第45話『再会』
******(クロ視点)
俺達は《跳兎の石庭》で《無核ノミア》を倒した後、下層へ向かっていた。
ダットは慣れているのか、迷うことなく前を駆けていく。
「なぁダット。このまま進んでいけば、ラース達と合流できるんだよな?」
「そのはずなんですけど……」
周囲は闇に包まれ、湿った冷たい空気が皮膜にまとわりつく。
《ファントムテール》の光が岩壁を照らし、通路の先がうっすらと浮かび上がる。
前を行くダットの気配が、ふいに止まった。
「……行き止まり?」
「いや、ここから下層へ行けるはずですが……」
尻尾の光をフワッと向けると、紫色に変色した根で道は塞がれていた。
「この辺りも、汚染されてるのか……?」
そのとき──
ズズンッ……!
足元から、凄まじい地響きが伝わってくる。
ダットが瞬間的にしゃがんで頭を抱える。
「ひっ……この揺れって……下でも何か起きてるの……?」
「ダット、いけ! その根、蹴り破れ!」
「え、ええっ!? こ、壊れますかね……
それに紫色で気持ち悪いし……ヤダなぁ……」
「目をつぶればいけんだろ! 思いっきりいけ──!」
「わ、わかりましたっ!」
ダットは道を塞ぐ根に向かって、思い切り跳びあがった。
******(ラース視点)
今、私とアルネさんは《樹影の根域》にある巨大な円形の広場にいる。
上層へと繋がる道は、変色した根で塞がれてしまっている。
広場の中央──《エルグラシア》の根が地面に触れる部分に、小さな《銀色の塊》が張り付いていた。
その塊は、紫色に変色した岩盤に覆われている。
さらに、その岩盤の周囲では、地面が絶えず変形を続けている。
通常の岩盤であれば、《マシナリークラッシュ》で破壊することが可能だ。
しかし、これほど不安定に地面が変動していると、私の直線的な攻撃は当てることすらできない。
「この状況では、目標を破壊することが困難ですね!」
アルネは周囲を見渡した後、何かを企むような表情を見せた。
「……だったら上から……例えば、こういうのはどうかな」
そう言って腰のバッグからスケッチブックを取り出した。
くるくるとペンを回して、ピタリと構える。
その先端が紙に触れた瞬間、ペンは縦横無尽に走り始める。
紙の上で線が重なり、渦を巻き、立体構造が一気に描き出されていく。
数秒後、アルネは「はい」と言い、描き上げた紙を差し出してきた。
そこに描かれていたのは、広場全体を俯瞰した構図に、外周をぐるりと回る軌道線。
壁に張り付き加速する動きを表した、矢印の束。
そして──
「……と、こんな感じで、周囲の地形を利用すれば地面の変動は関係ないと思うんだけど……
どうかな?」
「おおっ! なるほど……これなら、飛行できない私でも、破壊可能です!」
アルネは笑い、小さくうなずく。
「ふふ……私には、こんなことしかできないから」
その瞬間──遥か上方で轟音が響き渡った。
大きな揺れとともに、地面がビリビリと波打つ。
アルネは、はっと顔を上げて、すぐに右目を押さえる。
それから「うぅ……っ」と、痛みをこらえるように片膝をついた。
「くっ……これは! ……力が……“灰牙”の暴走が始まる!」
「アルネさん……!? この揺れになにかあるのですか!?」
近寄ろうとする私を、アルネは鋭く手で制した。
「私に構わないで……早く、アイツを……お願い!!!」
「分かりました!」
アルネの様子から、一刻を争う状況と推測する。
広場の外周を計測し、《銀色の塊》を破壊するための軌道を即座に算出する。
導き出された結果は、アルネの描いたイラストと誤差ゼロで一致していた。
「シミュレーション完了です!」
推進に用いる魔力を一気に噴射し、《マシナリージャンプ》で外周の壁面へ向けて飛び出す。
空中で姿勢を制御し、下部パネルを高速回転させる。
そのまま壁面へ叩きつけられるように着地し、《マシナリードライブ》で壁面を走り出す。
一周、二周──
加速とともに視界が流れ、削れた外壁の破片が弾け飛ぶ。
下部パネルはシミュレーション通りに温度上昇を続け、やがて赤熱し始める。
最高速度に達した瞬間、外周の隆起に乗り上げ、私は弾かれるように宙へ跳ね上がった。
「いきますよ!」
全身に魔力を纏いながら、《銀色の塊》を覆う岩盤にピタリと照準を合わせる。
重力を逆に利用しつつ、背面へ向けて、圧縮した魔力を連続して噴射する。
ボボボボボッ!!!
