表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
310/320

幕間:助けるべきは

 流れの騎士、ディートリヒの視点です。

 人々を助けるのが騎士の役目。そう信じて、今まで剣を振るい続けてきたけれど、ここ最近になって、振るう相手を間違えていたことに気づかされた。

 きっかけは、とあるダンジョンで出会った一人の少女だ。

 そのダンジョンは、未だに未踏破らしく、奥の階層に至っては、未知の領域。

 私も、そこに倒すべき相手がいると感じなければ、赴くことはなかった場所だ。

 そもそも、ダンジョンに入れるのは冒険者か国の許可を貰った者のみ。

 各地を回るのに便利だからという理由で、冒険者としても登録している私はともかく、まだ冒険者にすらなれないような子供が入り込めるような場所ではない。

 だが、その理由は、一目見た時にすぐにわかった。

 子供なのは見た目だけ。その内に秘めた力は、私がかつて、聖なる泉にて聞いた声と似た雰囲気を感じさせた。

 なるほど、神であれば、分体を用いてどこへでも行けるということか。

 だが、あえて子供の姿をしているということは、正体がばれたくない理由があるのだろう。

 そう思い、不敬であるとは思いつつも、私は普通の子供に接するように声をかけた。

 とても怯えている様子で、言葉も舌足らずだったが、この方は間違いなく私の命の恩人である。

 いっそのこと、このまま共に旅をするのもいいかもしれない。そう思っていたのだけれど……。


「まさか、正体は幻獣。神の遣いとはな……」


 ダンジョンから脱出する際、私はここに来るより前から感じていた強力な気配が近づいてくるのを感じた。

 その見た目は、成人したばかりと思わしき女性と、明らかに強者のオーラを漂わせる女性。

 いずれも人の姿ではあったが、その正体が、探し求めていた強力な魔物であることはすぐにわかった。

 だが、いくら正体が魔物であっても、人の姿の状態で戦えば、罰せられる可能性もあるし、なにより、こんなダンジョンの入り口で戦えば、他の人に危害が及ぶ可能性が高かった。

 私は、子供に理解ある大人を演じ、その二人を町の外まで誘導した。

 そして、教育と称して、剣を抜いた。

 槍を持った女性、ニクスは、かなりの実力者だった。

 こちらもある程度本気で戦っていたが、それでも軽くあしらわれる。

 もし、このまま正体を現すようなことがあれば、もしかしたら勝てないかもしれないとすら思った。

 しかし、今は私の信じる神がついている。無様を晒すわけにはいかない。

 そう思って戦い続けていたけど、その途中で、件の少女、ルミエールがニクスを許してしまった。

 私が持つ力は、泉の声を聞いた時に備わった。それすなわち、倒すべき相手を察知する能力だったはずである。

 しかし、その能力を授けた張本人は、倒すべき相手を許している。

 これは、一体どういうことだろうか?

 私は、今一度、ほんとに自分のやっていることは正しいのかと思い直し、一度身を引いた。

 もしかしたら、私が倒していた相手は……。

 そう思いながら町をぶらついていると、再びルミエールと出会った。

 ルミエールは、私が聞いた声のことを神の遣いである幻獣だと推察し、自らも幻獣だということを明かした。

 神の遣い、幻獣、聞いたことはなかったが、明らかに人ではない雰囲気を漂わせているのだから、わざわざ嘘を言う必要もないだろう。

 同時に、私が倒してきた相手は、泉の声が助けてほしいと願っていた同胞であることに気づかされた。

 あの能力は、倒すべき相手を示しているのではなく、助けるべき相手を示していたのだ。

 それを知った時の衝撃は計り知れない。私は、正義を謳いながら、助けるべき相手を手にかけてきたのだから。


「私は、罪を償えるのだろうか」


 結果として、ルミエールは私を赦してくれた。

 勘違いなら仕方ないと。

 しかし、勘違いでも何でも、助けるべき相手を倒してしまっていたことは事実。

 つい先ほど倒したドラゴンも、ルミエールの同胞だったかもしれない。

 それを考えると、胸が痛くなる。

 これからは、幻獣を助けることで、罪滅ぼしをしたいと考えたが、本当にそんなことができるんだろうか?

