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幕間:館に響く声

 幻獣の一体、ノシスの視点です。

 夢と現実を曖昧にする幻獣。その名は、各地に轟いていた。

 本来、幻獣とは、神の遣いとして、人々を助けるための存在だ。

 しかし、その能力には様々あり、中には限定的な願いしか叶えられない幻獣もいる。

 そんな中で、魂を変質させ、望んだ姿にできるというのは、破格の能力だった。

 だからこそ、多くの人に必要とされ、私もそれが嬉しくて、何度も叶えていたものだけど、次第に、邪な考えを持つ集団に狙われるようになり、身を隠すようになった。

 最初こそ、こちらを神のように崇め、崇拝していたはずなのに、なんで高々百年ちょっとでこんなことになるのかがわからない。

 この時、私は人とはどうしてこんなに愚かなんだろうと疑問に思い始めていた。

 そして、その考えは的中し、私が大切にしていた人の命を奪った。

 本当に、バカばっかり。そして、同時に自分のふがいなさも痛感した。

 多くの人の願いを叶えてきたのに、大切な人の願いは叶えられないのかとね。


『もう生きてはいないだろうけど、あの子はあの後どうしていたんだろう?』


 託された願い。それは、娘のことを守って欲しいというものだった。

 そのために用意した兵器は軒並み使い物にならず、内部からの反乱によってあっけなく崩れ去ったわけだけど、結局、私はあの子を最後まで守れなかった。

 気が付いた時には、私は森の中で洋館を作り上げ、そこにあの子を攫った奴らを閉じ込めていた。

 私は一体、あの時何をしたんだろう?

 思い出そうにも、すでにかなりの時間が経ってしまっている。そして、思い出せたとしても、もう変えようのないことだ。どうしようもない。

 私は、お気に入りの寝室に飾ってある絵を見る。

 在りし日のこと、あの人がわざわざ絵師を雇って描かせた一品。

 神の遣いとして、今世まで残されている石像やらなんやらは多いけど、ここまで状態のいい絵は他にはないだろう。

 これは間違いなく、私の一番の宝物。この部屋だって、その当時に使っていた部屋を再現したものだ。

 ここに邪悪な魂は寄せ付けないし、存在すら明かすことはない。

 でも、そう考えると、なんで私はあの幻獣を通したんだろう?


『今考えると、不思議な人達だったよね』


 飴の招待を受けて、ノコノコやってきた幻獣。

 元々、誘われてくる人はあんまりいないけど、幻獣が来るのは相当に珍しい。

 さらに言うなら、人化してたしね。今の時代、人化する奴なんてそうそういないのに。

 あの子、ルミエールは、姿を屋敷に変えられても、怒らなかった。

 普通、自分の姿が変わったら、怒るなり、叫び散らすなりあるだろう。

 でも、ルミエールは少し困惑したくらいで、至極冷静だった。

 まさか、今までにもそう言うことをされた経験があるのか?

 不可解なのは、魂を変質させて姿を変えたにもかかわらず、体が残ったこと。

 魂を変質させる以上、その姿は魂に引っ張られ、ふさわしい姿に形を変える。当然ながら、体はその姿になるはずで、元の形が残るなどありえない。

 それなのに、ルミエールは体が残ったし、もっと言うなら人化が解ける様子すらなかった。

 後に、ドラゴンの子供だということはわかったけど、仮にドラゴンだとしても、そんな耐性があるのはおかしな話だ。

 一体、あの子は何者なんだろうか?


『とっても優しい子だったよね。まるで、アーリヤのようだった』


 アーリヤのことは、少しだけ知っている。

 と言っても、私が願いを叶えた人が、たまたまアーリヤの管轄から来たってだけの話なんだけど。

 その人の願いは特殊だった。

 元々は、泥棒を働いて逃げていたらしいのだけど、アーリヤはその人を改心させ、罪を償わせたのだという。

 その後、アーリヤによって心を入れ替えたから、新しい土地で事業を始めようとなって、私の下に来た。

 その人の願いは、アーリヤのように、微笑みを絶やさず、安心感のある女性に変えてほしいというものだった。

 元々、その人は男だったんだけどね。

 そんな願いだったから、妙に印象に残って、アーリヤとは凄い幻獣なんだなと感心したものだ。

 直接会ったことはないけれど、ルミエールは、そんなアーリヤに似た何かを感じる。


『アーリヤは、結局亡くなっちゃったけど、あの子はどうなるかな』


 アーリヤは、神に見初められて、強大な力を手にした結果、それを求める愚かな人々によって戦争が起き、その責任を感じて自殺したらしい。

 本当に、人はどこまでも愚かだし、責任を感じる必要もなかった気もするけど、それだけ優しい人だったってことなんだろう。

 今の時代、幻獣の存在はあまり浸透していないようだけど、もしあの子も、アーリヤと同じ末路を辿るようなことになったら、純粋に悲しいな。


『……ああ、そういえば、声が聞こえるとか言ってたよね?』


 少し感傷にふけっていると、ルミエールが言っていたことを思い出した。

 ルミエールが屋敷になっている間、不思議な声が聞こえたのだという。

 私はそれを、この屋敷に住まう物達の声だと思っていたけど、どうやら違うようだ。

 試しに、耳を澄ませてみる。すると、確かに聞こえてくるものがある。

 必死に他者を助けようとする声。自責の念を抱える声。どちらも、ルミエールが言っていた通りだ。

 ニクスが言っていたけれど、確かにアーリヤの考えに似ていると言えば似ている。

 もし、アーリヤが生きていれば、自分のせいで戦争が起こったことを後悔し、自分を責めるだろうから。

 ルミエール達は、この声をアーリヤの意思を継ぐ幻獣の声なのではないかと推察していたけど、どうにも引っかかる。

 竜脈に声を乗せてって言うのは、できないことはないだろうけど、伝えるべき内容が微妙な気がするんだよね。

 もちろん、自分ができない状態にあって、誰かに人や幻獣を助けてほしいと願うのはあり得る話ではあるけど、それと同時に、自分のせいでこうなったと続ける必要はない気がする。

 それは単なる慟哭であり、懇願ではないと思うから。

 それだけ後悔しているという可能性もあるけど、単にアーリヤの意思を継いだってだけなら、自分のせいでって言うのは少しおかしい気もするよね。


『ふーむ、何者なんだろうね?』


 アーリヤが生きているのだったら、本人って言うのが一番可能性がありそうだけど、いないってなると一気に難しくなる。

 竜脈に響く声。もう一つ可能性があるとしたら……。


『……いや、流石にないか』


 ふと思いついたことがあったけど、流石にないと思って考えを振り払う。

 ああ、私らしくない。イレギュラーがあったことで、ちょっと感傷的になっているのかもしれない。

 頬を叩き、気持ちを入れ替える。

 さて、次に招待されてくるのは誰だろう?

 私は、いつ来るともわからない招待客を待ちながら、お気に入りの寝室でくつろぐのだった。

 感想ありがとうございます。

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