第二百八十六話:立場の逆転
翌日。なにやら手の中で暴れている気配を感じ取って、目を覚ます。
目を開けると、小さな雛鳥が手の中にいる。
あれ、なんでこんな小さな鳥が? と思って、すぐに、ニクスが転生した姿だと思い出す。
昨日は、心配のあまり、両手に抱いて寝てしまったけれど、どうやら寝ている間に抱きしめてしまっていたらしい。
なんか、ニクスと出会ったばかりのことを思い出すな。
あの時は、ニクスが俺に翼を貸してくれていたのに、今は逆転していると考えると、少し感慨深いものがある。
『ええい、さっさと離さんか! この寝坊助め!』
『あ、ごめん』
流石に握りつぶすほど強く握ってはいないが、それでも身動きとれなくなっていたのは不満だったらしい。
俺が手を離すと、翼をばたつかせながら悪態をついていた。
俺が両手で握るだけで抵抗できないほど弱くなっているのか。これは、とことん守って上げなければ。
『おはよう、ニクス。体の調子はどう?』
『貴様に握られていたせいで羽がしおれてしまっているくらいだ』
『ごめんて』
とりあえず、起きたことだし、朝ご飯にしよう。
フェルはどうしているかな? そう思い、辺りを見回してみると、人化したフェルの姿があった。
辺りに、調理器具が並んでいるところを見ると、すでに準備をしてくれていたらしい。
『フェル、おはよう』
「あ、ルミエール、おはよう。ニクスさんは大丈夫?」
『うん、大丈夫。ちょっと不機嫌だけど』
『誰のせいだ』
ニクスは、少しジト目をしながら、フェルの下へと近寄っていく。
朝ご飯は、スープのようだ。
港町で仕入れた香辛料を使っているのか、かなりいい匂いがする。
野宿で匂いの立つものはあまり推奨されないけど、まあ、ここなら多分大丈夫だろう。
もし魔物がやってくるようなら、返り討ちにして晩御飯になってもらうし、その方が手間が省ける。
ニクスも期待しているようで、皿に盛られるのを待っているようだった。
「あ、いつもの調子で作っちゃいましたけど、ニクスさんはその姿でも食べられますか?」
『問題ない。体は確かに雛だが、体の機能は引き継がれている。幼い体だからと言って、食べられないということはない』
親が雛に餌を食べさせる時は、口移しで与えることも多いと思うけど、ニクスはそこまでする必要はないと言っている。
まあ、そうでなければ、一人で転生などできないだろうしね。
でも、その姿でスープはちょっと難しい気もする。
小ささとかではなく、口の形状的に。
『ニクス、その状態で人化はできるの?』
『できないことはない。体相応に幼くはなるだろうがな』
『なら、町にも行こうと思えば行けるのか』
『なぜそこで町が出てくる』
人化できるなら、スープもちゃんと飲めそうだなとは思ったけど、それよりも、町で活動できるかどうかは結構重要かもしれないと思った。
というのも、今のニクスの状態は、かなり弱体化しており、野生で暮らすには結構なリスクが伴う。
しかし、町なら魔物などの脅威はないわけだし、治安がいい町なら、不意に襲われる心配もない。
安全な住処と考えると、町はかなりいい物件なわけだ。
もちろん、入るためには人化する必要があるから、継続的に魔力を使うことになるし、魔力の量も制限されている今の状態では、長く滞在することはできないかもしれないけど、元々今までも定期的に元の姿に戻って魔力の回復に努めていたわけだし、それを考えれば誤差なような気もする。
町に行くというのも、一つの手ではないだろうか?
『言っておくが、この姿で町に行く気はないぞ』
『なんでよ』
『貴様は自分が信用できない奴が周りにうじゃうじゃいるところに身を置きたいと思うか? それも、簡単に蹴散らせるいつもの状態ならともかく、弱体化して碌に抵抗できないかもしれない時に』
『それは、まあ……』
ニクスからしたら、人間なんて信用に値しないって考えが先に来るんだろう。
俺だって、鬼畜な上司と一緒に飲みに出かけるなんてことになったら、全力で遠慮したいところだ。
いい考えだと思ったけど、幼い姿になってしまうということは、今の状態だと保護者はフェルってことになるし、それだと甘く見られがちになると思うから、危険が寄ってくる可能性もある。
特に、街中でも平気で人攫いしていく奴もいるらしいしね。
俺が一緒なら蹴散らせるけど、ニクスだけだったら、最悪そのまま抵抗できない可能性もあるし。
そう考えると、町に行くのはあまり得策ではないかもね。
『足止めしてしまって悪いとは思うが、せめてある程度力が使えるようになるまでは、町に行く気はない』
『わかったよ。俺も、ニクスを危険に晒したいわけじゃないし』
なら、しばらくはここの住処を使うことになる。
であるなら、周りの地形を把握しておいた方がいいだろう。
ご飯を食べたら、外に出てみようかな?
『ニクスは、しばらくはここから出ないんだよね?』
『ああ。数日はな』
『なら、それまで俺が辺りの様子を見てくるね』
「ルミエール、私は?」
『フェルはニクスを見ていてあげて。万が一があるかもしれないし』
ないとは思うけど、この住処に突撃されたりしたら堪ったものではないからね。
スープの匂いで、意図せず誘引してしまっている可能性もあることだし、守り手は必要だ。
『やれやれ、随分と過保護なことだ』
『当たり前でしょ。ニクスは俺達が守るよ』
「その通りです。しばらくは、私達を頼りにしてください」
『……まあ、今はお言葉に甘えておくとしよう』
少しだけ素直になったニクスに笑顔を見せつつ、ご飯を食べる。
流石フェル、料理の腕は一流だ。
何度でもおかわりしたいところではあるけど、今は周りの安全確保をしなければならない。
俺は、フェルに後を任せると、さっそく外へと出る。
この辺りは湿地が多いみたいだけど、初めての地形だから、ちょっと新鮮だね。
『さて、何があるかな?』
翼を広げ、空へ飛び立つ。
ところどころに木が生えてはいるが、森と違ってまばらなので、視界が確保されていていい。
探知魔法を使って辺りを探して見たけど、ところどころに魔物の反応がある。
見た限り……ワニっぽい何かかな?
なにやら独特の色合いをしているけど、あの形はワニだと思う。
ワニっておいしいのかな? 食べたことないけど。
『そこまで脅威ではないかな?』
他にも、でっかい口のついた花とか、石像と見まがうようなカエルとか、色々いたけど、みんな結構大人しい印象。
天敵が少ないんだろうか。それはそれで好都合だけど。
まあ、魔物がいるということは、食料確保もできるということだし、安全面でも、好戦的な奴はいなさそうだから、住処が襲撃されるということもないだろう。
ひとまず安心しつつ、住処へと戻る。
さて、これからどうなるかな。
誤字報告ありがとうございます。




