第46話『凱旋』
跳兎の郷の入り口には、《無核ノミア》の浸食から解放された村人たちが集まっている。
その中に、眼帯をした老人が立っていた。
「おぉ……アルト!!」
「おじいちゃん!」
アルトは耳をぴんと立て、両手を広げて駆け寄る。
──が。
「このばかもんがっっ!!」
ゴンッ!! と、鈍い音が響いた。
アルトは頭を押さえてその場にしゃがみ込み、涙目になる。
「いっ……たぁぁ……!」
「一人で危ないことをするなと、あれほど言ったろう」
「……ごめんなさい……」
老人は深くため息をつき、こちらへ向き直った。
「クロ殿。儂はアルトの祖父、バルトというもの。
話は郷の者から伺った。
……先ほどは大変失礼なことをした。
これ以上、誰かを危険な目に遭わせたくなくてな。
つい、あのような言い方になってしまった……本当に申し訳ない」
その言葉に続くように、周囲の人たちも次々と頭を下げてくる。
「すまねぇ。水も汚染されてて、誰も近づけたくなかったんだ。
だがまさか、解決しちまうとは。大したもんだ!」
「腕っぷしのつえぇ連中が誰も戻ってこねぇもんだからよ。
絶対止めねぇとと思ってたんだが……皆を助けてくれてありがとよ!」
いつの間にか俺は人々に囲まれ、モフモフと撫でられ、皮膜や尻尾を引っ張られていた。
「あーもう! ヤメロ! うっとうしいな!
気にすんなよ、じいさんも。それに、結局みんな無事だったわけだしな」
その言葉に、村人たちは一層の盛り上がりを見せた。
集まり過ぎた村人を追い払うように尻尾を振る。
逆立った毛を直しながら、内心ではどこかスッキリしていた。
あの冷たい態度は、差し迫った状況で、こいつらなりの思いやりだったんだな。
ふと視線を向けると、アルトが胸を張って自慢げに、ラースのことを祖父へ紹介している。
いつの間にか、すっかり仲良くなっていたらしい。
……さすがラースだ。
盛り上がる人々の輪を、ダットが少し離れた場所から静かに見つめていた。
「……混ざらないのか?」
近づいて声をかけると、ダットは小さく首を振った。
「いいんだ……僕は他の村の出だから。
……いつも全然話してないし、僕のことなんて誰も知らないと思うよ」
そう言いながらも、ダットはどこかまぶしいものを見るような視線を、村人たちに向けていた。
「……でも、僕は皆のことをよく知ってるんだ。
バルトさんも、他の皆も。いつもアルトのことを心配してて……」
声が震え、ダットは目元をこすった。
「助かって……助けられて、本当に……良かった……」
ぐすぐすと鼻をすすりながら、涙をこらえている。
そのとき──
「おいダット、お前! いつもこそこそしてるくせに、やるじゃねぇか!」
「意識は朦朧としてたけどよ、見てたんだぞ! カッコよかったぜ、ダット!」
わっと歓声があがり村人たちが押し寄せ、ダットを取り囲んだ。
「え!? ええ~」
肩を叩かれ、頭をわしゃわしゃされ、背中を押される。
あっという間にもみくちゃにされ──
気づけば、ダットは涙を浮かべたまま笑っていた。
アルトがラースに近づき、ぽつりと呟く。
「ほらね……かっこいいでしょ」
「本当ですね!」
村人たちはひとしきり騒ぎ終えると、満足したように少しずつ散っていった。
解放されたダットが、ふらふらと耳を揺らしながら戻ってくる。
その顔には、少しはにかんだ笑みが浮かんでいた。
俺は、ぴょんっとラースの上に飛び乗って、声をかける。
「ダット……お前の想い、ちゃんとみんなに届いてたんだな!
アルトも無事だったし、よかったじゃないか」
ラースは不思議そうに明滅した。
「“アルト”さん……? お名前は“アルネフェルディアス”さんでは……?」
アルトは慌てて口元に指を当てる。
「シッ……ここではアルトと呼んで」
アルトは小さく咳払いをしてから、顔を上げる。
こちらへまっすぐに目を向けて、はっきりとした声で続けた。
「私ね、これまで“力”にこだわりすぎて、自分に何ができるかなんて考えたこともなかった。
でも、ラースに言われて気付いたの。私にしかできないことがあるんだなって」
一瞬迷うように視線をそらしたが、すぐにまたラースに目を向ける。
「私……植物学者になろうと思う。
絵だけじゃなくて、もっと色々勉強して。
今回みたいな問題だって、エルグラシアを普段から記録していたら、もっと早くに気づけたかも。
……記録として残せていたら、もっと皆にうまく伝えられたかも。
それに、もっと私に知識があったら、解決方法を自分で見つけられたかもしれない」
その言葉を聞いたバルトは目を細め、顔をしわしわにして、肩を震わせた。
「お……おぉ……あのアルトが……ようやくまともなことを……」
感動しているバルトを無視して、アルトはラースにそっと近づき、小声で囁く。
「……“影界”の記憶を取り戻すまで、だけどね。
あっ、でも、もちろん真剣にやるつもりだよ」
そのやり取りを見て、ダットは苦笑いを漏らす。
「僕は今まで通り、跳搬の仕事を続けるよ。
流通は維持しなきゃいけないから。
だけど……」
言いかけて、ダットは少しうつむき、上目遣いで俺を見る。
「……その、二人はこれからどうするの?」
「俺たちは鉄殻の墓所に戻って……
“灼熱の谷”、“蒼天の森”、“雷鳴の空域”へと進むつもりだ。」
「え……でも、次また何かあった時、クロがいないと……
僕だけじゃ……」
「アルトがいるだろ」
「いや、アルトを蹴るわけには!」
「……ちがうって。
アルトに敵の位置を教えてもらって、このへんにゴロゴロしてる石とかを蹴るんだよ!
俺たちは、ラースのパーツを探さないと……って、そうだ!」
ツッコミをいれて思い出した。
「鉄殻の墓所で、一つ手に入れたんだったな」
《収納膜》の中をもぞもぞと探る。
「石……そんなんで大丈夫かなあ……」
諦めたのか、ダットは不安げに呟いて、すぐそばの自分と同じくらいのサイズの岩に目を向けた。
片足でひょいっと、持ち上げたり下ろしたりする。
……ダットはもう、放っておこう。
「ラース、鉄殻の墓所で拾ったパーツ、はめるぞ」
そう言いながら、パーツを《収納膜》から取り出した。
ラースの上に後ろ足でへばりついて、合いそうなくぼみを探す。
「ねぇ、このくらいの石なら大丈夫かな?
……あれ?」
自分の倍のサイズの大岩を持ち上げていたダットが、俺の手にしたパーツを見て、不思議そうに首を傾げた。
「それと同じやつ、見たことあるよ」
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
Extra:《跳星バースト》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《??パーツ》
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次回2026/4/25、0:10頃、次話を更新予定です




