第61話『白魂大作戦②』
******(グラヴォルク視点)
我が愛しの天使ちゃんの気配が、消失した。
水のように澄んだ歌声はぴたりと止まり、森には静寂が落ちている。
嗚呼……貴女は、どこへ行ってしまったのか。
あのイカれた黒毛……まさか、彼女にまで手を出したのか?
モモンガが来てから、何かがおかしくなってきている。
初めて会ったのは……たしか蟻の巣だ。
そう。異常な害虫どもが草木を食い荒らすせいで、周辺の植生が壊滅しつつあった。
均衡を崩す者に対して相応の罰を下していると、あのモモンガが突如現れ、狂ったように私に殴りかかってきたのだ。
頭のおかしいモモンガめ……。
あの時受けた顎の痛みがズクズクと蘇り、胸の内側が焼けるように疼く。
怒りに震えていると、遠くからかすかに声が聞こえてきた。
「……こっちだよ……」
「フォワッ!?」
彼女の声だ。無事なのか!
草木をかきわけ、呼び声の元へと進んでいく。
森を抜けて開けた場所に出ると、小さな木箱がぽつんと置かれていた。
「……グラヴォルク……こっち……」
小さな木箱の中から、彼女の甘い声が聴こえる。私は衝撃に打ち震えた。
まさか……あのクズ野郎……天使ちゃんを箱に詰めたというのか!?
慌てて駆け寄ろうとした瞬間、背後からとびきり華やかな声が響いた。
「グラヴォルクーッ!!」
思わず顔を向けると、天使ちゃんがこちらへ高速で向かってくる。
「ウォッホ♡」
そのまま飛び込んでくる──そう思ったとき、彼女は目の前で急激に上空へと跳ね上がった。
「ウホゥ……?」
天使ちゃんの意図が分からず見上げていると、青白い光を纏った何かが、正面から突っ込んできた。
あのイカれ野郎だ!!
瞬時に状況を理解する。
この悪辣なモモンガは、初めに天使ちゃんを木箱に詰めたと思いこませ、更に、彼女自身を囮に使ったのだ。
なんと許しがたく、卑しき振る舞い──怒りで目の前が赤く染まる。
だが、いくら不意を突いたところで、私の双腕の前には……
等しく無意味!!
振り向きざまに、右腕をしならせて思い切り振り抜く。
触れると同時にモモンガが飛び散る……はずだった。
右腕が触れた瞬間、突然その姿が煙のようにかき消え、思わず目を見開く。
「ウホッ!?」
虚空を振り抜いた右腕の裏から、再び、青い光が突っ込んできた。
「そいつは《ゴーストテール》だよ! からの~~」
おかしい。どうなっている。私の右腕は、完璧にヤツを捉えていたはずだ。
何が起きているのか分からない。
だが、まだだ!
残った左腕を、モモンガに向けて思い切り振るう。
今度こそ、タイミングは完璧だ。
弾け飛べ!
そう思った瞬間、モモンガが叫んだ。
「《エアスタンプ》ッッ!」
鋭く輝くモモンガが爆発的に加速し、左腕すらすり抜けた。
目の前に迫る毛玉。
止める手段が──ない!?
「ホワキャァァァァァァァァァァ!!?」
「これでも食ってろ! 《ウィズアロー》!!!!」
ドズンと強烈な衝撃が口内に走り、視界が大きく揺れた。
柔らかな甘みとともに、真っ赤な世界が、白に染まっていく。
彼女の歌声が、ゆっくりと消えていく。あぁ、救え……なかった。
……すまない……マイ……スウィート……。
意識が──落ちる。
******(クロ視点)
すさまじい猿叫が《断裂の獄域》に響き渡り、すぐにラースとクルクマが駆けつけてきた。
「おぉ、やりましたね! さすがはクロです!」
ラースは明滅しながら、俺の周りをぐるぐると回っている。
クルクマは、白目をむいて立ち尽くしたグラヴォルクの腹部に向かって、一直線に飛び込んだ。
「なるほど! リリオリ様からもらった《エコルナ》の箱に声を記録しておき、囮に使ったのですね!
