第57話『リリオリ』
上空で《サンダーブレイク》がよろめいている。
目の前の少女は淡々と“爆散までのカウントダウン”を続けていた。
「二十四……二十三……?」
少女は何もない荒野を見つめて、ぽつりと呟いた。
「……そもそも、君のような毛玉と最後を迎える必要はないな。私はあちらへ行こう」
少女は真っ白な草の束をぽいとこちらへ放り、そのまま荒野の方へ向かってふわふわと移動を始める。
「ここは隆起に富んでいる。岩影を伝えばうまく抜けられるだろう。
その草は、《古樹の森》のクルクマに届けてくれたまえ」
突然の宣言に、頭の整理が追いつかない。
上空で、《サンダーブレイク》をまとう雷光がバチバチと膨れ上がっている。
「あぁ、そうだ」
少女は不意に振り返り、ニヤリと笑った。
「私は森人のリリオリだ。それじゃ頼んだよ」
意図を理解した瞬間、全身の毛がぶわっと逆立った。
──こいつ、囮になる気か!?
次の瞬間には、間違いなく彼女は雷撃の直撃を受けてしまう!
だが、ここから上空の《サンダーブレイク》を止める術がない。
なら──標的を変えるしかない!
「オイ! 鳥野郎、こっちだ!!」
叫ぶと同時に《ファントムテール》を発動させると、尻尾が青く輝いた。
……だが、上空の怪鳥は彼女を見据えたまま力を蓄積し続けている。
だめだ。まるで注意を逸らせていない!
上空で、雷光の輝度が跳ね上がる。
心臓が早鐘を打つ。目の前の人を失うのは、もういやだ!
「うおおおおおおお!」
こっちを──見やがれ!
尻尾の光が一段と強まり、全身を駆け巡る。
視界が青く染まり、頭の奥で声が響いた。
《ゴーストテール》──発動。魔力による囮の生成。
俺の体から、青く輝く毛玉がポン、と生み出される。
その毛玉は、そのままリリオリの真横をすり抜け、荒野を疾走し始めた。
《サンダーブレイク》はけたたましい鳴き声をあげると、青い毛玉──囮を追っていく。
俺は、その後ろ姿をただ呆然と見送っていた。
リリオリはしげしげと俺を眺めている。
「君、なかなかやるじゃないか」
ラースは、慌てた様子で俺たちの周りをぐるぐる回っている。
「ゆっくり話してる場合ではないです! 早くここを離れましょう!」
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エリアを抜けて走り続けているうちに、膨らんでいた毛が少しずつ落ち着いてきた。
「ここなら、ひとまず大丈夫そうだな」
俺はさっき預かった真っ白な草の束をリリオリに差し出した。
「これ、大事なものなんだろ? 返しとくよ」
「おぉ、ありがとう。
いや、ちょっとした困りごとがあって、この《忘念草》が必要になってね。
採取していたところを、偶然あの鳥に襲われてしまったんだ。
君がいなければ今ごろ私は爆散して、その肉片をあの鳥についばまれていたことだろう……。
フゥゥ、考えるとゾクゾクするね」
リリオリは恍惚とした表情を浮かべている。
「いや、言ってることが怖いって!
……それに、大したことはしてないよ。
ただあの時は、死なせたくないと思って必死で……」
脳裏に眩い光が浮かび、誰かの輪郭が揺れた気がした。無意識に伸ばした右手の指先が空を切る。
あと少しで届きそうなのに、すり抜けてこぼれ落ちていく――そんな錯覚が手の中に残る。
「……クロ?」
ラースの声に、俺はハッと息を吐いて自分の手を引っ込めた。
「……と、ともかく、無事で良かったよ!
俺はクロで、こっちはラースだ。よろしくな」
リリオリは軽く首を傾け、俺とラースを交互に見つめた。
「ふむ……なかなか珍しい組み合わせだね。よろしく頼むよ。
ところで、君達は何故こんなところに来たのかな?」
「俺たちは《鬼哭の三紋》に用があって、向かってる途中なんだよ」
「おぉ、それならちょうど良かった!」
リリオリが眼鏡を指先で押し上げると、レンズが微かに光った。
「今は絶対に我々の町を通る必要があるからね。
ようこそ、歓迎するよ」
リリオリは両手を広げて誇らしげな表情をしている。
その背後には、鬱蒼とした森だけが広がっていた。
《千里眼》で森の奥まで探ってみるが、町どころか、獣道すら見当たらない。
「町? ここって……ただの森だよな?」
「ふふ、そう思うだろう?
実はこのダンジョンには、隠された道がいろんな所にあるのだよ。
こんな風にね」
リリオリが木々に近づいて手をかざすと、水面のように波紋が広がった。
そのまま、彼女の体が木々の向こうへ消えていく。
「さ、ついてきたまえ」
ラースと顔を見合わせてから、後に続く。
僅かに揺れる木々の表面に恐る恐る触れると、何の抵抗もなく体が通り抜け、視界が開けた。
足元には柔らかな苔の道が続いており、踏みこむと湿り気のある感触が返ってくる。
入り口には、《刻印の刻まれた石柱》が立っていた。
「ここが《古樹の森》──」
見上げると、周囲の巨木が枝葉を絡めて天蓋をつくり、その隙間から柔らかな光が降り注いでいた。
ところどころで窓のついた球体植物が浮遊し、淡い光を放っている。
樹間には、木の根を編んで作られたような家々が点在し、蔦で組まれた橋が静かに揺れていた。
エリア中央の広場では泉が噴き上がり、森人たちが慌ただしく行き交っている。
活気があって、いい雰囲気だ。
キョロキョロとあたりを見回していると、上から声がした。
「おーい、こっちだよ」
見上げると、いくつもの球体植物が房のようにつながって、巨木から垂れている。
そのそばで、リリオリが手を振っていた。
俺はラースに飛び乗り、ふよふよと浮上した。
「中で話そうか」
リリオリの後に続いて、建物の中へ入る。
「クルクマ、戻ったよ」
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》《ゴーストテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
Extra:《跳星バースト》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《偏重計測パーツ》
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次回2026/9/12、0:10頃、次話を更新予定です




