第三百五十九話:思わぬ再会
準備を整え、さっそく向かうことにする。
距離としては、それなりに遠い。俺達の足なら、一週間くらいか。
ラスクさんの話によれば、実験場として見ているのは、とある村のようだ。
別に、帝国に反旗を翻していたわけでもないし、帝国を敵視しているわけでもない、普通の村。
それなのに、実験場にしようとしているあたり、本当に倫理観が終わっていると思う。
出発した時期を考えると、俺達が着く頃には、ちょうどあちらも着いている頃だろうとのこと。
できれば、その村も助けてあげたいね。
『この勘は当たって欲しくないのだが、もし、本当に幻獣を兵器として使っていたとしたら、我は感情を抑えられんかもしれん』
『い、一応、そうじゃない可能性もあるけど……』
『勇者が関わっているのだろう? なら、少なくとも普通の兵器ではない。怒りのままに、奴らを皆殺しにしてしまったら、すまんな』
『う、うーん……』
そうやって言葉にする当たり、一応やらないように注意はしたいと思っていると思うけど、実際目の当たりにしたらどうなるかわからないってことだよね。
リトは、俺の性格も理解しているし、いくら非人道的な兵器を使っているとはいっても、実際に使っている人々は開発には携わっていないだろう。
実験と言っているし、何も知らない可能性が高い。
先の要塞の件と同じで、現場にいる人に罪はないと言える。
けど、それを使って罪もない村を破壊しようとしていると考えると、それを止めるのもどうかと思ってしまう。
そりゃ、どっちも助けられるのならそれが一番いいけど、どちらかしか助けられないってなったら、村を選ぶ。
完全に無傷で無力化するのは難しいだろうしね。
もし、そう言う展開になったら、俺はどうしたらいいんだろう。
リトを止めるのも違うし、かといって自分で終わらせる勇気はない。
必要な犠牲と言えばそれまでだけど、またもやもや悩みそうだ。
『我が友よ、私には白き子竜の気持ちを考えろと言っておいて、自分は止められないなんて言うのは違うのではないか?』
『あくまで可能性の話だ。それに、貴様は意見も聞かずに問答無用でやっただろう、わざわざ先に言葉にしているだけ我の方が良心的と言える』
『一応意見は聞いたつもりだがな。まあ、私とてその説が本当なら黙っていたくはないが、白き子竜はどうしてほしい?』
『えっと……できるだけ、助けてあげて欲しいというか……』
『あいわかった。完全に叶えるのは難しいかもしれんが、努力はしよう』
凄く気を使ってくれているのはわかるけど、俺はどうするべきなんだろうか。
もはや、やる前からもやもやしてきたけど、こればっかりは決めようがない。
一応、方針としては、村を優先で、兵士達もできる限り助けるって形にはなると思うけど、どこまで行けることやら。
『さて、ここが例の村か』
そんなことを考えながら飛ぶこと一週間ほど、ようやく例の村が見えてきた。
見たところ、まだ帝国の兵器は見えない。村も無事だから、まだ来ていないってことなんだろう。
ひとまず無事だったことを安堵しつつ、どうするかを考える。
村を実験場にしているということは、人を殺したいってことか? なら、あらかじめ村人を避難させてしまえば、そもそも実験が成り立たなくなる。
まあ、いきなり外からやって来て、ここは危ないから逃げろと言ったところで逃げてくれるかは微妙だけど、やるだけやってみてもいいかもしれない。
俺はみんなに確認を取ると、人化して村の中へと入っていく。
村とは言っているが、そこそこ広い気がするな。
昔ながらの木造家屋が並び、一部の道は整備されている。
そこそこ潤っているのかな? もしそうなら、なおさら破壊させるわけにはいかないね。
「でも、なんか、おかしい」
村に入って見てわかったけど、どうにも人の気配がなさすぎる。
そこそこ広い村なのに、外に歩いている人を見かけないし、家の中からも気配が感じられない。
まさか、ゴーストタウンってことはないよね?
家の劣化などを見ても、つい最近まで人がいたのは明らかだし、人が住んでいないってことはないはず。
では、なぜここまで人の気配がないのだろうか?
「だれも、いない」
「いや、あちらの方に気配を感じる。集まっているようだな」
しばらく歩いていると、イグニスさんがとある家の中から気配を感じた。
いるのはどうやら、十数人の人達。村の人口にしては少なすぎる気がする。
一体何をやっているのかと、窓の外からちらりと覗いてみると、そこには見覚えのある人物がいた。
「いいですか、皆様。後数日もすれば、帝国から兵隊がやってきます。この村を、滅ぼすために。皆様は、そうなる前に、逃げてほしいのです」
人々の前で、必死に訴えている女性。白い修道服を身に纏い、見た目には清楚なその女性は、以前町で俺を襲ってきた、アーリヤの名を騙る巫女。
まさか、こんなところで出会うとは思わなかった。
「もしそうだとしたら、この村を守るためにも、俺達は戦う!」
「そうだ! 帝国だか何だか何だか知らないが、好きにさせてなるものか!」
「こちらにはアーリヤ様がついてるんだ! 負けるはずがねぇ!」
どうやら、構図としては、巫女がこの村の人達を説得し、避難させようとしているけど、村人は村を守るために残る選択をしているってところだろうか。
平気で事件を起こして、それを自ら解決してマッチポンプで信仰を得ようとする下種な集団にしては、なかなか健気な光景である。
いや、それともこの状況すら、神殿の掌の上なのか?
帝国が兵器の実験をしようとしたのも、もしかしたら神殿の差し金の可能性が出てきた。
「ですから……あら?」
巫女は、困り果てた末に、ちらりと窓の外を見た。そして、その拍子に、俺が覗いていることがばれた。
いや、その動きは予想できない。完全に油断した。
巫女は、パーッと表情を輝かせ、即座に家を飛び出してこちらに向かってくる。
逃げようとも思ったけど、見られてしまった以上、どうしようもない。この村を見捨てるわけにもいかないし。
「アーリヤ様! まさかこんなところで出会おうとは!」
「気安く近寄るな、下種が」
興奮気味に近寄ってくる巫女に対し、リト達が前に出る。
今は巫女一人に見えるけど、恐らくはどこかに護衛が潜んでいるだろうから、いきなり手を出すのはまずい。
リトの作戦を当てはめるなら、巫女はどう考えても上層部の人間だし、ここで捕まえておくべきかもしれないけど、下手に手を出すと、村人達の目も痛い。
わかってやってるのか、偶然かは知らないけど、面倒なことになった。
俺は、この状況をどうしたものかと頭を悩ませていた。
誤字報告ありがとうございます。




