第56話『雷鳴の空域』
蒼天の森にて──
ラースが再生を始めると、青黒い輝きを帯びた鱗が映し出された。
光を受けた面が硬質に反射し、その巨大な瞳はこちらをまっすぐに見据えている。
「これは、先ほどのゼルヴェリオンさんですね!」
「この迫力、心臓に悪いからやめてほしいな……ん?」
映像の右端で闇が揺れ、灰色の古びたローブをまとった影が歩み出た。
異様なことにフードの奥から覗いているのは、肉も皮もなく、剥き出しの白い頭蓋骨だった。
骸骨は灰色のローブを引きずり、巨竜ゼルヴェリオンへ近づく。
ゼルヴェリオンの足元で立ち止まると、口元をわずかに動かした。
声は聞こえないが、落ち着いて何かを話しているようだ。
そのとき、映像の端から一人の少女が飛びだしてきた。
「──リ、リディス!?」
少女は満面の笑顔で、迷いなく骸骨の背へ跳びついた。
衝撃で骸骨の身体が弾け、骨片が四方へ飛び散った。
地面に転がった頭蓋骨が、カタカタと震え、リディスをにらんでいる。
どうやら怒っているらしい。
リディスは少し慌てた様子で謝っているように見える。
「こいつ、本当にあのリディスか!? 今と全然違うじゃないか……」
散らばった骨が勝手に動き出し、吸い寄せられるように元の形へ戻っていく。
やがて骸骨の姿が組み上がると、杖を軽く持ち上げてリディスへ合図を送った。
リディスは少し真面目な表情になって一歩前へ出た。
そしてその場にしゃがみ込み、手にした石で地面を削り始める。
ゼルヴェリオンと骸骨は、その様子を見下ろしていた。
線が伸び、円が重なり、地面の上で魔法陣が形を成していく。
やがてリディスは顔を上げ、額の汗を拭う。
彼女は魔法陣を見つめ、両手をそっと地面に置いた。
……プスン、と白い煙がひと筋上がる。
骸骨は両手で頭を抱え、首を振った。
そのままリディスに近づき、杖の先で魔法陣の一角をトントンと突く。
リディスはハッとし、指摘された箇所へ数本の線を書き足した。
線が繋がった瞬間、地面が純白の光を放ち始めた。
リディスは両手を力強く叩きつけた。
光が爆ぜ、幾筋もの輝きが天へと立ちのぼる。
色鮮やかな火花が弾け、大輪の光が龍の鱗を五色に染めた。
ゼルヴェリオンの青い眼が丸く見開かれる。
光に照らされながら、リディスの目が輝いた。
リディスは嬉しそうに骸骨へ飛びつき、ぎゅっと抱きしめた。
映像を見終えて、思わず声が出た。
「ゼルヴェリオンの“花火”……元はこいつらの影響だったのか!?
まったく、余計なことを教えてくれたもんだ……。
それにリディスって、あんな明るいやつだったっけ?」
ラースが静かに明滅する。
「映像を見る限り、リディスさんとゼルヴェリオンさんは、以前から面識があったようです。
それに、骸骨の方も怒ってはいましたが、どこか慣れた様子でした。
三人の関係性が気になりますね!」
俺は腕を組んでうなる。
「たしかにな。
……でも、できればゼルヴェリオンには会いたくないんだよなぁ」
ラースがくるりと回転する。
「そうですね。リディスさんのところにはまた伺うでしょうし……
そこで、さりげなく聞くといいかもしれませんね」
ラースと顔を見合わせてうなずき、俺たちは次のエリアへ進むことにした。
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蒼天の森を抜けてしばらく進んでいくと、開けたエリアに出た。
一歩踏み込んだ瞬間、俺の全身を覆う艶やかな毛なみが、一斉に根本から立ち上がった。
「な、なんだこりゃ!」
水溜まりを覗き込むと、そこに映っていたのは膨らんだ毛玉だった。
「どうやら、大気中に混じった電荷の影響で、毛が膨張しているようですね!」
恐る恐る手足を動かしてみるが、可動域に問題はなく、身体も重くない。
が、なんだかちょっと動きづらい……。
気を取り直して周囲を見回すと、ここはかなりの高台であることが分かる。
「ここが《雷鳴の空域》のようですね!」
目の前には、巨大な岩盤がねじれて盛り上がり、複雑な稜線が空へ向かって伸びている。
上空には、洞窟内にもかかわらず暗雲が広がり、低い唸りが空気を震わせていた。
見渡せば、同じような岩の塊があちこちでせり立ち、荒れた大地に複雑な影を落としている。
《千里眼》と《ウィズセンサー》を発動し、周囲の様子を探る。
足元の地面はところどころ深く裂け、何かに削り取られたような溝が深く沈んでいる。
その底では、細い電光が這うように走り、暗がりを時折浮かび上がらせている。
とりあえず、見える範囲に強い魔力反応はないようだ。
ふと高台の一角に、食用植物を発見した。
自生していた《シグノタケ》と《エルネアの葉》を鼻歌まじりに収納膜へしまっていると、耳の奥でジジッと細い音が走る。
顔を上げると、遠くの闇が一瞬だけ明滅し、巨大な光球が猛烈な速度でこちらへ迫ってくるのが見えた。
バチチチチッ!
