第4話 変身の鍵は?
先ずは、検証。きっちりしておきたい美羽は、どうすれば”変身”し、”解除”できるのかを考えます。
推論でしかないけど、今のところ考えられる“変身”のきっかけは、おそらく足を2回踏み鳴らすので間違いないと考えた。
それ以外に特別なことをした記憶がない。不思議アイテムなどにも心当たりはない。
いづれにしても、今は変身中だから“変身”の検証はできないはず。
けど、”変身“中に”変身“したらどうなるのかには興味はある。
しかし先ず”解除“が先
じゃあ、その“解除”はどうやれば成る?
“変身”状態で足を踏み鳴らせば、床が大変なことになりそうだけど……
さっき、そーっとコンコンと音が鳴る程度に足踏み鳴らす動作をしたけど、“解除”されなかった。
右足でも左足でも両方を念のため確認したけど、変化はしなかったのでこれは“解除”の鍵からは外してもいいと思う――“変身”の逆が“解除”ではないようだ
”
頭では“解除”の術を考えながら、公園から回収してきた私の元衣類だった布片をパズルのように並べていたら、布片の一切れの大きさが全体的にある程度揃っているという事実に気付いた。
どの布片も若干の違いは見られるが、ほぼ正六角形で各辺は五センチ程度。
これは変身の際に肌?に浮かび上がったハニカムの大きさと一致している気がする。
これ、正確に言えば皮膚から数センチ浮き上がったところに生成されたハニカムが、皮膚に降りていくんだけどそのときに少し小さく細かくなってるように思えた。
それに、ただなんとなくだけど組みあがったTシャツは元より少し小さく思える。
(全部回収できなかっただけのか、一部消失したのか分からないけどね。)
一応小さかったとだけ記録しておこう。あとで何かの発見や気づきがあるかもしれないからね。
改めて懸念すべき事項に思い当たって不安が隠せない。
“変身解除”が“変身”からの経過時間とかの場合、“解除”がいつ来るか分からない不安と言うか怖さもある。
だって、その“解除”が予兆もなく突然きちゃったら、部屋の中とかなら何とかなると思うけど、“解除”が突然、しかも外で起きちゃったらどうなるか分からない。
でもその結果は何となく予想は付いてる。
“変身”の際着ていた服はこうなった。
パズルのように並べたほぼ完成品を見てそう思う。
よほどの物理の法則を無視できる状況が起きない限り、この服が“解除”とともに元の服に戻って着た状態になっていることは100%望めない。
(でもどこからか現れたこのスーツはどう説明するの?)
自分の黒のスーツを鏡越しに見つめ自問する。
(1%の望みはあるかもね)
考えても答えの出ない自問自答にため息をつくことで区切りを入れた。
おそらく、“解除”の後は予想しているような状態になるだろうから、今回部屋に帰りつくまでに“解除”が無くて内心はホッとしているのも本当。
でも、明日の朝目覚めても“変身”状態を維持しているのも困る。
さっきも思ったけど、この格好じゃ仕事にも行きづらいよね?
――いや。行けないか、やっぱり。
“変身”というか黒スーツには気付いた時にはもう“変身”済みだったから、“変身”に要する時間はそんなにかかってないと思う。
同じ理屈でたぶん、“解除”の方も時間がかかることはないとは思う。何時間もかけて徐々に解けていくとかは勘弁してほしい。絶対対処できない。
“解除”までが時限性だった場合、このスーツの上から服を着ていても突然の“解除”が起きた場合、最悪下着レスの状態でいるのはイヤだし、かと言ってスーツの上に下着付ける……?
いやいや、スマートじゃない……と思う。
(もー、今なら変身解けても問題ないんだから早く解けて欲しいもんだわ……)
どういう状態でも許容できそうな部屋の中での“解除”を願わずにはいられない
何ならそのままシャワー浴びれるし――
“変身”が解けた姿を明確にイメージしつつ、何となく浮かんだ言葉を口にする。
(“変身”した結果がこれなんだから、“解除”これを脱いだ状態だから)
「脱着!」とか……ないか?
