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第55話『言伝(ことづて)』

 ラースは、まっすぐに巨竜を見上げていた。


「あなたは、殺戮者(さつりくしゃ)ではないと言いました。

 しかし、先ほどのくしゃみによって、多くの犠牲が出たのではないでしょうか」


「……はて? 何のことじゃ。

 儂はいかなるときでも、世界を愛しておる。見よ、この美しい景色を」


 ……焼け野原なんだが!?

 いやしかし、本気で言ってる気がする。


 こいつひょっとして、ボケてないか?


「どこをどう見たら“美しい”になるんだよ……!

 見渡す限り吹き飛ばされて──」


 俺の言葉など意にも介さぬ様子で、龍が呟いた。


「《リバース・ロア》」


 声が響くと共に──世界が、逆再生を始めた。


 抉れた大地は音もなく盛り上がり、砕けた岩や土砂が元の形へと寄り集まっていく。

 吹き飛んだ木々は幹へと立ち返り、舞い散った葉が枝先へ吸い寄せられていく。


 砂塵(さじん)が渦を巻いて地面へと戻り、空気が澄み渡る。

 どこからともなく、小鳥のさえずりが聞こえ始めた。


 ほんの一瞬で、何事もなかったかのように元通りになった。


「「……ええええ!!?」」


 俺とラースの反応に満足したのか、龍は目を細めて頷いた。


「どうじゃ、この悠久(ゆうきゅう)(けい)は。美しかろう」


 開いた口が塞がらない。

 無茶苦茶だ。壊すのも直すのも、コイツの気分次第じゃないか。


 巨大な龍は、大きく伸びをするように体をうねらせた。


「しかし、久しく時を経たものよ……。

 せっかくじゃ。改めて、自己紹介でもしようかの」


 その声色は、まるで昼寝から目覚めた老人のように穏やかで、さきほどまでの威圧感をまるで感じない。


「儂は理外(りがい)の龍、《ゼルヴェリオン》。

 お主らの名も聞かせてもらおう」


 ラースがくるりと回転し、淡く明滅した。


「ご挨拶が遅れました。私の名前はラースです! 先ほどの現象には驚きました!

 非現実的な光景から、私自信の視覚処理にエラーが発生したかと疑いましたが、どうやらそうではないようですね!」


「あー、俺はクロだ。

 突然起こしてすまなかった、爺さん。

 ただ、たちの悪い“冗談”はやめてくれ。面白いどころか心臓に良くない」


「ほぉ? 次は"本気"が良いということじゃな」


 思わず身構え、しっぽがビビビと膨れ上がった。


「クハハハ! “冗談”じゃ!」


「いや……そういうところだよ!?

 よく分からん距離感で喋るのはやめてくれ!」


「すまんすまん……実はの。

 お主らのことは、ずいぶん前から知っておってな」


 突然の言葉に思考が追い付かず、思わず敬語になる。


「……知っている? またまた、ご冗談を……」


「まことよ……特にクロ。

 儂は、お主の祖と旧知の仲での」


 思わずラースと目を合わせる。


「モモンガの友人がいらっしゃるのですね」


 ラースの問いに対し、巨龍はため息を吐いた。


「何を言うておる。

 儂の友人はモモンガのようなげっ歯類ではない」


 うん。コイツ、ボケてるな。


「そうか……分かるよ、爺さん。

 俺たちは先へ行くからさ。元気でな」


「待てぃ」


 巨龍の僅かな動きに悪寒が走り、思わず一歩身を引いた。

 次の瞬間──


 ズドンッ!!


 目の前の地面に何かが突き刺さり、土煙が舞う。


「なっ……!?」


 視界が晴れると、俺の身体と同程度の鱗が一枚、突き刺さっていた。


「クロよ、持っていくがよい。

 何かあった時、鱗一枚分くらいは助ける──約束じゃ」


 ……えぇ~。

 こんな距離感のおかしいヤツから受け取って、後でめんどくさいことになるのはごめんだ。


「いえ、結構です……」


 唐突にゼルヴェリオンが目を見開き、一瞬身体が吹き飛ぶような感覚に見舞われる。


「よもや、儂の親切心を無下(むげ)にはすまいな」


 あまりの圧に、青黒く煌めく鱗を、しぶしぶ《収納膜》にしまった。


「あ、アリガトウゴザイマス……?」


「あぁ、それからもうひとつ。

 お主へ言伝(ことづて)があったのじゃ。心して聞くがよい」


 ゼルヴェリオンの声色が深く沈み、思わず息を呑む。


万命(ばんめい)(とうと)び、(おの)が道を行け」


「お、おぉ? それは一体……?」


「以上じゃ」


 ……終わり!?


 ど、どういう意味だ!?

 意味深なだけで、何の役にも立たない!


「あ、あの! 一ついいでしょうか……」


「おぉ、なんじゃ。気軽に申してみよ」


「その言伝(ことづて)は、誰からでしょうか。

 というかそもそも、あなたのこともよく分からないのですが……」


(ことわり)の先に消えた友より託されたものよ。

 そして儂は、星霜(せいそう)を超越せし理外の龍ゼルヴェリオン……」


 なるほど、分からん!


「ありがとうございます!

 じゃ、じゃあ僕たちはこれで……!」


 この爺さん、ボケて誰かと間違えてるんじゃないか。

 自分で渡した鱗のことを忘れて、いきなりキレる可能性がある。


 そそくさと手を振り、その場を離れた。



 ******


 《蒼天の森》の出口で一息つくと、ラースが明るく明滅した。


「それにしても、すごい能力でしたね!

 悪い方では無さそうで良かったです!」


「……俺は、なんだかどっと疲れたよ。

 そういえば、手に入れた《ルーミナ結晶》に焼き付いた映像は、再生できるかな」


「お任せください!」


 俺は所定の位置──ラースの上に飛び乗った。

 ラースの外殻が光を帯び、空中に映像が浮かび上がる。


「これは……ゼルヴェリオン?」

------------


■クロ

身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》

便利系:《サーチ》《鑑定》

皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》

尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》

肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》

ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》

Extra:《跳星バースト》


■ラース

スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》

パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《偏重計測パーツ》


---


次回2026/8/15、0:10頃、次話を更新予定です

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