乾いた音が、大気を震わせている。
光球は、俺たちのいる高台の少し下でぴたりと静止した。
激しい発光の中心にいるのは、両翼合わせて7mほどの一羽の怪鳥だった。
<<――サンダーブレイク。雷鳴の光翼。>>
バチバチと輝く雷光を全身にまとい、周囲の空間がぐにゃりと歪んで見える。
光球の中心で羽ばたくたび、雷の尾が不規則な光の軌跡を描いている。
俺は高台から見下ろしながら身構えるが、サンダーブレイクはどうやらこちらに気づいていないようだ。
鋭い視線が向けられているのは、真下の一点──
一本の木のそばに立つ、影だった。
緑の帽子に黄色い飾り布をつけた、俺より少し小さな体躯の小人。
<<──森人。古樹の森の民。>>
サンダーブレイクが巨大な翼を大きく広げる。
力強く一振り羽ばたくと、巨大な光球が小人へ向けて落ちていった。
だが、光球は不自然な軌道を描き、小人のそばの木へと進路を変える。
次の瞬間、衝撃波が広がり、バリバリという爆音が鳴り響く。
至近距離で爆風を浴びた小人は吹き飛び、コロコロとボールのように転がっている。
見ると、直撃を受けた木は半ばから裂け、白煙を上げて崩れ落ちていた。
小人は逃げるでもなく、ただ呆然と空を見上げていた。
「キュオォォッ!」
サンダーブレイクが甲高い鳴き声をあげた。
周囲の雷雲から光が糸のように伸び、サンダーブレイクの体へ吸い込まれ始める。
再び光が膨れ上がっていく。
「やめろ!」
思わず声をあげ、眼下のサンダーブレイクめがけて高台から飛び出した。
完全に丸い毛玉となった身体のせいか、思ったよりも速度が出ない。
何とか体勢を整え、空中で発動した《ショックスタンプ》をサンダーブレイクの翼へ叩きつける。
衝撃が走り、怪鳥はバランスを崩してフラフラと羽ばたいた。
着地した俺の視界に、先ほどの小人の姿が入る。
驚いたことに、白いローブを纏った足先は地面から浮いていた。
緑の帽子から覗く耳は細く尖り、後ろで無造作に束ねた金髪は、雷撃に当てられたせいか縮れて広がっている。
美しい顔立ちだが、不釣り合いに大きな丸眼鏡をかけている。
その奥の鮮やかな緑の瞳は、落ち着き払って雷鳥を見つめていた。
「おい、大丈夫かオマエ!? 逃げるぞ!!」
小人──いや、少女は服の汚れを軽く払い、眼鏡の位置を直すと、静かに口を開いた。
「素晴らしい。雷雲のエネルギーを吸い上げ、体内の器官で魔力と融合しているのか。
……ところで、この毛玉は私に話しかけているのかな?」
「は!? おい、しっかりしろよ!」
「これは失敬。だが、君の攻撃によるヤツの硬直時間は、約五秒残っている。
そして雷の再チャージ時間を加味すれば、我々が爆散するまでおよそ十秒の猶予があるようだ。
九……八……」
ジュオォォォォ……
少女のカウントとともに、サンダーブレイクの巨体が再び不穏な光を帯び始める。
大気がジリジリと鳴り出した。
「クロ! 早く逃げてください!」
上空でラースが渾身の体当たりをかました。
パチィンと光の粒子が弾け、怪鳥の体勢が大きく崩れる。
サンダーブレイクは先ほどよりも大きくよろけ、羽ばたきを乱した。
「おぉ……! 炭化までのカウントダウンが、さらに約二十秒延伸されたようだ。
二十六……二十五……」
淡々とカウントを再開する少女に、俺は心の中で絶叫した。
勘弁してくれ!
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
Extra:《跳星バースト》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《偏重計測パーツ》
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次回2026/8/29、0:10頃、次話を更新予定です




