第三百五十八話:気になる情報
『……さて、差し当たって問題なのは、やはり帝国と神殿だろう。奴らをどうにかせねば、平穏は訪れん』
少し落ち着いた後、リトはそう言って話を切り出した。
まだ怒りが残っているのかとも思ったけど、どちらかというと、俺のためらしい。
帝国や神殿は、アーリヤを召喚したと思って、今も俺を探している。
いや、帝国はまだ探しているところを見てはいないけど、主任の話を信じるなら、今も捜索をしているはずだ。
このままでは、俺は行く先々で狙われることになり、平穏な生活など訪れない。
もちろん、今後は人との関わりを一切断ち、山奥とかで暮らすというなら話は別だが、俺の性格上、やっぱり町には寄りたいし、これからも旅をしたいと思っている。
つまり、その願いを叶えるためには、帝国や神殿をどうにかして抑えなければいけないということだ。
さて、この問題をどう解決するか。
『一息に消し飛ばせればいいが、流石にそれは不可能だし、白き子竜も望むまい。となれば、やはり上層部を叩くしかないのではないか?』
『上が止まれば下は有象無象になる。被害を抑えようと思うのなら、それが一番だろうな』
帝国も神殿も、今では規模を縮小したとはいえ、それでも大規模な組織であることに間違いはない。
特に帝国は、なくなればこの大陸の大半が空白地帯になるわけだし、すべて滅ぼして終わり、ってわけにはいかない。
奴らの狙いは、アーリヤを手中に収め、その力を使って世界を支配すること、だと思う。
帝国は軍事力によって、神殿は信仰によって、いずれにしても、アーリヤを都合のいいように使おうとしているのは確かだろう。
ただ、所属している人間が、すべてその思想を持っているとは限らない。
そう言った決定を下しているのはやはり上層部だろうし、それを抑えることができれば、止まるのではないかという考えだ。
まあ、そう簡単に上層部を止められたら苦労はしないが。
『まず注力すべきは帝国だろう。捕らえられた幻獣を助け出さねばならないし、幻獣に対する切り札を持っているのも帝国だ』
『今なら、ユグドラシルにも多少は情報が降りてきているかもしれん。まずは戻り、情報共有をすべきか』
冷静になって来たのか、リトもユグドラシルに戻る決断をしたようだ。
仮に帝国を攻めるとしても、俺達だけで行くのは無謀すぎるし、そもそも滅ぼしてしまっては困る理由がある。
捕まっているであろう幻獣のことも心配だし、何をするにしても、まずはそれを助け出してからになるだろうね。
『戻るのかや?』
『ああ。ちなみに聞くが、その幻獣が何かはわかるか?』
『記録にない者は調べられん。力になれなくてすまんの』
『いや、いい。黒幕が誰かわかっただけでも十分だ』
ルーナさんは、少し難しそうな顔をしながらも、見送ってくれた。
せっかくだから、宝石の枝葉を貰っていこうかなと思っていたんだけど、そんな空気でもなかったので、結局そのまま帰ることになった。
ペリーさんに再び宝石回廊を開いてもらい、ユグドラシルへと帰還する。
すぐにラスクさんの下に向かうと、ちょうど誰かと話していたのか、虚空に向かって口を開いていた。
「……ああ、戻ったんだね。どうだった? 何か有益な情報は掴めたかな?」
「ああ。それより、誰と話していたんだ?」
「彼方達の話を聞いてから話すよ。ギョクトがどんな理由で月にいるのか、気になるしね」
ラスクさんに合わせて人化し、ひとまず報告をすることにする。
ルーナさんの下に向かったのは、ルーナさんの種族であるムーンラビット、あるいはギョクトと呼ばれる種族が、月という特別な場所に住んでいるからである。
数百年も持続するような特別な楔を打てるのは、神様から力を貰ったような特別な幻獣でなければならない。その考えの下、神様に近しい幻獣を上げていったところ、候補に挙がったのがギョクトだったのだ。
結局、ルーナさんはムーンラビットが地上に降りて楔を打つことはないと言っていたけど、月の情報網によって、誰が楔を打ち込むように指示したのかは何となくわかった。
状況証拠と合わせて、それらのことを報告すると、ラスクさんは少し驚いたように目を見開き、そして腕を組んで唸り始めた。
「うーん、なるほど。となると、帝国に捕らえられている幻獣が、楔を打った幻獣である可能性が高いと」
「そういうことだ。ちなみに聞くが、あれから何か報告は上がって来たか?」
「それに関して、少し関連するかもしれない情報は降りてきたよ」
そう言って、ラスクさんは人差し指を立てて、説明を始める。
帝国に潜入した潜入部隊だけど、その能力を駆使して、色々な場所で情報収集を始めていたらしい。
元々、実力者として潜り込んだのもあって、早い段階で上の役職につけてもらったこともあり、色々な話を聞けたようだ。
その中に、勇者が新たな兵器の実験をしようと、兵器をとある場所に移送するという計画があったらしい。
その兵器が何なのかまではわからなかったようだけど、すでに移送は始まっているようだ。
いつもなら、帝国が何を開発しようがどうでもいいことだけど、最近では、幻獣を捕らえるための兵器まで出始めているようだし、確認しておくに越したことはない。
それに、一つ妙なこともあったようだ。
「妙なこととは?」
「移送された方角から、強い気配を感じたらしい。恐らく幻獣のものだと思ったらしいんだけど、妙に反応がおかしくて断言しきれなかったみたい」
「なんだそれは」
同じ幻獣であれば、多少であれば、気配で分かる。
人化した状態でも、面と向かって話し合えば、気づくこともあるしね。
感じ取ったのは、そう言った幻獣の気配だったらしいのだけど、反応が通常のものと異なり、いまいち信憑性が薄かったようだ。
移送されたという兵器の先に、幻獣の気配。
これは、兵器の実験場に幻獣がいるのか、それとも……。
とにかく、確認しないことには始まらないね。
「その移送されたという兵器の場所は?」
「ここから大体北西の方角。記憶だと、あっちの方角に幻獣が治める町なんかはなかった気がするけど……」
「一つ懸念もある。とりあえず、向かってみるとしよう」
恐らく、リトの懸念していることと、俺が思っていることは一致している。
すなわち、その兵器こそが、捕らわれている幻獣であるという線。
アーリヤですら、兵器としか見ていない連中なのだから、生き物だろうが何だろうが、兵器と呼ぶ可能性は高い。
移送先に幻獣の治める町がないというのも、その懸念を深める原因だ。
気配がおかしかったのは、弱っているからなのか、それとも別の要因があるのか、それはわからないけど、助けて上げなくてはならないのは確かだろう。
「ちょっと待って、一応言うけど、白竜君を連れて行くのは危険じゃない?」
「確かにそうだが、いつまでも閉じこもっているわけにもいくまい。そのための護衛だ、そうだろう?」
「うむ。白き子竜は我が全力で守ろう」
帝国の騒ぎが落ち着くまで、ずっと閉じこもっているわけにもいかないからね。
まあ、半分くらいは俺の我儘も入っているけど、リトもそこら辺を理解してきてくれて何よりだ。
果たして、その兵器は例の幻獣なのか。
詳しい場所を聞きつつ、向かう準備を整えた。
感想、誤字報告ありがとうございます。