むむっ!? さすがは王、こんなところまでカチカチとは! いけませんね!
クンクン! ほんのりした獣臭も、とてもイイですねぇ!」
思わず一歩引いてしまった。
いろんな意味で、クルクマが一番危ないんじゃないか。
「ハッ! クロ様、そのような目で私を見ないでください。
これは王から記憶を読み取るために、仕方なくやっていることなのです。フゥ~。
ふむふむ……そして森に身を潜め、賢王をおびき寄せて背後から強襲した、というわけですね──お見事です、クロ様」
クルクマは、一心不乱にグラヴォルクのお腹に顔をこすりつけている。
「って、そんなことやってる場合じゃないだろ!
いつ暴れだすか分からないんだ、脱出するぞ!」
「そうですね! もう少し堪能……分析してから、すぐに後を追います!」
……ここまで来ると、怒る気も失せる。
俺はニッコリと笑い、指先に小さく《ショックスタンプ》を発動した。
グラヴォルクにしがみついているクルクマに近づき、その首筋へそっと《ショックスタンプ》を当てた。
「あぐっ!?」
衝撃でビクンと肩が跳ね、くたりとしたクルクマをグラヴォルクから引きはがす。
そのまま荷物のようにセレナに預けた。
「よし、撤収!」
俺たちは、逃げ遅れていた森人の民を連れて、《古樹の森》へ向かった。
******
リリオリが《トリガー》を操作すると、食べ物や飲み物の入った器が運ばれてきた。
「君たちのおかげで、仲間が皆、無事に戻ってくることができた。
本当に感謝するよ」
セレナは、《リリオリ・ラボ》の机に突っ伏したまま言った。
「私も、クロが来なかったら、いまごろあいつに食べられてたと思うよ。ありがとね」
「いや、助けられたのは俺の方だろ! セレナがいなかったら止めようがなかったよ。
こっちこそ、ありがとうな。
というか、食べられ……はしないと思うが……」
セレナがもしグラヴォルクに捕まっていたら、何をされていたんだろう……?
良からぬ想像を巡らせていると、ラースがふわふわと浮かびながら回転した。
「クルクマさんに作っていただいた《白魂団子》も、完璧に機能したようです。
そこまで気に病む必要もないのではないでしょうか」
リリオリは椅子に座ったまま、床にいるクルクマを見下ろした。
「──《白魂団子》の効果を確認する為には、直に触れる必要がある。
で、賢王の妄執が鎮まっていくところは確認できたんだね?」
「はい」
「ただ、その後の君自身の行動は、記憶にないと」
「も、申し訳ございません」
クルクマは床に正座したまま、頭を地面にこすりつけている。
「まったく。私は、いつか君がその癖で死ぬんじゃないかと心配になるよ」
リリオリは大きく一つため息をついた。
「はぁ……今回君は、逃げ遅れた子達にずっと声をかけていた、と聞いてるよ。
私は君のそういうところを尊敬している。
反省はもういいだろう? それに下を見続けていると、お互いに疲れるからね」
「かしこまりました」
******
クルクマが席に着いてから、俺たちは他愛もない話をしながら食事を進めた。
セレナは歌いながら飛んでさえいれば、敵から攻撃されることはないらしい。
ただ今回は運悪く咆哮が直撃して、墜落した拍子にグラヴォルクと激突したのだという。
リリオリからは、俺と会う前に考えていた作戦を聞かされた。
リリオリ自身が、白魂団子ごとあのサルに食われるつもりだったらしい。
……発想が怖すぎる。
クルクマは、凛とした表情で静かに料理を口へ運んでいる。
俺は、彼がポケットにしまい込んだグラヴォルクの毛束を思い出す。
……あれは、何に使うんだろう。
気にはなるが、怖くてとても聞くことができなかった。
食事が終わり、ひと段落ついたところで、リリオリが丸眼鏡の位置を指先で整えた。
「さて、《鬼哭の三紋》に行きたいんだったね」
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》《ゴーストテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
Extra:《跳星バースト》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《偏重計測パーツ》
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次回2026/11/7、0:10頃、次話を更新予定です