数分後、美羽は無事にシャワーを浴びることができた。
(さて、そうなると今一度確認しておくべきことは)と、
偶然とはいえ、“解除”を成した上はひととおり確認しておかなくては落ち着かない。
体を拭き終わったタオルを籠に投げ込むと、鏡の前で記憶のとおりに動作をしてみる。
いわゆる『不動の姿勢』から、腕の動きも付加した左足踏み鳴らし2回。
動作を終えて静かに佇む。
(分の単位ではなかった。きっと秒の単位)
そう思い描いて待つが一向に変化が見えない。さっきまで見ていたというより着用していた黒いスーツを思い出して、イメージしながら
(スーツを装備するから、装着…かな?)なんて思いつつ
「ん~、『装着!』」なんてね。
口にしたとたん全身がもぞっとした。
慌てて鏡を見つめるが変化はない。
(……なんだ、気のせいか?風邪ひいちゃうわ)
そんなもんよねと振り返って用意していた下着を手に取ろうと伸ばした腕がわずかに発光している。注意していないと分からない程度のごく僅かなものではあったが。
発光が収まると正六角形の小さなハニカムが全身を覆うように浮かび上がってくる。
(これって……)
鏡に向き直り全身を映す。ハニカムが全身を覆い尽くすと体の中心部から順に黒色化が始まり、次第に四肢へと広がって行く。
ただ、想像したよりも遅い。
足先、手の先まで順に黒色に変化してゆくのを静かにゆっくりと目で追う。
黒で安定してゆくとそれに合わせるようにハニカムの区切りが見えなくなっていき全身の黒色化が終わればハニカムの形状はもう全身で一体化してやがて桎梏へと深みを増してゆく。
体感でしかないが、全身の発光現象をスタートにして全身の漆黒化完了まで約20秒、この時間を長いと捉えるのか、短いと捉えるのか。
美羽には長いと感じられた。
(え、でも公園では絶対『装着』なんて言うシチュエーションはなかったはず?)
なら、なぜ今回“変身”できたのか?
(もしかして言葉って、関係ない?)
公園でのことを思い返すも、絶対に『装着』などと言うはずがない。
(なら、いったん“解除”してやり直す?)
近くに有ったノートの隅にこれまでの“変身”時の様子を書き記してゆく。
『1回目左足2度踏み鳴らし、『??』の言葉。『装着』ではなかった。変身した。』
『解除。特に何もせず。『脱着』の言葉。成功』
『変身2回目。左足2回踏み鳴らし『装着』の言葉。変身した。』
メモし終わって、『脱着』と呟いてみる。
呟いて自分の腕を見つめていたが一向に変化が現れず、首を傾げる。
(なんで? 『脱着』でいいはずでしょ)
時間は経過するが反応がなく、いやな汗が流れる。
「『脱着』……『脱着』、『脱着』――」
言い方が違うのかと、アクセントや強弱を変えて何度か口にしてみるが、一向に“解除”されない。
「えー、なんで解除されないの?何か違った?」
不安が募って考えたことが思わず口を突いて出てくる。
(“解除”されるはずでしょ……さっきみたいに。)「解除して」
半分諦めが入っていた。しかし、妙な感覚はやってきた。
しばらく後、“解除”された姿で安堵のあまりしゃがみ込んでいた。
(……よかった。)
彼女のメモが一行書き足される。
『解除2回目。先程と同様、特に何もせず。何度か『脱着』を唱えたが戻らず。半ばあきらめて『解除して』で元に戻った。』
メモを眺めながら何が問題なのか思考を巡らせる。
メモから、言葉に統一性はない。“変身”時は一応ポーズと言うか行動に統一はあったがこうなると偶然の可能性が出てくる。
(ほかに、気付いていない何かがあるはずだとは思うのだけど……)
先程の“解除”、目星をつけていた言葉『脱着』で“解除”できず、焦って何度か変えて言ってもだめだった。
で、最後に言った『解除して』で解除できた。
様子を振り返りながら違いを考える。
考えることに夢中になりすぎて自分の恰好を忘れていたことに気付き、慌てて部屋着を出して来て着れば、少し落ち着きが出てくる。
落ち着いて思い返すと中身が見えてきた気がした。
……あの時、『脱着』って言った時は、単なる確認の意識で言葉自体に気を取られていた気がする――けど、『解除して』って口を突いて出てきた時は切に願っていた。
じゃあ、祈り?でも“変身”の時も願っていない。
(確認は……しないとね。)
一瞬で顔が引き締まる。
“変身”するという気持ちをもって、あの変身を思い出す。
(うん!)
「『装……着』」ゆっくりと噛みしめるようにそしてゆっくりと声に出す。
途端にもぞっとした感覚が全身に行き渡り確信する。
(やっぱりそうだ)
“変身”してゆく自分を観察しようと、顔を上げて鏡を見た。
(しまった!ちょっと待って!!)
無情にも願いとは裏腹に、部屋着の表面に無数の淡い光に包まれたハニカム(正六角形)が浮き出すと同時に、無残にもいくつもの正六角形の布片と化した部屋着が体からはがれていく。
(あぁ……また一着無駄にした。)
しばらくの後、変身が完了する。けど、床には部屋着の残骸が揃った大きさの正六角形の布として積もっている。
服を失った喪失感に打ちひしがれる。
(分かっていたのに……)
その後“解除”も行った。
後悔から来るものが大きかったが、一糸まとわる自分の姿を脳裏に浮かべながら、静かに『脱着』と。
しばらくの後、新しい部屋着に着替えた私は分かったことをメモに残して寝ることにした。
検証はした。
それでも、疑問は残る。
そして一番大きな理由、なぜ、私?




