第6話 少し変
とりとめのない話をしながら、すずちゃんとコンビニでわいわいと買い物を楽しんだ後、私は小走りで部屋へと戻る。
部屋に戻ると、どうしても服の残骸が目に入ってしまい、昨晩の出来事が嫌でも甦る。
そうすれば、どうしても先程の異常なタイムでの疾走が、無関係とは思えない。
(自分でもよく分からないし……)
これが今の正直な気持ち。
あれよあれよという間に、いろいろなことがあったし、今言えることは自分の身体に何らかの変化が起きてるんだろうということ。
これが良いことなのか悪いことなのか、おそらくAIに聞いても答えが出ないんだろうな。
――とすれば、様子を見るしかないってことか?
(でも、何がどうなってるのか正確に知っておく必要もあるわね。)
朝のタイムでも分かるように、あまりにも常識から逸脱するようだといろいろと困ることもあるだろうし。
(“変身”=すごい能力が使えるかどうかも今のところ未知だし。)
使えたとしても、何がどう、どのように、使えるのかを知っておくのも大切なことになる。
(今できることじゃないか――)
このことはひとまず脇に置いて、朝の用意をすることにした。
それでも普段の朝のように、自分で作って、食べて、片づけをして、に比べると今朝は食事が簡素になった分、少し時間に余裕ができるはず。
コンビニで買ってきたおにぎりをテーブルに置いて、シャワーでさっぱりと汗を流すと、食後のコーヒー用にお湯を沸かすべく、ゆったりとした火力で鉄瓶を火にかける。
火力を抑えることで、お湯が沸くまでに食事を終えられるようにと、考えてそうしている。
ポットのお湯でインスタントの味噌汁を溶いて、コンビニのおにぎりをほおばる。
明太子――結構好き。
朝のひとときコーヒータイム
この時間が、とても気に入っている。
本当は豆を挽くところからやりたいくらいだが、今の私には、挽いた豆からドリップするだけでも十分幸せで、淹れたてのコーヒーの香りが部屋中に満ちて、さあ、今日も一日がんばるぞと、やる気を引き立ててくれる貴重な時だ。
気分でミルクを入れる時もあるけれど、今日はブラックストレート
やわらかい香りが鼻腔をくすぐり、一口すすればほんのりと酸味を感じながらも甘みを持った味わいが広がり、さらにいっそうの香りを感じる。
「あー、この瞬間が一番いいかも……」
軽く目を閉じて、鼻と下に意識を集中する。
「ん?」
何と言うか、いつもより香りが強く、心なしか味にも敏感になっているように思えた。
(酸味が際立ってるように思うなぁ、この豆おかしい?)
気になり、席を立って豆の袋を見に行くが、いつものやつで、古いとか見た感じも全く変じゃない。
(気のせいかな?)
ふたたび椅子に腰かけると何気なく携帯をいじってニュースのチェックを始める。
(ふんふん。なるほどね。)
気になる記事を斜め読みしながら、概略を捉えつつ、再びコーヒーに手を伸ばし、ぐびっと一口
(あ、今度はいつも通りの味だなぁ)
“ながら”で口にしたコーヒーが普通どおりに感じたので一安心で幸せの時間を過ごした。
しかし幸せの時間は長くは続かない。コーヒーのカップが空になるといよいよ出勤だ。
朝7時30分――私の家を出る時間。
もっとも日によって少しの誤差はあるけれど、ちょっと早めに職場について、少しばかりのおしゃべりを楽しんで業務につくのにちょうどいい。
私の、出身地では一時間に数本列車があればいい方だけど、都会となるとさすがだと思う。
特に通勤時間など。数分に一本電車が来るんだから……電車と列車使い分けたのわかるかしら?
最初は戸惑った。電車の本数じゃなくて行き先表示。これ知らないとどこ息の電車か分からなくって、思わず聞いたもの『これ○○行きますか?』って、最初『えっ』て顔されたけど『行くわよ』ってほとんど無表情で答えられて、聞いた私が何か悪いことしたみたいな気になって、都会の人は皆こうなのかなって。
最近じゃ、さすがに行き先で惑わなくなったし、職場にも仲良く話せる同僚もできた。それなりに上手くやれてると思う。
大勢の人に混ざっての通勤は大変だけど、最近はひそかな楽しみも増えてね。
それが電車内とかでの人間観察。まあ、もともといろんなことを観察するのは好きだしね。何でこうなるの?とか不思議で一杯でしょ。こういった考察って想像力を掻き立てるし。
でも、これが原因で昨晩のことも有ったけど……結果良ければすべてよし。
今日も揺られて仕事に行くぞ。
次話は美羽の職場。




