幕間:子育ての難しさ
主人公の保護者、ニクスの視点です。
「ニクスさん、本当に大丈夫なんですか?」
「しつこいぞ。白竜のがそんな簡単にくたばるわけないだろう」
「それはそうですけど……」
ダンジョンに白竜のを叩き落としてからしばらく、小娘はそわそわと落ち着きのなさそうな様子でそう聞いてくる。
ダンジョンから出る時も、借家に戻った後も、定期的に聞いてくるものだから、面倒この上ない。
この町に来たのは、白竜のを教育するためだ。
世界を見て回るのは、まあいいだろう。
我も、人の可能性を見定めるためにも、様々な場所を回るべきだと思って、実際に旅をしてきた。
しかし、白竜のに関しては、目的を持っていなかった。
ただ漠然と、世界を見て回りたいというものだから、我は何か目的を持ったらどうかと提案した。
そうしたら、白竜のは投げやりに、我の言葉に賛同する形で、じゃあ強くなるためでいいやと言ってきたのだ。
確かに、そう提案したのは我だが、その言い方だと、目的など何でもいいように聞こえる。
ここ最近、白竜のはたるみ過ぎだ。
小娘の教育をある程度終わらせ、幻獣の身となって番になれたことも大きいのだろう。見事なまでのだらけっぷりだ。
それでいて、人助けはいっちょ前にしたいというし、もうわけがわからない。
だからこそ、我は少しお灸をすえてやることにしたのだ。
強くなるために旅をすると一応は頷いたのだから、そのための修行は断れるはずもない。
今回、ダンジョンに行って、落とし穴から突き落としたのも、文句は言えないだろう。
もちろん、今更ダンジョンの魔物程度に白竜のが負けるとは思えんが、罠も多いこのダンジョンなら、応用の練習にはなる。
せいぜい、きちんと修行に励んで、強くなることだ。
「即死の罠とかもあるんですよね? もしそれにかかったら……」
「人間どもにとっては即死でも、白竜のなら大した脅威でもないだろう。貴様は槍に貫かれた程度で死ぬか? そうじゃないだろう」
「で、でも……」
誤算だったのは、小娘がうるさすぎることだ。
確かに、番である小娘が白竜のを心配する気持ちはわかる。
我とて、全く心配していないわけではなく、万が一があったらどうしようという気持ちは抱えているが、白竜のに限って、その万が一を引くとは思えない。
今の白竜のの実力なら、魔物は十分対処できるだろうし、罠に関しても、あの鉄壁の装甲があれば、大抵のことは何とか出来るはずだ。
そもそも、勝算がなければ、そんな危険な真似はしない。
これも、強くなるための修行の一環だ。修行がぬるかったら、意味がないだろう。
「ええいやかましい! 貴様は白竜のを信用できんのか!」
「それとこれとは話が別です。親しい人と離れ離れになったら、寂しくなるものでしょう?」
「生きていることがわかっていれば、そこまで寂しいとは思わん」
「ああ、ニクスさんはそうですか……」
友だったとしても、そんな頻繁に会わなくても、生きているのが確認できていれば、問題はないだろう。
一緒にいるべきなのは家族であり、それも礼儀というものがある。
もちろん、白竜のは今や我の子供も同然だし、そう言う意味ではいつまでも一緒にいたいとは思うが、この程度で音を上げるような鍛え方はしていないし、むしろ、それを乗り越えて帰ってきた姿を拝む方が、よっぽど気分がいい。
それに元々、旅をすることが多かった我にとって、特定の誰かと長い間一緒にいるということは少なかった。
寿命によって死に別れるということも稀だったし、会おうと思えばいつでも会えるなら、それでいいと思っている。
小娘は、むしろずっと一緒にいたいと思っているようだがな。
「番として、相手を心配するのはいいだろう。しかし、過ぎた心配は相手の負担になる。貴様とて、白竜のに四六時中付きまとわれたら、鬱陶しいと思う時もあるだろう?」
「いえ、特には」
「……はぁ、貴様らは揃いも揃って本当に心配性だな」
食事の時も、寝る時も一緒というのがこいつらの普通なんだろうか?
それとも、まだ子供だから、ぬくもりに飢えているんだろうか。
確かに、子供を寝かしつける時に、親は寄り添って子を暖めるが、我はそう言うことはあまりしてこなかった。
元々賢かったからというのはあるが、あまりに甘やかしすぎても、自堕落な大人が出来上がると思っていたからな。
野生で生活するなら、自分の身は自分で守れた方がいい。そのためには、ある程度の厳しさは必要だった。
もし、こいつらに子供でもできた暁には、きっと甘やかしまくるだろう。
そうして成長した子供がどんな風になるのか、今から不安で仕方ない。
他の家族の子育てに口出しすべきではないだろうが、その時は我も気を引き締めなければならなさそうだ。
「心配せずとも、奴なら三日もあれば帰ってくるだろう。それまでは、修行でもしながら待てばいい」
「正直、こんな状態では身が入らないと思います」
「ならせめて料理だけでも作ってくれ。我のせめてもの楽しみだ」
「むぅ、わかりました」
やれやれ、小娘も変わったものだ。
人間だった頃は、もっとストイックな性格だと思っていたが、幻獣になったことで、余裕が生まれてしまったのかもしれない。
なにせ、ユグドラシルの実まで貰ったのだからな。他の生まれたての幻獣に比べたら、すでに大人レベルの魔力を持っている。
白竜のも白竜ので、アーリヤの関係者だからかわからんが、並外れた力を持っているし、普通の子供とは違うのかもしれない。
「こんな調子で大丈夫だろうか……」
白竜のは、今となっては間違いなく我の家族だし、きちんと教育して、まともな大人にしてやりたい。
小娘もまあ、白竜のの番だし、子供であるのに違いはないから、我の子供と言ってもいいだろう。
どうせ育てるのなら、強い子に育ってほしい。そう思うのは、親として当然のことだと思うが、この調子だと、共依存が過ぎて、共倒れになる気がする。
そもそも、小娘がいなかったとしても、白竜のは我にも相当懐いている。
なんだかんだ、甘えてくれるし、我儘を言うこともあるけど、きちんとお礼を言ってくれる。
こんな調子で、我がいなくなった時にやって行けるのか心配だ。
我は何度でも転生できるから、その気になればいつまでも一緒にいることはできるかもしれないが、それはそれで白竜のの将来が心配である。
今回の修行で、少しでも上向いてくれたらいいと思ったが、小娘の様子を見ると、本当にこれでいいのかわからなくなってくるな。
「子育ては難しいな」
白竜のが戻ってくるまでの間、小娘の愚痴に付き合わされることになるだろう。
自分でやっておいてなんだが、早く帰ってきてほしいと願うのだった。




