第41話『アルネの世界』
******(ラース視点)
「記憶がないんですか……それは」
思わず問い返すと、アルネは足を止めた。
「あっ……少しだけ時間をもらえる?」
腰のバッグからスケッチブックとペンを取り出し、周囲の根をじっと見つめる。
その瞳は先ほどまでと違い、どこか研ぎ澄まされている。
静寂が落ち、空気が張り詰めた。
そして──目を見開いた。
指先が、弾かれたように動き出す。
ペン先は紙の上を跳ね、走り、回転し──あまりの速さに、腕から先がぶれて見える。
わずか十秒ほどで仕上げの一線を走らせると、アルネはふっと息を吐いた。
「こんな感じかな」
そこに描かれていたのは──
目の前の風景と寸分たがわぬ、大樹の根だった。
複雑に絡み合う根の一本一本が、乱れなく正確に描かれている。
細部には柔らかな陰影が施され、紙の上に立体が浮かび上がって見える。
「おぉ! すごい速さです!
細部まで精密で、それでいてタッチが柔らかい!
この根は規則的で、強く、美しい構造ですね」
「ふふ……そうね。今は絵を描くことくらいしかできないけど……私、植物が好きなの」
そう言いながら、スケッチブックをパラパラとめくっていく。
どの絵も、風景と植物が美しい構図で描き込まれている。
そのとき、一枚の紙がひらりと落ちた。
「あっ……!」
アルネが慌てて手を伸ばす。
そこに描かれていたのは──
愁いを帯びた表情と、キラキラした瞳。
白と黒の耳が垂れ、背中に大きな翼が生えた青年の絵だった。
「おぉ! この方も美しいですね。
お友達ですか? 翼もカッコいいですね!」
アルネは頬を赤くして目をそらした。
「あ、ありがとう。……そうね、お友達……かも。
ダットっていうんだけど……この翼は、私にしか見えないの」
「おぉ、それはステキですね!」
こちらを横目で見ながら、アルネはつぶやいた。
「……笑わないの?」
「何をですか? アルネさんにだけ見えるんですよね!」
アルネの肩が、少しだけ震えた。
「……ありがとう。
あなたは、この世界で唯一の“理解者”かもしれないわね……ふふ」
アルネはスケッチブックをしまい、くるりとこちらを向いた。
「さっきの話だけど……私の記憶は、一部が“封印”されているの」
「……封印……何があったのでしょうか」
「ふふ……その話をするためには、私の世界のことを説明しないとね」
少し間を置いて、アルネは話し始めた。
「影界。影と霧がすべてを覆う世界。
その王族──“灰牙”の血を継ぐ者だけに許される、真名があるの。
……でも、真名は危険すぎるからなぁ」
アルネはチラチラとこちらをうかがっている。
「それは、聞かない方がいいですね!」
アルネははっと顔を上げ、一息ついた。
「いいわ。あなたにだけは教えてあげる。でも決して口にしてはだめ」
「はい、言いません。ですが、聞かないほうが──」
「あなただけよ、私の真名を教えるのは」
アルネはささやくように続けた。
「……闇纏う跳躍者。
それが……私の真名よ」
「おぉ!」
「ふふっ、でもこの名は危険すぎるから、普段は仮の名前を名乗るの。
……アル=ネフェル=ディアス。
それが、私の名前」
アルネは左手で右手首を掴み、強く握りしめている。
「ただ私は……“力”が強すぎた。
幼いころに影と霧が氾濫して、世界を飲み込みかけたの。
……すべての人が、私を恐れたわ」
「……そんなことがあったんですね」
「そう……だから、“力”と“目”。
それに影界との“鍵”に関する“記憶”を封印されて、この世界に追放されたの。
あのままじゃ……私は世界を壊してしまうから」
アルネの言葉に熱がこもっていく。
「力の封印が解ければ、私は暴走する。
影が溢れて、すべてが闇に沈んでしまう。
そんなこと、私は望んでないのに!」
声が僅かに震えていた。
アルネは包帯の上から右目を押さえた。
「灰眼はね……真実を見通す力を持つの。
これが開くと、私はすべてを視てしまう。
だから、影界の門を開く“鍵”──その“記憶”とともに封印されたわ。
……私はこの世界を記録し、観測し続けることで、少しずつ“鍵”の“記憶”をつなぎ合わせているの」
「“鍵”の記憶……」
アルネは一歩近づき、声を潜めた。
「“記録”しているとだんだん分かってくるの。魂が揺らぐから……。
ダットは、きっと“鍵”の一部」
顔を上げて、自嘲気味に呟く。
「あーぁ。“力”さえ戻れば、村もあなたのお友達も救えるはずなのに。
あ、でも……ダメか。暴走したら吹き飛ばしちゃうのよね」
アルネは横目でじーっとこちらの反応を伺っている。
「すごい力なんですね!!」
その言葉にアルネは目を丸くし、次の瞬間、嬉しそうに笑った。
「あははっ……信じてくれるのね。
あなた、本当に……この世界で唯一の“理解者”だわ」
そのとき──地面から、かすかな振動が伝わってきた。
揺れはじわじわと大きくなり、やがてエリア全体が震え始める。
天井の土がぱらぱらと落ちてきたところで、振動はふっと止んだ。
アルネは反射的に右目を押さえ、足を止めた。
「うっ……右目が……疼く……っ!
……闇の気配が濃くなってる」
「大丈夫ですか! この先に……何かがいる、ということでしょうか」
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■クロ
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便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》《スラッシュテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
■ラース
スキル:《マシナリードライブ》《マシナリージャンプ》《マシナリークラッシュ》
パーツ:《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》《??パーツ》
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