第三百六十話:神殿の狙い
「アーリヤ様、急にどうしたんだ!?」
「ん? こいつらは誰だ?」
「まさか、帝国の奴らか!?」
そうこうしているうちに、先ほど巫女が説得していた村人達が出てきた。
明らかによそ者である俺達の姿を見て、警戒している様子である。
これは、どうしよう?
巫女と知り合いというわけにもいかないし、かといってこの状況で兵器を止めに来たんだと言っても、信じられない気がする。
恐らく、これは巫女が仕組んだことだろう。
帝国に何かしら情報を流し、実験場としてこの村を選定させた。そして、その村人を説得し、助けることで、信者を増やす、そんなところか?
なんなら、俺達をその帝国の兵隊だと決めつけて、村人に襲わせることもできるわけで、そうなったら逃げるしかなくなる。
先に村を掌握していた巫女達が上手だったと言うべきか。いや、こんなの予想できるはずもないのだけど。
「皆様、落ち着いてください。この方々は、帝国の兵隊ではありません。そんなものより、もっと尊きお方です」
「そりゃ、どういう?」
「申し訳ありません。私は皆様に一つ嘘をついておりました。私の名、アーリヤとは、今は忘れられた神の名。あえてその名を名乗ることで、その存在を繋ぎ留め、この世に降臨していただくために、不敬にも神の名を騙ったのです」
そう言って、巫女は急に懺悔を始める。
これは、どういう狙いだ?
いや、大体予想できる。わざわざアーリヤの名を騙ったことをばらすということは、俺がそのアーリヤだと言いたいんだろう。
神殿は、直接確認したわけではないものの、俺がアーリヤであるという前提で動いている。
つまり、俺を捕まえるために動いているわけで、アーリヤの名を騙ったのは、アーリヤをあぶりだすための手段に過ぎない。
こうして本物が目の前に現れたのなら、そのことを伝えて村人達を仲間に引き込むのも容易だ。
「じゃあ、その尊きお方というのは……」
「そう、まさしく私達が探し求めていた忘れられた神。アーリヤ様とは、ここにおわすお方なのです!」
村人達の視線が一斉に俺に向けられる。
これ、どうするべき?
否定するのは簡単だが、そうなると、俺達は誰なんだという話になる。
それこそ、帝国の兵隊と思われても不思議はないし、そう思われなかったとしても、ただの部外者である。
いずれにしても、村を兵器から守ろうと思うのなら都合が悪いし、ここは話に乗っておいた方が楽か?
「気安くその名を呼ぶな。貴様如きが、安易に名乗っていい名前ではない」
「おや、そちらはアーリヤ様の神獣様ではありませんか! 可憐な少女の身でありながら、その中身は凛々しい火の鳥であると報告を受けております」
「こいつ……」
巫女のカミングアウトによって、村人達は興奮したようにリトの方も見つめる。
これは、完全に村人を味方につけられた。
一応、幻獣であるということは、人々にはあまり知られてはならない事実でもある。
幻獣が、再び人々に利用されないようにするための措置だとは思うけど、ここでそれをばらされたら、人化している意味がなくなってしまう。
もちろん、普通はそんなこと信じないだろうが、巫女はこの村の人達の信頼を得ているようだし、すべて信じてしまっている様子。
安易に巫女を否定し、排斥しようとすれば、村人達から攻撃される可能性が高い。
村から追い出されても、こっそり兵器を止めることはできるかもしれないが、できることなら協力関係は得ておきたいと考えると、今回は巫女に言い負かされた形だな。
「アーリヤ様、どうか私達に神のご加護を! この村を守るために、帝国を退ける力をお与えください!」
「ちゃんと、まもる、あんしん、して」
「おおー!」
俺の言葉に、リトはちらりとこちらを見てきたが、言葉は飲み込んだようだ。
こうなったら、この場は巫女の話に乗っかって、村を守る方向に舵を切ろう。
どのみち、村を何とか出来たとしても、巫女を捕まえる必要はある。
ここで表面的にでも協力関係になっておけば、しばらくは逃げないだろう。
もちろん、何かちょっかいをかけてくる可能性はあるが、その時はその時で対処すればいいだけの話だ。
