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第二百八十四話:時期が来た

 夏の暑さが過ぎ去り、木々の葉がだんだんと色づき始めた頃。

 俺達は、ノシスさんから聞いた情報を頼りに、イナバさんを探していた。

 確実にどこにいるという情報はなく、アーリヤによって救われた経緯があることや、ノシスさんが最後に会った場所などから推察して、恐らくこのあたりの地方にいるということは予測がついたけど、それでも範囲が広すぎる。

 そのせいで、ここ最近は、しらみつぶしに見て回ることになってしまっていた。


『そう簡単には見つからないか』


『本当にこの辺りにいるんですか?』


『引っ越しをしていないなら可能性は高い。とはいえ、ノシスの奴が最後に会った時期を考えると、それも十分考えられる。もう少し探してみて、見つからないようであれば、別の場所を当たって見るのも手かもしれんな』


 ノシスさんがイナバさんと出会ったのは数百年も前の話。

 それだけ経てば、周りの状況も変化しているだろうし、どこかに移り住んでいる可能性もある。

 もしそうなったら、いよいよもって手掛かりがなくなってしまうけど、うまい具合に見つけられるだろうか。


『はぁ……』


『ニクス、大丈夫?』


 いつもは先頭を飛んでいるニクスだけど、ここ最近は、俺に先頭を譲って、後ろでゆっくり飛んでいることが多い。

 レミアの大森林を出たあたりから、なんだか調子が悪そうなんだよね。

 飛べないほど弱っているわけではないみたいだけど、それでも、こうしてため息をつく機会が多くなっている気がする。

 もしかして、どこか怪我しているのだろうか? もしそうなら、早く治してあげないといけないけど。


『大丈夫だ。ただ、そろそろ時期なのかもしれん』


『時期?』


 ニクスによると、どうやら時期とは転生の時期ということらしい。

 フェニックスであるニクスは、転生を繰り返すことによって、永遠に近い命を持っているけど、不慮の事故などによって命を落とすなどに関わらず、定期的に転生をする必要があるらしい。

 本来は、そのスパンは非常に長く、短くても百年は持つらしいのだけど、ノシスの館で姿を変えられたことによって、その周期に少し狂いが出ているらしい。

 まあ、確かにあれって魂自体を変えているから、何かしらの狂いが出ても不思議はないよね。

 俺自身は、特に何の不調もないけれど、転生を繰り返すニクスだからこそ起こりうる症状なのかもしれない。


『転生すると、一時的に弱体化する。だから、安全な住処が必要だ』


『弱体化って、具体的には?』


『わかりやすいのは大きさの変化だな。今と比べれば、雛鳥のように小さくなるだろう』


『へぇ』


 転生すると、今の姿を失い、代わりに新たな体を得るらしい。

 その際、得られる体は転生直後だと子供の姿となってしまい、それに伴って扱える魔法や魔力量なんかにも制限がかかるのだとか。

 ニクスは無敵だと思っていたけど、そんな制限があるなら、転生し続けるというのも大変なのかもしれないね。


『じゃあ、その間は俺が守ってあげるね』


『ぬかせ、貴様に守られるほど弱くはない。だが、今より不便になるのは確実。いざという時は、頼りにさせてもらうぞ』


『うんっ』


 ニクスが弱体化するのはちょっと心細いが、逆に今まで守られるばかりだった俺が、守る立場になれるというのは、少し嬉しい。

 果たして、どれくらいの間弱体化しているのかはわからないけど、その間は、しっかりと守り抜いていくとしよう。


『でも、そうなると、早めに住処を決めないとですね』


『ああ。だが、生憎とこの辺りはあまり来たことがなくてな。一番近くの住処まで行くにしても時間がかかる』


 世界各地に住処を持っているニクスではあるけど、この辺りはあまり来たことがないらしい。

 まあ、来たことあったら、イナバさんのことももしかしたら知っていたかもしれないしね。

 となると、一から住処を探さなくてはならない。


『フェル、良さげな場所を探してくれる?』


『任せて。ニクスさんから教わったことを、今こそ実践する時だよ』


 ひとまず、調子も悪そうなので、一度地上に降り、フェルに住処を探してもらうことにする。

 住処の探し方は、以前ニクスが教えていたこともあって、フェルは得意げに飛び去って行った。

 なんだかんだ、ニクスにはお世話になっているし、恩返しができると考えれば、張り切る気持ちもわかる。

 もしかしたら、俺と同じような気持ちになっているのかもしれないね。


『もう少しくらいなら飛べると思ったが、思った以上に疲労が溜まっているな……』


『そんなに調子悪かったなら、すぐに言ってくれたらよかったのに』


『ふん、野生では常に万全の状態など存在しない。この程度の疲労で音を上げていては、到底生き残れんぞ』


『それはそうかもしれないけど、今はまだ余裕もあるんだし、無理する必要はないんじゃない?』


『イナバはいいのか? こうしている間にも、どこかに行ってしまうかもしれんぞ?』


『そんなのわからないし、無理してニクスが体調を崩す方が心配だよ』


 強がってはいるけど、いつもよりも警戒がおろそかになっているのがわかる。

 いつもなら、近づく前に倒してしまっている魔物の存在を見逃していたからね。

 俺は、いつもニクスがやるように、魔法でちゃちゃっと片付ける。

 その様子を見て、ニクスは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


『疲れてる時は無理しなくていいの。俺もいるんだしさ』


『はぁ……貴様のような子供に心配されるとは、我も親としては未熟だな』


『子が親を助けるのは当たり前のことでしょ』


 まあ、現代社会では必ずしもそうとは限らないが、少なくとも俺は、親に与えてもらったことは、できる限り返すべきだと思っている。

 実際、今までニクスは俺の我儘をいっぱい聞いてくれた。

 ニクスを心配することが、少しでも恩返しになるなら、今の目的を放置してでも叶えるべきだと思う。

 一応、もしかしたら声の主は弱っている可能性もあるから、急ぐ必要はあるかもしれないけど、流石に優先順位はこちらの方が上だからね。

 大好きな親と知らない他人だったら、間違いなく親を選ぶ。


『ルミエール、見つけてきたよ』


『フェル、早かったね』


 しばらく休んでいると、夕方頃になって、フェルが戻ってきた。

 まだ数時間程度しか経っていないのに、よく見付けたものだ。

 俺は、ニクスに目配せして、その住処に移動する準備をする。

 さて、どんなところを見つけたんだろうか?


『こっちだよ』


 フェルの先導の下、空へ飛び立つ。

 この辺りの地形だけど、湿地が多い印象だ。

 水場が豊富にあるが、その分じめじめしていて、虫が多い。

 水を嫌うニクスにとっては、あまり好ましくない地形であるのは間違いないだろう。

 安全な住処と考えると、少なくとも水気がない場所でなければならないだろう。

 この場所で、そんな住処あるんだろうか?

 少し心配に思いつつも、フェルを信じて、飛び続けるのだった。

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