第62話『旅支度』 後書き:MAP
「ごちそうさま。楽しい食事のお礼に、少しだけ……」
セレナが静かにライアーを奏で始めた。
柔らかな音色の中、リリオリが机の上に大きな地図を広げた。
「いいかい、ここが《古樹の森》だ。で、南にあるのが《鬼哭の三紋》だよ。
君の足なら、一日もかからないはずだ」
ラースが地図を見ながら明滅する。
「リリオリさんは、報酬として『近道を教える』ともおっしゃっていました。
《巡る霊脈の地》への近道があったら教えてください」
クルクマが指先で地図をなぞった。
「《鬼哭の三紋》へ向かう途中に《隠蔽》された道があります。それを使えば、安全に《巡る霊脈の地》へ抜けられますよ。
ちなみに《鬼哭の三紋》から西へ進めば《ルーミナ湖》、その先に広がるのが《烈風の峡谷》です」
リディスの住む《巡る霊脈の地》──
引き返すと相当な時間がかかる上に、《雷鳴の空域》にはしばらく近づきたくないと思っていたところだ。
近道があるのは本当にありがたい。
「ちなみに」
リリオリは丸眼鏡の位置を整えながら、少しだけ声を落とした。
「各エリアに仕掛けた《隠蔽》だが……さすがに、解除するわけにはいかないんだ。
あれは、我々の身を守るために必要な仕組みだからね」
「えっ? それじゃ、どうやって道を見分けるんだ?」
「クロ様の持つ道具に、《隠蔽》を無効化する術を一つ、付与いたします。
とはいえ、付与可能な道具をお持ちであれば、ですが」
俺は首をかしげながら、これまでに拾ったガラクタや食材を《収納膜》から適当に取り出していく。
「最適な道具をお持ちでない場合、私の私物をお渡しいたしますよ。
……とはいえ、高価な代物です。無料というわけにはいきませんね。
となるとやはり、その愛くるしいお身体に、相応の“対価”を払っていただかないと──」
クルクマの手が怪しくワキワキと蠢く。
俺の背筋にゾワリと悪寒が走った瞬間──
リリオリがトリガーを操作すると、手刀の形をした巨大な植物がクルクマの頭部に打ち下ろされた。
「あっぐ!? わ、私は一体なにを……」
「恩人に対して失礼だよ」
二人のやり取りを無視して収納膜を漁っていると、ラースが思いついたように明滅した。
「クロ、《跳兎の郷》でもらった羽根はどうでしょうか!」
「おぉ! たしかに!」
ダットからもらった羽根を机の上に置くと、クルクマがまじまじと見つめた。
「《雷紋の羽根》をお持ちとは、さすがクロ様!
それでは、こちらに術を付与してもよろしいでしょうか」
俺がうなずくと、クルクマは羽根を持って奥の部屋へと向かった。
リリオリが、地図上の《古樹の森》を指先でなぞる。
「この町を抜けるには、いくつか条件があるんだ。ここから先は危険なエリアが多いからね。
そして、《雷紋の羽根》やレアな魔石を持っていれば、通過を許可している。
無駄に命を散らさせないための、ささやかな善意ってやつだよ」
リリオリは丸眼鏡を押し上げ、ニヤリと笑った。
「ま、君達ならどこへ行っても問題なくやれるさ」
******
演奏を終えたセレナが、大きく伸びをした。
「ん~、ラースのパーツも、少しずつ集まってきてるようだね!」
ラースはくるりと回転した。
「はい、セレナさんが色々と教えてくれたおかげですね。 ありがとうございます!」
「いやいや、感謝するのはこっちだよ。
二人が喋るたびに綺麗な音の束が絡み合って、まるで色彩の繚乱というか……もう眼福だね」
頬を緩ませたセレナが、ラースを優しく撫でた。
ラースのパネルが桃色に光っていて、何だか嬉しそうに見える。
「そうだ、ラースのパーツ、《雷鳴の空域》にもあったよ」
「えぇっ!」
「ぅげっ!? まじか!」
《雷鳴の空域》で襲ってきた怪鳥の姿が脳裏をよぎる。
あんな高さからバリバリ雷を落としてくるヤツを相手に、一体何ができるんだ……?
