第47話『羽ばたきに乗って』 後書き:MAP
ダットが不思議そうに首を傾げた。
「それと同じやつ、見たことあるよ」
「本当か? ダット」
「私のパーツ、どこで見ましたか!?」
俺とラースは、立て続けにダットに質問する。
ダットは、片足で持ち上げていた大岩を、大事なもののようにそっと地面に下ろすと、目の前に近寄ってきた。
しげしげと、俺の手にしているパーツを眺める。
「うーん、確かに見たことあるんだけど、どこだったかな……」
「おい、覚えてないのかよ」
「仕事柄、いろんなところに行くから……ちょっと考えるから待ってて……」
ダットは、腕を組んで目をつぶってしまった。
仕方なくパーツをはめようとしたころに、今度はアルトが近づいてきた。
「クロ……さん。それ……なにか気になるの。描かせてもらっても……いいかな?」
右手に持つペンを突き出して、アルトが聞いてくる。
なんか、俺に対しては態度が硬い気がする。
……人見知りなのか?
「クロでいいよ。うーん……時間かかりそうだよな」
「いえ、クロ! アルトさんなら、一瞬ですよ!」
ラースが言った直後に、アルトは目を見張る速度でペン先を走らせた。
あっという間に、手にしたパーツが紙の上に浮き上がっていく。
「──っと。こんな感じかな」
すっとペンを引き上げると、精緻なパーツが、まるでそこにもう一つあるかのように見えた。
「すごいな! アルトなら完璧にダットの目になれるな」
「そ、そうかな……」
アルトはちらっとダットに目を向けるが、ダットは目をつぶったまま考え込んでいる。
少し顔を赤くしながらこちらに向き直って、ふわりと笑みを浮かべた。
「そうね、これが私の“力”だから」
「はい! アル……トさんの“力”の一つですね!」
「そうだ、このパーツ、ちょっと回転させながら投げてくれない?」
アルトが片目の包帯を外しながら、なにかを思いついたように言った。
「……なんでだ?」
首をかしげたが、アルトはすでに、じっとパーツを見つめている。
「まあいいか、投げるぞ」
軽く手首をひねるようにして、真上にぽんっと放り投げる。
パーツが手から離れ、また掌に落ちてくるまでの、ほんの一瞬。
アルトは、空中で回転するパーツの動きを追う。
パーツを再度つかんだのとほぼ同時に、アルトのペン先は紙の上を走り始める。
今度は1枚では止まらず、2枚、3枚とページがめくられ、そのたびに浮かび上がるパーツが形を変えていく。
みるみるうちに、上下左右の様々な角度から捉えたパーツの絵がそろった。
「マジか……」
アルトって、もしかしてダットより凄いんじゃないか……?
目をやると、すでに包帯を付けなおしている。
……特にケガをしているわけでもないようだが、あれ、何の意味があるんだ?
なんとなく、聞きづらいので、そこには触れないことにした。
「ねぇ、ダット。……これを見ながら、思い出せないかな?」
ダットには、アルトの絵を見ながら考えてもらうことにして、ようやくラースにパーツをはめることができた。
カチリと音がしてパーツが沈み込むと、腹部の《横長の半透明なパネル》が赤く光り始めた。
「これは《偏重計測パーツ》ですね。エネルギーの偏りを検知しています」
「偏り? そんなものを調べて、どうするんだ?」
「使用方法の情報はないようです!」
「要するに、使い方は……」
「さっぱり分かりませんね!」
ハー……とため息をついて、ラースの上に膜をだらりと広げ、腹ばいになって顎を置いた。
「今回も、収穫無しか……まぁ、いつものことだな」
ほどなく、ダットが掌をぽんっと叩いて声を上げた。
「あ! 思い出した!
