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第二百八十九話:町へ潜入

 それから一週間ほど。ようやく成鳥と言えるくらいの大きさになった。

 まあ、普通の鳥に比べたら十分すぎるくらい大きいのだけど、ニクスの本来の姿を見ていると、まだかなり小さく感じる。

 これは、俺が大きくなったのもあるのかな? 成竜になるにはまだまだかかると思っていたけど、そう考えるとちゃんと成長しているんだなと思うね。


『これくらい成長すれば問題ないだろう。さっそく向かうぞ』


『それはいいんだけど、ちゃんと人化できる?』


 ニクスは行く気満々だけど、俺はまだちょっと心配だった。

 気配を感じ取って見るとわかるけど、元のニクスと比べると、だいぶマイルドになっている。

 これは恐らく、まだ魔力の量が少ないからだと思うんだよね。

 少ないというか、制限されてる? 多分、本来の力を扱うにはまだほど遠いんだろう。

 そんな状態で、常に魔力を消費し続ける人化の術を使って大丈夫なんだろうか?

 町に住むのが安全とは思っていたけど、なんだか急に心配になって来た。


『我を誰だと思ってる。何も問題はない』


『ならいいんだけど』


『ほれ、馬鹿なこと言ってないで行くぞ』


 そう言って、先陣を切るニクス。

 いくら戦えるレベルになったとは言っても、流石にまだ本調子じゃないし、先頭を飛ぶには早い。

 俺は慌てて飛び立ち、ニクスの前に出た。

 なんだかニクスは不満そうだったけど、安全には変えられない。

 ちゃんと成長するまでは、俺の庇護下にいてもらわねば。


『あれが例の町か』


 そんなことをしながら町へ向かい、遠目に確認できるところまで近づいた。

 相変わらず、町は立派で、探知魔法で見てみれば、今日も何人かの人々が狩りに出かけているのが見える。

 さて、ちゃんと会えるかはわからないけど、気を引き締めていくとしよう。


『ニクス、人化して?』


『わかったわかった。貴様は心配性だな』


 念のため、ちょっと遠いけど、この距離からもう人化していくとしよう。

 俺が人化を促すと、ニクスはやれやれと言った様子で人化の術を使った。

 ニクスの人化した姿は、人化した俺と同じくらいの少女だった。

 いつもの服装に合わせたのか、冒険者っぽい服装だけど、小さすぎて背伸びしているように見える。

 こうしてみると、妹みたいだな。


『何か不満か?』


『あ、いや、何でもない』


 まあ、服装が似合ってないのはともかく、ちゃんと人化できているようで何よりである。

 俺とフェルも同じく人化し、さっそく町に向かうことにした。


「おお……」


 門番などもおらず、普通に出入りできるようで、ちょっと拍子抜けしてしまったけど、こうしてみると、やはり立派な町だと思う。

 遠くからでもそう見えたのは、この壁の色だろうか。

 華やかな外観は、独特の美しさを放っている。

 近くで見ると、ちょっと圧倒されるね。


「おや、旅人さんか? こんなところに来るなんて珍しいな」


 そんなことを想いながら辺りを見回していると、近くを歩いていた人が話しかけてきた。

 この辺りには、旅人が来ることは珍しいらしい。

 この町は湿地の中にあり、わざわざここに来る人がいるということは、それはこの町が目的だということ。

 この町では、ワニ革を中心に、様々な特産品があるようだけど、それを好むのは商人だろうから、旅人がわざわざこの町に来ることはあまりないんだとか。


「たまたま近くに来たから探索していたらこの町を見つけただけだ」


「へぇ、もしかして、サランクロコダイルでも探しに来たのかな? あれはこの辺りにしかいないからね。サランブランドが有名になったのも、あのワニがいたからこそだ」


 どうやら、この町はサランというらしい。

 あのワニに目をつけた町の人々が、どうにか活用できないかと思考錯誤した末にできた町であり、今ではサランブランドとして、世界的にも有名なんだとか。

 ブランドにもなるほどのワニだったんだね、あれ。

 皮なら多少残してあるから、どこかに売れば高く売れるかな?