俺の言葉に歓喜する村人達と巫女。
ひとまず、情報共有をしたいということで、一度村人達には家の中に待機してもらい、巫女と話す機会を得た。
「……で? 貴様、正気か? アーリヤを利用することしか考えてないくせに、よくもまああんな戯言を吐けたものだ」
「あら、嫌ですわ。私達は皆、アーリヤ様を信奉する信徒。奉ることはあれど、利用することなんてありません」
「どうだかな。実際、先の町では随分な挨拶だったじゃないか。仮にアーリヤへの信仰が本当だとしても、その中身まで理解できていない時点で、貴様らは信仰する資格がない」
「フフフ、まあそうかっかなさらずに。私達の存在を認めるかどうかはアーリヤ様が判断することです。そうでしょう?」
そう言って、巫女は改めてこちらに向き直り、その場で跪く。
アーリヤへの信仰の気持ちは本当にあるのか、俺のことをかなり敬っている雰囲気は感じるな。
まあ、俺は偽物なんですけどね。アーリヤの生まれ変わりではあるけど、アーリヤ自身ではないし。
「神殿が解散されてから数百年。信者は皆バラバラになってしまいましたが、水面下で機を窺い、この時を待っておりました。尊き神、アーリヤ様。そのご帰還を、心より嬉しく思います」
神殿は、かつてアーリヤを利用しようと画策し、帝国と大戦争を起こした末に、アーリヤを自害させた元凶の一つ。
最初の出会いからも、こいつらは敵なんだと明確に理解したわけだけど、こうして丁寧な言葉で語り掛けられると、本当に悪い奴なのかと疑いたくなってくる。
いや、悪い奴ほど丁寧な態度をとってくることもあるから、それだけで信用するには早いけど、少なくとも、アーリヤに帰ってきてほしいという気持ちは、本物な気がしてきた。
「かお、あげて」
「ああ、何とありがたきお言葉。その暖かな祝福を、私に授けてくれるというのですか?」
「え? まあ、う、うん」
もはや恍惚の表情を浮かべている巫女に、俺は思わず引いてしまった。
なんか、ただ追いかけられるより、怖いかもしれない。
ストーカーに悩む人の気持ちが少しわかった気がする。
「おい、それより、今回の件は、貴様らの差し金か? 帝国が兵器を持ちだしてきたのも、貴様らが手回ししたからだろう」
「いいところなのに……ただの護衛風情がしゃしゃり出ないでくれます?」
「にくす、ともだち、ちゃんと、こたえて」
「アーリヤ様がそうおっしゃるのなら……では、私達がなぜここに来たのか、説明して差し上げましょう」
そう言って、巫女はここに来た経緯を説明し始める。
まず、今回の帝国の実験に、神殿は関与していないらしい。
秘密裏に忍ばせていたスパイからの情報で、今回の実験の件を聞き、それを台無しにするために、ここに来たようだ。
「今回の帝国の兵器。どうやら、アーリヤ様召喚に関わった者の技術が使われているらしいのです。帝国がアーリヤ様召喚に向けて色々と画策していたのは知っていましたので、我々神殿としては、何としてでも奪取する必要があったのです」
「とすると、貴様らはアーリヤの召喚は行っていないのか?」
「試みはありますが、成功した試しはないです。屈辱ですが、帝国に先を越された形ですね」
神殿は、帝国がアーリヤ召喚を行い、そしておそらくは成功したという報告を聞いたらしい。故に、多少強引な形をとってでも、アーリヤを探すために各地を巡っていたようだ。
先の町で、アーリヤ(実際には少し違うけど)を見つけたことにより、ようやく帝国を出し抜けたと思ったのもつかの間、帝国に動きがあったということを聞きつけた。
もし、それがアーリヤに関係するものならば、何であろうと神殿が保有しなければならない。だからこそ、こうして先回りし、村人を説得して避難させた上で、帝国の兵器を奪おうと考えたってわけだね。
神殿が手を回したわけではないのは意外だけど、もし兵器が幻獣だとするなら、神殿に渡すわけにはいかない。
大まかな目的は一致しているけど、どうしたものかね。
俺は、ずっとこちらを見てくる巫女の視線に耐えながら、どうしたものかと頭を悩ませた。