急激な加速によって視界は狭まり、岩盤が一直線に迫ってくる。
「《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》!!」
すさまじい衝撃とともに岩盤は爆ぜ、轟音が響き渡る。
粉塵が舞い上がり、《銀色の塊》の破片がバラバラと降り注いだ。
「……ラース!」
粉塵をかき分けながらアルネが駆け寄ってくる。
くるりと回転して周囲を見渡すと、地面は大きく抉れ、クレーターのように変形していた。
その様相に目をとめて、アルネは息をのむ。
「……あなたの“力”は、本物……なのよね」
アルネは、ぽつりと呟いて、うつむいた。
呼応するように、兎耳が頭の上に垂れ下がる。
「……それに比べて、私って何なんだろ……
私の“力”なんて、結局……」
アルネは右腕をぎゅっと握りしめ、何かをこらえるように下唇を噛む。
「アルネさん……」
「……私なんて、ただ絵を描いただけ。
こんなとき、何の役にも立てないね……」
「アルネさん」
私は、もう一度声をかけた。
「あなたの絵がなければ、私はあの軌道を導き出せませんでした。
周囲の構造と問題点を整理して、解決への道筋を描く。
あなたはそれを一瞬でやってのけたのです。
それこそが、あなただけの“真の力”ではないでしょうか。
それは、どんなときでも必ず役に立つはずです」
「私だけの……真の……力」
アルネは、握りしめていた右腕をゆっくりとほどいた。
伏せていた顔を上げると、その瞳には先ほどまでなかった光が宿っているように見えた。
その時、周囲に散らばる《銀色の塊》から微かに声が響いた。
(……塵め……抗うな……全ては……我がもの……)
声は次第に小さくなっていき、破片とともに霧となって消えていった。
青白い光の粒が、広場全体に浮かんでいく。
同時に、《エルグラシア》の根がまばゆい光を放ち始めた。
「……きれい……」
アルネが思わず息を呑む。
気づくと、私の体がふわりと浮き上がっていた。
「……おぉ! 浮上機能が回復したようです!
これで、クロたちを助けにいけ──」
その瞬間、頭上で鋭い衝撃音が響いた。
バキィッ──!
天井を塞いでいた紫色の根が弾け飛び、その裂け目から翼を広げた少年が現れる。
そのまま一直線に降下し、目の前へ着地した。
舞い上がる粉塵の中で、翼が光を受けてきらりと揺れる。
──いや、翼ではない。
そこにあったのは、光をまとってフサフサと揺れている尻尾だった。
尻尾が少年の背に隠れ、代わりにヒョコリと毛玉──クロが顔を出す。
次の瞬間、バッと皮膜を広げて私へ向かって飛んできた。
「ラース!! 無事だったんだな!!」
私の視界に張り付いたクロの腹部を見て、内部処理性能の向上を検知する。
「クロも元気そうですね! これは、思わずテンションが上がってしまいます!」
少年はアルネに駆け寄り、泣きながらその手を握りしめていた。
「アルト! 僕……アルトがやられちゃうんじゃないかって……うぅ……」
アルネの耳はピンと立ち、体を強張らせている。
その横顔から、頬の赤みと体温の上昇を検知した。
「アルネさん、頬が赤いですね。体温も上がっているようですが、まさか──」
「ち、違う! これは……そう! “封印”! “封印”が揺らいでるせいで!」
「……なるほど! 負傷をしてないか心配で、少しドキドキしてしまいました!」
その言葉に、アルネの頬が赤みを増した。
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
Extra:《跳星バースト》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》《ウルトラアルティメット・ギャラクシーバースト》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《??パーツ》
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山場 & サービス回でした。
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次回2026/4/18、0:10頃、次話を更新予定です




