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第52話『また会いましょう』

 ******(ラース視点)


 《風の段丘群(だんきゅうぐん)》──


 視界は大きく開け、起伏のある滑らかな傾斜が連なっていた。


 見上げれば、上層へと抜ける風穴がぽっかりと開き、そこから差し込む光が地表をやわらかく照らしている。

 高台では小さな鳥が旋回していた。


 なだらかな稜線にまばらに生えた草木が、光を反射してきらめく。

 風が通り抜け、葉先が静かに揺れていた。


 高台へ向かって進むと、段丘(だんきゅう)の中腹に浅くえぐれた窪地(くぼち)が現れた。

 窪地の底には黒ずんだ魔力が沈殿し、周囲の植物はどれも変色している。


 クロは周囲を見渡しながら呟いた。


「うーん……リドラン草、トルマフィン草……この辺の植物は全部枯れてるみたいだ」


 窪地のそばに、かろうじて花弁を残した一本の植物があった。

 茎は傾き、根の付け根は黒く変色し始めている。


「これはルフレア草だな。《鑑定》によると、綿毛に自身の魔力を蓄積して飛ばすみたいだが……

 ……これも、もうダメかもな」


 クロの声に反応するように、綿毛がかすかに発光している。


 その瞬間、視界にノイズ混じりの映像が一瞬だけ走り──微かに声が聞こえた。


「──あの丘の上に──」


 発生している事象の原因を特定できず、応答すべきかどうかの判断がつかない。

 一瞬、処理が滞った。


 私は、ルフレア草を見ながらクロに声をかける。


「この子を、あの高台へ移せませんか」


 クロは軽くまばたきをする。


「……理由は、周囲の魔力汚染によって生命反応が微弱になっているためです。

 その影響で、断片的な魔力の残響が発生した可能性があります。

 この状況が、私の内部で映像記録エラーを生み出している原因となっている可能性を、完全には否定できません。

 回復する見込みは少ないですが、高台の安定した地形に移せば、短時間ながら、活動を持続する可能性があります。

 その過程で、私のエラーが解消される可能性も、僅かに存在します」


 私は、少しだけ間を置いて続ける。


「……この行動について、明確な効果は保証できません。

 ですが……無意味ではないと判断します」


 クロは苦笑して、軽くうなずいた。


「……よく分からないが、まぁ、いっか。

 ともかく、それでラースの不調も直るかもしれないってことだろ?

 じゃ、やってみるか」


 クロは前に出ると、小さな手でルフレア草の根元をそっとかき分ける。

 土を崩さないよう慎重に爪を立てながら、根を少しずつ掘り起こしていった。


 掘り終えると、収納膜から布を取り出して、そっと包み込む。


 私はクロが乗れるよう、浮遊高度を調整する。

 クロは布に包んだ植物を慎重に抱え、私の上に飛び乗った。


「それでは、移動しましょう」



 《段丘尾根の高台》──


 高台は草がまばらで、周囲に遮るものは何もなく、開けた空間を一望できた。

 上部の風穴から差し込む光を受け、地表の砂が銀色にきらめいている。


「ここなら、こいつも気分がいいだろ」


 そう呟いて、クロは地面を掘りおこしはじめ、根が収まる空間を作り出す。

 抱えてきたルフレア草をくぼみに植え直し、なんとか安定させることができた。


「ありがとうございます、クロ」


「これでよかったのか?」


 私は植えられたルフレア草を見つめる。


「魔力反応が微弱なため計測できませんが──断片的な魔力の残響は緩和したと推測します」


 クロは何も言わず、上を見上げた。


 ゆるやかに吹く風に反応して、ルフレア草の綿毛が少しだけ揺れた。




 ──未分類のデータを検出。


 ノイズが混じり、にじむ景色の中心にルフレアが立っている。


「あなたは……」


「──来てくれてありがと」


 穏やかで、どこかほっとした声色だった。


「あの場所で、良かったのでしょうか?

 風向きは安定していましたが、高台は広く……

 あなたの希望に沿うことができたのか、確証が持てませんでした」


 ルフレアは小さく首を振り、柔らかく微笑んだ。


「──んーん、十分だよ。どこだってよかったんだ」


 綿毛が揺れ、淡い光がだんだんと浮かび上がっている。


「──だって……あんなにも綺麗な景色を見たの、初めてだったから」


 次の瞬間、周囲に鮮やかな段丘の風景が広がった。

 光る綿毛がいくつも現れ、ルフレアをゆっくりと包み込んでいく。


 気づけば、彼女の足は地面を離れていた。


 ルフレアは高台の空へ向かって、ゆっくりと舞い上がっていく。


「──またね」



 クロが私の外殻をむにむにと押している。


「ラース。おーい」


 起動処理を走らせながら、呼びかけに応じる。


「……起動中です」


 クロはあくびを噛み殺しながら、目元をこする。


「どうだった?」


 ──スリープからの復帰処理を完了。


「おはようございます! どうやら、問題は解消したようですね!」


 クロはほっと息を吐き、肩の力を抜いた。


「おぉ!そうか。なら、きっとあれでよかったってことなんだな!」


 窓の外から、風が静かに流れ込んでいる。

 クロはベッドからぴょんと飛び降り、リディスのいる店内へ向かっていく。


 後に続こうと浮上した瞬間、私は微弱なノイズを検出した。

 通常の環境音とは一致しない、ごく小さな信号だった。


 発信源を確認するため、私は窓辺へ移動して、そのまま外へ出る。


 そこには、いつもと変わらない光景が広がっていた。

 巨木の下では小川がきらめき、花々が揺れ、小鳥たちが飛んでいる。


 そのとき、一陣の風が吹きぬけた。


 風に乗って、ひとつの綿毛がふわりと浮かび上がる。

 それは、私の周囲を一周してから、上層へ向かってゆっくりと舞い上がっていく。


 私は、上昇していく綿毛を見上げながら、小さく応じた。


「……はい。また会いましょう、ルフレアさん」

------------


■クロ

身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》

便利系:《サーチ》《鑑定》

皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》

尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》

肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》

ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》

Extra:《跳星バースト》


■ラース

スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》

パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《偏重計測パーツ》


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次回2026/7/4、0:10頃、次話を更新予定です

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― 新着の感想 ―
お、エラー解消の目処がつきそうなのか! ルフレア草も見晴らしの良いところへ引っ越せて良かったかと。 ヾ(・ω・*)ノ 綺麗な光景なんだろうな〜と思える描写でしたよ。 (「`・ω・)「
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