銃なのですよ」
「へー」
そういえば、神殿は、その権威を振りかざして、各地にある神器を集めていたという話を聞いた気がする。
元々が、創造神という、この世界における最高神を祭る組織だから、神にゆかりのあるものはとりあえず集めておこうという動きがあったようだ。
まあ、そのせいで対立も生んだようだけど、当時の神殿の勢力はすさまじく、むしろ批判する方が世間からバッシングを受ける始末だった。
今は、神殿も解散され、その規模も縮小したようだけど、それでもかつて保有していた神器は今も残っているらしい。
巫女の直属とはいえ、よくそんなもの持たせてくれたな。
「……申し訳ないですが、そろそろ返していただいてもいいですか? 得物がないと、落ち着かないもので」
「あ、うん、ごめんね」
このまま奪い去ってもいいが、流石に人のものを盗ったら泥棒である。
素直に返すと、一瞬の間を置いた後、受け取った。
神器の存在は、神殿の力を象徴するものとして使われていたらしいけど、実際に効能があるものなんだろうか?
神様が作ったとか言っていたけど、神様って、そもそも地上に降りられないんじゃなかったっけ?
ちらりとリトの方を見てみたが、ふっとため息をつくだけだった。
ミトの前じゃ言いたくないってことかな? まあ、別にいいけど。
「じんち、がんばって」
「激励の言葉、痛み入ります」
これ以上邪魔するのも悪いと思って、ひとまずその場を後にした。
俺は、改めてリトに神器のことを聞いてみる。
実際に、神様が作ったものってあるんだろうか?
「神器自体は、確かに神が作ったものもある。まあ、世に出回っているのは、幻獣が作ったものの方が多いだろうが」
「げんじゅうが?」
「ああ。武勇を願った者に対して、武器を贈る幻獣もそれなりにいたからな。さっきのあれも、恐らくは幻獣が作ったものだろう」
「へー」
神様が作ったものもあるけど、それは相当稀なもののようだ。
それでも、幻獣が作ったというだけでも凄そうだし、強力な武器であることは間違いなさそうだけどね。
俺は、先ほどの銃のことを思い出しつつ、しばらく時間を潰すのだった。