 まあ、割と綺麗だから、売る気はないけども。


「ブランドはどうでもいい。それより、この町のまとめ役に挨拶しておきたいのだが、どこにいるかわかるか?」


「まとめ役って言うと、イナバさんかな? あの人なら今は工房の方にいると思うよ」


「いなば……」


 もしかしてとは思っていたけど、本当にイナバさんなのか?

 まだ名前が同じだけって可能性もあるけど、これはもうほぼ確定したようなものだろう。


「それにしても、小さいのにまとめ役に挨拶したいなんて、偉いね」


「子供扱いするな」


「あはは、口が悪くてすいません……」


「いやいや、子供はこれくらい元気な方がいいさ」


 その後、工房の場所も教えてもらって、その人は去っていった。

 ニクスは、子供扱いされたことに不満のようだけど、その姿で子供扱いしない方が無理があると思う。

 俺も、心は大人のつもりだから、子供扱いされるのが嫌だって気持ちはわかるけどね。

 俺自身は、ニクスみたいな人に子供扱いされるなら、全然いいけど。


「意外とすんなり会えそうですね?」


「権力に固執しているわけではなさそうだな」


 どちらかというと、フラットな関係なんだと思う。

 まとめ役と言えども、現場のことをちゃんと考えて、同じ目線で考えてくれるみたいな。

 俺も、そんな理想の上司に出会えたらよかったんだけどなぁ……。

 まあ、過ぎたことを考えても仕方ないので、教えられた工房へと向かう。

 主に、ワニ革を使った製品を作る場所らしく、工房内は独特の空気に満ちていた。

 そんな場所の一角に、工房の人と話している兎が一匹。

 他の人達と同じく民族衣装のような服を着ているけど、顔は完全に兎のそれだった。


「……うん? あなた達は?」


「貴様がイナバか?」


「え? う、うん、そうだけど、誰でしょう?」


「にくす、いきなり、しつれい」


 初対面の人でも平気で貴様とか言っちゃうのはニクスの悪い癖だ。

 俺とフェルが急いで謝り、場を収める。

 工房の人も、見ない顔に少し警戒心をあらわにしているようだし、ここは慎重に行かないと。


「えっと、私達、たまたまこの町を見つけてきた冒険者なんですけど、まとめ役のイナバさんに挨拶をと思いまして」


「ああ、なるほどね? わざわざ挨拶しに来てくれるなんて、礼儀正しい人だなぁ」


 イナバさんは、工房の人に一言言うと、外で話そうと歩きだす。

 果たして、この人は探しているイナバさんなのだろうか?


「うん、ここなら邪魔にもならないでしょう。改めて、私はイナバ。一応、この町のまとめ役をさせてもらっているよ。あなた達は?」


「私はフェルミリアと言います。こっちは、ルミエールと、ニクスです」


「どうも」


「ふん」


「ふむふむ、覚えたよ。どうやら、ただ者ではなさそうだけど、私に何の用かな?」


 そう言って、イナバさんは辺りの様子を確認した後、声を潜めて聞いてくる。

 どうやら、こちらの正体には気づいているようだ。

 であるなら、遠慮する必要もない。

 先陣を切って、ニクスが話し始めた。


「わかっているなら話が早い。イナバ、貴様は幻獣だな?」


「そう言うあなた達も幻獣でしょう? ここ最近、幻獣の同胞に会うなんてめったになかったのに、一気に三人も来るなんて、なにかあったのかな?」


「我らがここに来たのは、貴様に会って確かめたいことがあったからだ」


 ニクスは、俺が聞いた竜脈の声について話す。

 人や同胞を助けてほしいと願う声。苦し気でありながら、他者の救いを願うその声は、アーリヤの信念と似たものを感じた。

 だからこそ、アーリヤに助けられた経験もあり、人と幻獣を同時に助けてほしいと願ってもおかしくないイナバさんを探したのである。

 果たして、イナバさんは、あの声の主なのだろうか?

 俺は、ドキドキしながら、返答を期待した。

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