第58話『リリオリの依頼』
リリオリが声をかけると、一人の男が奥から姿を現した。
スラッとした細身の体躯で、俺より少し背が高い。
黒髪を後ろで束ね、鋭い目つきが印象的な整った顔立ちの森人だ。
「お帰りなさいませ。無事、手に入りました……か?」
クルクマと呼ばれた男は、俺を見るなりピタリと動きを止めた。
妙に熱を帯びた視線が、まっすぐ俺に注がれる。
「ああ、彼らのおかげでね。客人としてお連れしたから、失礼のないように。それと──」
リリオリが言い終えるより早く、クルクマが俺の目の前に踏み込んできた。
そのまま流れるような手つきで、俺の耳、ほっぺた、尻尾を引っ張ってくる。
「な、なんだよ!?」
「こ、これは当研究所のセキュリティチェックです。
危険なものを持ち込んでいないか確認しないと……!
ムム!? なんだこの艶のある毛並みは!? フワッフワじゃないか!」
「クルクマ」
リリオリの声が聞こえていないのか、クルクマは俺の体を一心不乱にまさぐっている。
「それにこのだらしない肉、実にけしから……おやおやぁ!?
こんなところに怪しげな膜があるぞぉ!?
どぉれ、中はどうなっているのかな、触らせてごらん、ハァハァ」
「や、やめっ……くすぐったい! ちょ、引っ張るなって!
尻尾は……敏感だから……ぁふうぅっ、そんなところ……ダメ……っ」
「けしからんのはお前だ、クルクマ」
ビシッ!
リリオリが、クルクマの頭に手刀を打ち下ろした。
俺の膜に顔を突っ込んでいたクルクマの肩が、ビクッと跳ね上がる。
リリオリは小さくため息をつき、《忘念草》をひょいと放る。
「分かっているだろ? 急ぎなんだ。馬鹿をやってないで、頼んだよ」
「かしこまりました。もちろん滞りなく進めておりますので」
クルクマは《忘念草》を受け取ると、テキパキとした所作で奥の部屋へ消えていった。
「なんなんだ、あいつは……」
俺は両手で膜をぎゅっと抑えながら、呆然とつぶやいた。
「彼は優秀なんだが、少々悪癖があってね。
毛に覆われた動物を見ると、触らずにはいられないようなんだ。
まったく、理解に苦しむよ」
リリオリは、こちらを振り返り苦笑した。
「改めて、ようこそ。《リリオリ・ラボ》へ。
ここでは新種の植物を栽培したり、薬品や触媒の開発、生物と魔力の相互作用の研究などを行っているんだ。
何かあれば、遠慮なく相談してくれたまえ」
周囲の棚には乾燥させた葉や瓶が整然と並んでいる。
部屋の中央には大きな木製の作業机があり、いくつもの透明な器具から細い煙が立ちのぼっていた。
奥ではクルクマが作業を始めたらしく、乾いた葉が擦れる音と、草花の甘い香りが漂ってくる。
ふいにリリオリが両手を掲げ、空中を指先でなぞり始めた。
その動きに、部屋のあちこちが反応する。
天井から吊るされた球体植物が光量を変え、室内が均一な明るさで満たされる。
机の上に置かれた木箱が少し震え、澄んだ歌声を流し始めた。
ラースの身体が淡く明滅する。
「おぉ、これはすごく便利ですね!」
「単純な仕掛けさ。いくつかの植物を組み合わせることで、生活を快適にしてあるんだよ。
この部屋では、特定の動きに反応して、他の植物に指示を送る《トリガーの木》を使っているのさ。
私の両手の動きに合わせて、ギミックが動くようにね。
そこに、音を蓄積できる《エコルナの木》を繋げれば、音楽を楽しめる。
他にも、自在に動く《ハンドラの蔦》を繋げれば、この通り」
彼女が左手で壁際の容器を指差し、右手を一定の角度で滑らせると、鮮やかな液体が注がれていく。
するすると伸びてきた蔦が容器の縁を掴み、俺の手元まで運んできた。
「果汁100%だよ。召し上がれ」
差し出された容器を受け取り、慎重に口をつける。
「う……美味い!!!」
濃厚な甘味とほのかな酸味が、体に染み渡っていく。
「いいだろう? 慣れれば、君でも簡単に操作できるよ」
リリオリは何やら素早く空中をなぞり続けている。
「これらがすべて《トリガー》で操作できるギミックなんですか? すごいですね!」
ラースは、部屋の中をふわふわと漂いながら、機器を観察している。
「ここにあるものは試作品なんだ。
気になるものがあれば、好きに持っていくといい」
「えっ、いいのか!?」
「光や音は、色々と使い道がありそうですよね!」
「そうだな! あとで使えそうなものを探させてくれ。
ただ──先に、《鬼哭の三紋》への行き方を教えてくれないか」
俺が切り出すと、リリオリは軽く頷き、眼鏡の位置を直した。
「そうだね。その話をするためにも、まず君たちは知っておくべきことがある。
先ほど君たちは、この町の入り口に気づくことができなかっただろう?
あれは、悪い奴が入ってこないように、町の入り口に《隠蔽》の術をかけてあるからなんだ」
「なるほど……どおりで、スキルを使っても分からなかったはずだ」
ラースがくるりと回転する。
「確かに、ただの森にしか見えませんでしたよね!」
「そして──残念ながら、今は《鬼哭の三紋》へ行くことができない。
理由は森の奥にいる一匹の“暴れん坊”だ。普段は大人しいのに、今は我を失うほど暴れているからだ」
「えっ、どういうことだ?」
リリオリは《トリガー》操作の手を止めずに続けた。
「ほとんどの者は避難できたが、まだ何人か取り残されていてね。
被害が広がらないよう、周囲に《隠蔽》を施して封鎖してあるんだ」
「おいおい……それは、悠長に話してる場合じゃないな」
リリオリは手を止めて、こちらに向きなおった。
「そう。そこで本題だが、その暴れん坊を鎮めて、仲間を助けてくれないか。
なぁに、相手は“森の賢王”などと呼ばれているが、私から見ると“ただの毛玉”だ。
それにもちろん、策は用意してある」
“暴れん坊”、森の王、毛玉っ……!?
まさか、またグレムサが……?
『キュェッキュェーーーーッ!!』
人を小馬鹿にした笑い声が脳裏に蘇り、思わず拳が震える。
「恐らく、君にとってそこまで難しい相手ではないはずだ。
仲間を助け出せれば、《鬼哭の三紋》への道も案内できるし、旅が楽になる近道も教えよう。
どうだろう、受けてくれるかな」
「……仲間が危ないんだろ? だったら、助けないとな!
それに、ちょうど良かった──あいつには少し痛い目を見せてやらなきゃと思っていたんだ。
ガツンと分からせてやるよ」
「おぉ、それは頼もしい」
リリオリが《トリガー》を操作すると、それに反応して奥からクルクマが姿を現した。
「では、作戦を伝えよう」
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》《ゴーストテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
Extra:《跳星バースト》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《偏重計測パーツ》
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次回2026/9/26、0:10頃、次話を更新予定です




