第42話『無核ノミア』
******(クロ視点)
「アルトの……世界?」
「いわゆるその……闇の世界とか。封印されし力の目覚めとか、そういうやつです……。
……ただ、誰にでもそういう時期はあるので、気にしなくて問題ないと思います」
「そういう時期……? まぁいいか。問題ないなら今は置いておこう。
あと、もう一つ教えてくれ。
大勢で《跳兎の石庭》に行って、誰も無事に戻ってこれなかったんだよな?
……その人たちは、ダットより強かったのか?」
「強さは全然分からないんですが……ちょっと、見ててください」
ダットは胸の前で小さく拳を握ると、その場で構えた。
次の瞬間──
ダットの両足が残像のようにぶれたかと思うと、地を蹴る音と、風切り音が連続して響く。
「はっ、速っ……!?」
砂埃が舞い上がり、慌てて尻尾を揺らして振り払う。
ダットは慌てて動きを止め、耳をしゅんと垂らした。
「す、すみません!
あの……こんな感じで……逃げ足だけは自信があります」
どうやら、高速で足踏みをしていたらしい。
「ダット……やっぱりお前、ほんとは強いだろ……」
「いやいや、そんなことないです! もう、想像しただけで体が……」
ダットは肩を小さく丸めて、本当にぶるぶると震えている。
「……そうか、無理にとは言わない。
でも……
俺は、友達を失う方が怖いけどな」
「……僕は……」
ダットは唇を噛み、拳を握りしめてうつむいている。
「……いってくる」
俺は《跳兎の石庭》へ向けて駆けだした。
「クロ……!
つ、土や根に気をつけて! 人にも、噛まれないように!!」
その声を受けて一瞬立ち止まり、ただ尻尾を大きく揺らしてから、また駆け出した。
駆けながら、《千里眼》と《ウィズセンサー》を展開する。
魔力の格子が走り、巨大な建造物の構造が浮かび上がった。
入り組んだ階段や小部屋に根が絡みつき、坂道が複雑に折り重なっている。
そして、少し下の階層に《跳兎の石庭》と思われる広場が見えている。
──というのも……
本来青色であるはずの格子模様は、広場を中心として禍々しい紫に染まっている。
またその周囲では、広範囲に渡り何かがもぞもぞと蠢いていた。
「なんか……きもちわるっ」
広場の中心の色合いはひときわ濃く、恐らくこの異常を起こしている何かがそこにいる。
このままじゃここは終わりだ。
何ができるか分からないが、そいつを何とかするしかなさそうだ。
念のため、《隠密膜》を展開しながら坂道を駆け下りる。
走るにつれて、周囲の景色がじわじわと紫に変わっていく。
最初は遠くに見えていたはずの色が、気づけば壁や根にしみこんでいる。
……《ウィズセンサー》で見た時より広がっている。
この浸食は、下方向にも進んでるのか? ラースは、無事なんだろうか……。
前方に数人の村人らしき影が見えた。
「げっ……」
体色は紫に染まり、虚ろな目で泡を垂らしている。
目が合った次の瞬間──全員が一斉に飛びかかってきた。
「隠密膜、効かねぇのかよ!」
相手は村人だ。できれば攻撃したくない。
とっさに壁を駆け上がり、そのまま《高速滑空》で頭上を抜ける。
空中で身をひるがえし、迫りくる手をかわした。
そのまま地面へ着地し、勢いを殺さず走り出す。
背後では、村人たちがなおもこちらへ向かってくる気配がした。
振り返る余裕はない。今は進むしかない。
走るたび、周囲の根や土がぐにゃりと形を変え、触手のように伸びて襲いかかってくる。
素早くステップを踏んでかわしながら、前へ前へと抜けていく。
息を切らしながら駆け抜けると、視界が急に開けた。
──広場だ。
足を踏み入れた瞬間、悪寒が走り、全身の毛がぶわっと逆立つのを感じた。
広場いっぱいに、紫色の細い根が網のように広がり、脈動している。
根のあちこちに瘤のような膨らみがあり、淡い光を明滅させていた。
その中心に──自分と同じくらいの大きさの、紫がかった銀色の根の塊が張り付いている。
《鑑定》——発動。
<<——無核ノミア成体。 無核植物。>>
ノミア……? あれを破壊すれば浸食は止まるのか?
広場には、数十人の人影。狐や狼のような動物も混じっている。
これだけなら、何とかなりそうな気がする──
そう思った矢先、周囲の地面や壁、根が一斉に形を変え、こちらへ襲いかかってきた。
「っ……!」
左右にステップを踏んで人や動物を避ける。
迫ってくる土や石に《ショックスタンプ》を叩き込むが、砕けない。
次々と襲いくる攻撃をかわし続けるが、近づく隙がまったくない。
さらに、ノミアの周囲の岩盤が盛り上がり、殻のように覆い始めている。
建物全体が揺れ、上層への階段は変形した根で塞がれていた。
「これ……状況が悪くなる一方だな!」
逃げ場がない。このままではやられる。
あの岩盤をえぐるような、強力な一撃がないとだめだ……!
猛攻を避けながら掌に魔力を集中すると、青白い光がにじみ始める。
《ショックスタンプ》発動──だが、これじゃ足りない。
あの殻をぶち抜く力がいる……!
全身の魔力を掌へ流し込み続けると、それに応じて肉球の輝きが増していく。
「……もっと、もっとだっ!」
視界が揺れ、耳鳴りが響く。
それでも魔力を押し込み続け──頭の奥に、声が響いた。
**《バーストスタンプ》——発動。魔力による爆発粉砕。**
肉球に浮かんだ輝きは、《ショックスタンプ》よりも数段大きい。
強い魔力の集約のせいか、光の端が歪んで見えた。
魔力を流し続けた右腕は、しびれて感覚が遠い。
だが、これを叩きつければ……!
その時、背後から声がかかった。
(動くな……おぞましい)
助けがきた──そう思って振り返った瞬間、凍りついた。
誰も、いない。
床から伸びた木の根がぶわっと広がり、絡みついてくる。
「しまった……!」
根の表面が脈打ち、そこから声がにじみ出るように響いた。
(無為に動き回り、思考する……おぞましい存在よ)
《無核ノミア》に感染した男たちが、俺の体をがっちりと掴んだ。
右手の《バーストスタンプ》を叩き込むか──
だが、何となく感じていたが、こいつらは恐らく……まだ生きてる。
迷いの刹那、紫の粘液を引く男の口が、視界を覆った。
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■クロ
身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》《バーストスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《??パーツ》
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