無力
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「くそっ!ここで勇者を失うわけにはいかない!!小隊の半分は民間人の護衛に当たれ、残り半分は森の中へ入り、勇者と子供の捜索に当たる。いつも通り3人一組で当たれ!」
勇者の愚行に悪態をつきながら、小隊に向けて指示を出す。
私も、ビットとトレモロと共に森の中へ侵入し、勇者の痕跡を探す。
しばらく捜索していると、木の陰で震えている子供と、その近くで理外の獣に襲われている勇者を発見した。
「ビット!トレモロ!戦闘準備だ!」
声をかけながら走り出し、勇者の右腕を喰おうとしていた狼型の理外の獣に、全体重をかけた刺突を繰り出す。
獣の狙いが逸れ、距離を取ったと同時に勇者に声をかける。
「勇者殿、貴殿は一つ勘違いをしている。」
「ゼータ!!」
「勇者殿は、なぜ制止を聞かずに森の中へ走っていった?」
「そ、それは・・・。無力な子供が危険な目に合ってるかも知れないんだ。当然だろう?」
「無力か・・・。理外の獣相手では、何物も無力というものだ。」
私は勇者に、子供を守りながら戦うビットとトレモロを見るように促した。
彼らは、子供に近づけさせないように、あらん限りの力をこめて剣をふるっている。
それでも、理外の獣は傷一つつかない。
傷つかない捕食者は、獲物に対して恐れを抱かない。
勇者が目の前の光景に目を見張る。
「勇者以外、全員が無力だ。それは鍛え上げている騎士たちも同様だ。さぁ、貴殿の思い上がりで、無力な騎士が二人、命を懸けて戦うことになったぞ。その落とし前はどうつける。」
私の言葉に、勇者が両手で自分の頬を叩いた。
「すまん。全然わかってなかった。今から全員で協力して、理外の獣をぶっ飛ばそう!」
「それでいい。ビット!トレモロ!任せて悪かった。今から勇者とともに理外の獣を討伐する。」
「人数不利で厳しかったんだ!早く何とかしてくれ!」
泣き言をほざくビットを無視し、こちらに意識を向けていなかった理外の獣に対して、下段から上段にかけて大ぶりの一撃をかます。
奇襲を受けた理外の獣が吹き飛ぶ先には、剣を構えた勇者が待ち構えていた。
「さっきのお返しだ!」
狼型の理外の獣を、肩から胸にかけて切り飛ばす。残り2匹。
「勇者殿、お代わりだ!」
調子を取り戻したビットが、もう一匹の狼型の獣を勇者の前に突き出す。
勇者は手慣れたように剣をふるい、理外の獣を仕留めた。
残りは山猫型の理外の獣一匹だ。
ビットに向けて噛みつこうとしていた山猫型の獣を、トレモロがその剛腕でかち上げて、勇者の前に献上する。
「これで終わりだ!」
誰の目から見ても、理想的な剣の振りだっただろう。
しかし、幾たびも理の外にいる存在を切ってきた剣が、獣の首筋に当たった瞬間、砕け散ってしまった。
「・・・!?」
そのすきを逃さず、傷を抱えたまま、山猫型の理外の獣は森の中へ姿を消した。
「ゼータ!」
「追わなくていい。」
焦る勇者に淡々と言葉をかける。
理外の獣を討伐できると分かっただけでも、大金星だ。
私は、震える子供に向き合った。
「さぁ、みんなのもとへ帰ろう。」




