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第二百七十三話:救うべき者

「……情報が足りんな」


 しばらく考え込んでいたが、ぽつりとそう呟いた。

 何かわかったのか聞いてみたけど、一応、共通点が他にもあることに気づいたらしい。

 それが、竜脈の有無だ。

 竜脈とは、星に流れる魔力の道であり、その付近は魔力が充満しやすい。

 魔力は大地に影響を与え、豊かにしたり、強固にしたり、様々な効果をもたらす。

 レミアの大森林は、そんな竜脈が複数通る場所であり、その泉も、十中八九その近くだと推察できる。

 俺が以前声を聞いたあの滝も、竜脈が近くを通っているという話だった。

 確かに、竜脈の有無は、共通点になるかもしれない。


「でも、りゅうみゃく、なに、かんけい?」


「だから情報が足りんと言ったのだ。たった二か所、それも、一つはこいつから聞いただけの情報では、詳しいことはわからん」


 仮に、竜脈が共通点だったとして、だから? という話ではある。

 一応、竜脈は星の血管とも称される大事なもので、それに異常があれば、その付近の大地は腐っていくという事象があるけれど、まさか竜脈が意思を持ち、それを知らせてきたとでも言うのだろうか?

 大地の腐食は唐突に起こるものではない。少しずつ、毒が蝕むようにじわじわと進行していく。だから、見た目には異常がないようにも見える。

 それを知らせようと、助けを求めたと考えれば、声の聞こえた理由にはなるだろう。

 でも、実際に求めてきたのは、人々や幻獣を助けることであり、竜脈の修理というわけではない。

 人々を助けることが、竜脈の維持に繋がるとでも? そこらへんは、詳しくないからよくわからない。


「あの声は、幻獣のものだという話ではなかったのか?」


「伝えてきた内容を考えれば、その可能性が高い。となると、竜脈を通じて、助けを求めている奴がいるということか」


 ニクスによると、竜脈は世界中に張り巡らされており、すべては繋がっているという。

 そして、一部の転移系の能力を持つ幻獣は、その竜脈の流れに乗って移動するらしく、竜脈のある場所なら、どこへでも移動できるのだそうだ。

 これを利用すれば、声だけを遠くに届けることも可能なのではないかとのこと。


「どうやら、声の主は弱っているようだからな。転移はできなくとも、声だけを伝えたということはあり得るかもしれん」


「そんなに弱っているのに、自分を助けてとは言わないんですね」


「そこが謎だな。もう長くないと悟って、自らの願いを言ったか、あるいは……」


 話が複雑になって来たけど、どこかの幻獣が、能力を駆使して声を届けているという可能性もあるということだ。

 もしそうだとしたら、その幻獣を助けてあげたいところだよね。

 いくら願いが人々を助けてほしいことだったとしても、そんな願いをした本人が救われなかったんじゃかわいそうだ。

 それに、同胞である幻獣を助けてほしいということならば、幻獣であるその声の主も入っていてもいいはずである。

 どこにいるかはわからないけど、どうにか見つけ出せないだろうか?


「おい、まさか探しに行くつもりか? どこにいるかもわからんのだぞ?」


「でも、たすけたい」


「貴様という奴は……だが、気になることもいくつかある。世界を回るついでに、調べるくらいならありか……?」


 呆れた様子のニクスだったけど、ニクスとしても、もしかしたら俺に関係あるかもしれない相手のことは気になるようだ。

 もちろん、今は情報が少なすぎて、手掛かりすらない状態だけど、竜脈という共通点がある以上、それがある場所を巡っていれば、声を聞く機会もあるかもしれない。

 そうすれば、いつかは辿り着ける可能性もある。


「……まあ、どうせここでの用事は横取りされてなくなったのだ。次の目的地を定めるための基準ができたと考えれば、悪いことばかりでもあるまい」


「それじゃあ……」


「いいだろう。少しは手を貸してやる。だが、あまり期待はするなよ?」


「ありがと。にくす、だいすき!」


「やれやれ……」


 さて、これで次の目的地は目途が付いた。

 今すぐにでも出発したいところではあるけど、そのためにはディートリヒさんにお別れをしないといけない。

 俺は、ディートリヒさんのことを見上げる。

 意図を察したのか、ディートリヒさんはふっと笑って俺の頭を撫でてきた。


「本当に、君は優しいな。罪を犯した私を赦し、どこにいるかもわからない同胞を救いに行くか」


「きゅう、ごめん、でも、いかなきゃ」


「わかっている。だが、一つだけ言わせてほしい」


 そう言って、俺の肩に手を置き、じっとこちらを見つめてくるディートリヒさん。

 な、何か悪いことしちゃったかな?


「君のその志は立派だ。だが、立派が故に、危うい。恐らく君は、すべてをなげうってでも、人々を、同胞を救おうとするだろう。しかし、君のことを大切に思っている者がいることを、忘れないでほしい。君が生きていることで、救われる命もあるのだから」


「う、うん……?」


 すっごく真面目な表情で言われたから、ふざけているわけではないと思うけど、俺はそんなにお人好しに見えるんだろうか?

 いやまあ、確かに困っている人がいたら助けたいとは思うし、実際今もどこにいるかもわからない幻獣を助けに行こうとしているわけだけど、流石にすべてをなげうってまで助けるなんてことはしないよ?

 俺は俺だ。たとえアーリヤの生まれ変わりなんてことが真実だとしても、その意思まで受け継いでいるわけではない。

 普通に自分が死ぬのは嫌だし、苦しい思いをしてまで救いの手を差し伸べる気はない。

 あくまで、できる範囲で人助けしたいだけだ。

 きょとんとした俺の表情をどう受け取ったのかは知らないけど、ディートリヒさんは軽く笑って手を離した。


「では、私は邪魔にならないようにこれで失礼する。今後は、幻獣のことも考えて、人助けをしていこう」


「おい、貴様では幻獣かどうかの見分けがつかんだろう。一つ言葉を教えてやる。これを言えば、幻獣は応えるはずだ」


「ほう、そんな言葉が。では、ありがたく受け取るとしよう」


 そう言って、幻獣の言葉を教えるニクス。

 なんだかんだ、ニクスも世話焼きだよね。今更かもしれないけど。

 去っていくディートリヒさんを見ながら、次なる目的地を考える。

 まず行くべきは、やはりレミアの大森林だろうか?

 ディートリヒさんが声を聞いた場所でもあるし、竜脈のある場所で声が聞こえるかどうかを判断するきっかけになるかもしれない。

 どのみち、俺は竜脈がある場所なんて知らないし、行先はニクスに任せるしかないけどね。


「にくす、ふぇる、いこ」


「ああ。すぐに発つぞ」


 せっかく借家を紹介してくれた商業ギルドのエミリアさんには申し訳ないが、すぐに引き払うとしよう。

 家に戻り、出発の準備を整えながら、まだ見ぬ幻獣のことを想った。

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