 人々を助けるという使命は変わらない。それを叶えつつ、幻獣をも助けることはできるんだろうか?


「……迷っていても仕方ない。今は、信じて進むしかないだろう」


 できるかどうかはわからなくても、立ち止まったままでは可能性はゼロのままだ。

 ならば、できるところからやっていくしかない。

 私は、ダンジョンのある町を発ち、感じるがままに次の町を目指す。

 次に辿り着いた町は、定期的にやってくる人攫いに困っているようだった。

 人攫いと言っても、攫ってくるのは人ではない。ハーピーと言う魔物である。

 元々は、森の奥に住みついていたらしいのだが、ここ最近は森の浅瀬まで出てくるようになり、採集や木こりをしている人を攫って行くのだとか。

 いつもなら、さっさとその魔物を退治し、元凶であろう魔物も一緒に討伐するのが普通だが、今は先日の反省がある。

 幸い、ニクスから、幻獣であるかどうかを見破る術を教えてもらった。

 なんという意味かは知らないが、この言葉を口にすれば、応えてくれるのだという。

 私は早速森へと赴き、件のハーピーに対して、その言葉をかけてみることにした。


『……!』


「わかるか?」


『……! ……!』


 どうやら、話が通じたらしい。何と言っているかはわからないが、こいつらは幻獣であるようだ。

 ハーピーと言えば、各地でも目撃例がある割と一般的な魔物のはずだが、それすらも幻獣となると、もっと数の多い、ゴブリンとかも幻獣なのではないかと疑ってしまう。

 流石に、そんなことはないと信じたい。もしそれが真実であったなら、私はもう魔物退治などできなくなる。


「? なんだ?」


 しばらくの間、なにやら喋っていたようだが、言葉が通じないとわかったのか、こちらに向かって手を差し伸べてきた。

 握手でもしろというのだろうか?

 普段なら、不用意に魔物に手を伸ばすなどしないが、応えてくれたということは、幻獣であるのは間違いないだろう。

 私は、控えめにその手を掴む。すると、その瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた。


「もしもし? 聞こえるかしら?」


「な、なんだ? 誰だ?」


「ああ、驚かせてごめんなさいね。今、そのハーピーを通じて、声を届けているの」


 声の主は、どこか遠い場所にいるらしい。

 ハーピーを通じて声を届ける、ということは、この声の主はハーピー達の親玉的な存在なんだろうか。

 まさか、こんな形で会話をすることになるとは思ってもみなかった。


「どうやら、ニクスの名を口にしたみたいね。もしかして、ニクスを知っているのかしら?」


「ああ、先日会った。伝えた言葉は、ニクスから教わったものだ」


「ニクスがわざわざねぇ……。まあ、事情は分かったわ。それで、何を聞きたいのかしら?」


「実はな……」


 私は、近隣の村でハーピーによる人攫いが多発していることを話す。

 それを聞いて、相手はすぐに納得したのか、すぐにやめさせるように通達を出すと言っていた。


「情報収集のつもりだったんだけど、ちょっと強引だったかしらね? そこにいる協力者に方法は一任していたんだけど、まさかそんなことになっているとは思わなかったわ」


「情報収集? 何のために?」


「こちらにも色々あるのよ。迷惑をかけてごめんなさいね」


 その後も、色々と話をしてくれて、より一層幻獣への理解が深まったような気がする。

 まさか、こんな風に幻獣と会話することになるとは思わなかったな。

 私は、今後もこんな風に会話することになるのだろうかと少し不安に思いつつ、何とかやっていけるかもしれないと思い直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