頭を抱えていると、クルクマが奥の部屋から戻ってきた。
「お待たせしました。《雷紋の羽根》に《看破》の術を付与いたしました。
これがあれば《隠蔽》された道を見分けることができるはずです」
「それから──お二人の旅路の無事を祈って、少しばかりの餞別を用意しました」
クルクマは咳払いをして、束ねられた《発露の薬草》と、黒く鋭利な《鬼人の角(代紋:義)》を机の上に置いた。
「この薬草は、葉に宿る露が怪我によく効くと言われています。
《鬼哭の三紋》は何かとトラブルの多い場所ですから、持っていくとよいでしょう。
そして、この角──我々では扱えませんが、持ち主の心に応じた力を引き出すと聞いています。
クロ様なら、きっと使いこなせるはずです」
「助かるよ、ありがとう!」
《鬼人の角(代紋:義)》を手に取ってみると、見た目よりも少し重みを感じる。
そのまま魔力を込めてみるが、特段何の変化も見られない。
今のところ使い方がよく分からないが、とりあえず《収納膜》にしまっていく。
ついでに、余ってる団子も遠慮なくもらっておくことにした。
リリオリが胸を張り、得意げな表情を見せる。
「ちなみにその角は、数年前に《鬼人族》の男と縁があって譲り受けたんだ。
彼からは、『恩を受けた相手にでも渡してやれ』と言われていてね。
君達の向かう《鬼哭の三紋》は《鬼人族》の住む街だから、役に立つかもしれないよ」
「鬼人……? なんかおっかない響きだが、大丈夫なのか?」
「なぁに、まっすぐで気のいい連中さ。君なら、きっと仲良くやれるよ」
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《収納膜》に詰めるだけ詰めてラースに飛び乗り、行先を相談していると、クルクマがそっと近づいてきて、声を落とした。
「そうそう、以前お二人が助けたルフレア草を覚えていますか。
今でも元気にしておりましてね。君達に深く感謝していましたよ。
……リリオリ様はそれを知っていたから、今回、あなた方に期待を寄せたのでしょう」
ルフレア草……《段丘尾根の高台》に埋めなおした、あの綿毛植物か!
思わず嬉しくなり、ラースをペシペシと叩く。
「なんだ、あそこに移してあげて正解だったんだな!」
ラースの紋様の輝きが、ひときわ明るくなった。
「ルフレアさん……元気にしてるんですね!」
ルフレアのことを思い返していると、セレナが近づいてきて俺を見つめた。
「私はそろそろ行くけど……君たちの行き先は決まったのかな?」
「ああ。考えたけど、リリオリに教わった近道を使って、いったん《巡る霊脈の地》へ戻ろうと思うんだ」
リディスに聞きたいこともあるし、やっぱり《サンダーブレイク》の対策を考えておきたい。
セレナは嬉しそうに、うんうんとうなずいだ。
「あそこは、幻想的で壮大ですらあるのに、どこか切ない音がして──いい場所だよね」
「そ、そうか。まあ、セレナもまた変なヤツに絡まれないように、気をつけろよ」
よくわからないことを言い出したセレナに、俺は手を振って、早々に別れようとする。
「クロ、本当に助かったよ。何かあった時は、《ミューズチャイム》で呼ぶんだよ。
君のためなら、どこへでも飛んでいくから」
その言葉が全て届いたとき、セレナはすでにいなくなっていた。
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》《ゴーストテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
Extra:《跳星バースト》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《偏重計測パーツ》
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ここまでのエリア構成です
次回2026/11/21、0:10頃、次話を更新予定です