《鬼哭の三紋》にいる、《黄雷会》の迅って人が持ってた。
あそこ、跳搬の仕事で時々行くんだけど、ほんとおっかなくてヤなんだよね……
《鬼哭の三紋》は《雷鳴の空域》を抜けて、《古樹の森》の先にある町だよ。
あと、ラカ様の羽根をあげる。
これがあれば、《古樹の森》を通れるはずだよ」
鑑定によると名前は《雷紋の羽根》、一応状態異常耐性(眠)もついてるようだ。
「ありがとな。……あとは、どうやってここから鉄殻の墓所に戻るか、だな」
「え? そんなの、一つしかないよね」
アルトは、何かを企んでいるようにニヤリと笑った。
******
跳兎の郷の上層にて──
アルトは巨大樹の幹にそっと手を当てた。
「うん、よかった。巨大樹の魔力が戻ってる。ラカ様も元気になってるね」
頭上には巨大鳥が翼をたたんで佇んでいる。
「そ、そいつ本当に大丈夫なのか!?」
アルトは笑って肩をすくめた。
「大丈夫だよ。
ちゃんとお願いすれば、鉄殻の墓所まで乗せて行ってくれるよ」
巨大鳥はグルルル……と喉を鳴らし、こちらを見下ろしている。
緊張のあまり、思わず尻尾が膨らんでしまう。
恐る恐るその足元まで近づき、ペコペコと“お願い”をする。
顔色を窺いながら、慎重に巨大鳥に飛び乗った。
ラースも「お願いしますね」と声をかけて、ふわりと浮かび鳥の背に乗る。
そのとき、ダットがふと何かに気づき、声をあげた。
「あ……そうだ!
《鬼哭の三紋》なんだけど、最近は特に様子がおかしかったんだ。
町全体から嫌な気配がするし、急に何かに憑りつかれたように暴力的になる人もいたりして……
クロも、気をつけてね」
「何かに憑りつかれる?
まさかそれも、《原初ノミア》が関わってるってことか!?」
ダットは小さくうなずく。
「分かんないけど、可能性はあると思う」
あの不気味な声が脳裏に蘇る。
「今回倒した《無核ノミア》は、裏で《原初ノミア》ってやつが糸を引いてるみたいだった。
『生は無価値』とか『おぞましい存在』とか言ってたな。
……生命をバカにしやがって」
他の場所でも、こんな暴虐を行っているということか。
思わず拳に力が入る。
「あんな酷い状況はもうたくさんだ。パーツのことがなくても、放っておけない。
いや、俺に何ができるかわかんないけどさ……《古樹の森》の先だな。行ってみるよ」
そう言い切ったところで、巨大鳥が大きく翼を広げた。
風が舞い上がり、枝葉がざわめく。
アルトとダットが駆け寄り、こちらに向かって大きく手を振る。
「クロ! 無茶しないでね!」
「ラース、気をつけて! また戻ってきてよ!」
巨大鳥が枝を蹴って羽ばたいた。
二人の姿はみるみる小さくなっていくのに、それでも手を振り続けているのが見えた。
胸の奥がじんと熱くなり、思わずこちらも手を振っていた。
「あぁ、またな!」
******
巨大鳥の背中の上で景色を眺めながら、ふとラースへ問いかける。
「そういえばあいつら、セレナよりかなり小さかったよな。
一般的な人間ってどの程度のサイズなんだ?」
「一般的な人間は百六十五センチほどです。ちょうどセレナさんくらいの身長ですね!
クロはおよそ三十センチ。私は五十センチ。
ダットさんやアルトさんは八十センチほどですね」
「センチ……?」
「一般的な単位体系がありまして……」
こうして俺は、ラースから標準的な度量衡とサイズ感、方角、時間などを教わった。
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
Extra:《跳星バースト》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《偏重計測パーツ》
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ここまでのエリア構成です
作中は分かりやすさを優先してセンチ表記にしていますが、物語世界には独自の度量衡もあります。
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次回2026/5/2、0:10頃、次話を更新予定です




