↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
37/45

小休止


「おれだよ! おまえに宿場町でヴェルメーヌを取られた、ロンガだ!」

 記憶を辿る。言われてみればそんな奴がいた。リューネや俺を追ってきた聖霊廟の手先の子供達のうちの一人だ。リューネはあの時商人の馬車が運んでいたフォーシルに乗り、彼らのヴェルメーヌ3機を返り討ちにしたのだ。


 ロンガは確か残りの子供たちに対しての人質として傭兵隊の長であるアシドとかいう男と行動を共にしていたはずだ。

 ちょうどその事に思い至った時、ロンガの後ろの荷馬車からその男、傭兵隊長アシドが現れた。


「ようユーゴ、また会ったな」

 どうやら向こうもこちらを覚えていたらしい。

 そういえば、あの時彼が護衛していた荷馬車、あそこから借りたフォーシルはいまタルマイヤ坑道前の廃村に置いたままだ。

 俺がそのことを謝ると、アシドは豪快に笑い飛ばす。


「そんなもん、この戦争のゴタゴタで依頼主も気にしちゃいねえよ。俺らだっていきなり予定が変わって、こうして傭兵らしいお仕事をするハメになっちまった」


 アシドたちの傭兵隊は南部のどこだかいう街の太守に雇い入れられ、そのままロンガもろともこの戦争にメガリディア側として参加する事になったらしい。


「ロンガは聖霊力が高えからな。ヘヴェール杖の弾込め役に重宝してるぜ。いい拾いモンだ」

「このオッサン、信じらんねーくらい人使いが荒いんだよ……」

 見てみればアシドは長い木と金属からなる杖を担いでいた。これがヘヴェール杖か。まさに予想した通り銃剣つきのマスケット銃に似ている。そういえば、あの宿場町でアシドはこれで聖鎧を攻撃していた。


「じゃあ俺らは御大将にご挨拶差し上げなきゃあなんねえから、ガキはその辺で遊んでな。ユーゴの兄ちゃんに追いかけっこでもしてもらえ。晩飯には帰ってこいよ」

「バカにしてんだろオッサン!」

 ロンガがそう吠えるのも気にせず、アシドは手下どもを連れて去っていった。


「ったく……」

 結局置いて行かれたロンガは大いにため息をついた。

「まあいいや。で、おまえは何でそんなに暗いカオしてんだよ」

「……暗い顔?」

 思ってもみないことを言われた。俺は日頃から明るい顔をしているタイプではない自覚はあるので、わざわざ暗さを指摘されるとは思わなかった。


「……そんな顔をしてるつもりはないが」

「してるだろ。なんだよ、王女様に怒られでもしたのか?」

 別にそんなことはない。だが……そういえば、先ほどリューネに「少し休んでいたらどうですか」と言われた時、リューネもなにか俺の顔を見て心配そうにしていた。あの時も俺はロンガの言うところの「暗い顔」をしていたのかもしれない。


「仕方ねえなあ。おれが話聞いてやるからついてこいよ」

 ついさっきアシドにガキ扱いされたのを気にしているのか、ロンガは兄貴風を吹かせて言った。


 ロンガは俺に手招きし、先ほどの荷馬車の列に向かった。

 荷馬車はちょうどキャンプ地の中に停められ、中に積み込まれた荷を運び出されているところだった。馬車の数は今来た分だけでもざっと数えて10台以上だ。


「軍ってのはモノがたくさん必要なんだ。飯とか馬の飼い葉だけでも毎日この馬車何台ぶんも運ぶんだぜ」

 ロンガが得意げに解説する。たぶん、アシドに聞いた話の受け売りだろう。

 ロンガは停められたその馬車の荷台にひょいと乗り込んだ。幌付きの大きな馬車だ。俺はその後ろから荷台の中を覗く。


 荷台の中にはたくさんのヘヴェール杖と木箱が並んでいた。ロンガはその木箱のうち一つを抱えると「ほれ」と俺に渡してきた。俺がその木箱を受け取ると、ロンガは自分でもう一つ木箱を抱えて荷台を降りた。


「ちょっと手伝えよ」

 ロンガは木箱のフタを開けて、その中から重たそうな麻袋を取り出した。ロンガは俺に「座れよ」と言って木箱を指差す。


「これはおれの仕事なんだけどさ。まあおまえも聖霊力高えし」

 そう言ってロンガは木箱に腰掛け、麻袋を開く。その中には楕円の石がいくつも入っていた。色は白っぽい灰色で半透明、大きさは親指くらい。ロンガはその石を一つつまみ上げると、その石は淡く光を放ち、そして30秒ほどかけて透き通ったオレンジ色に変わる。


「ほら、おまえも。これに聖霊力を込めるんだよ」

 俺は袋の中の石を一つ拾い、言われた通り聖霊力を込めてみる。すると石はすぐにオレンジ色に変わった。

「これでいいのか」

「いいけどさ、ちょっとは苦戦しろよ。かわいげねえなあ」

 ロンガは色が変わった石を別の袋に放り込み、「はい次」と別の石を渡してきた。


 ヘヴェール杖は事前に聖霊力を込めておくことで術を使える武器だというが、これがその「事前に力を込める工程」なのだろう。俺とロンガは袋いっぱいに詰まった石に、ひとつずつ聖霊力を込めていく。

 ……まあ、どのみち俺はやることがなくて時間を持て余していたわけだし、ここでロンガを手伝ってやるのもいいか。


「お前、人質になったはいいがいつ解放されるんだ?」

 ロンガが「人質」と称してアシドに捕まってから、もう結構な月日が経っている。アシドは「各地から聖霊廟の追っ手が引いたのを確認したらすぐ解放してやる」とロンガに言ったらしいと聞いていたのだが。

「まあ、アシドのオッサンはもう解放してやるから好きにしろって言うんだけどさ、聖鎧取り上げられたのに放り出されても困るだろ。だから当分傭兵隊の下っ端として働く事にしたんだ」

 王都の聖霊廟に帰るにしても金ねーし、とロンガは言う。

 俺たちはそのまま作業を進めながら適当な世間話をする。


「聖霊廟にいる子供って、大体は孤児なんだよ。聖霊廟はいろんなとこで孤児院やってるんだ。大体はそこで簡単な教育を受けて働き出すんだけど、強い聖霊力がある子供は聖霊術士とか聖鎧の操縦者になるために聖霊廟の組織の中に入るんだ。聖女ミラーナもそうだって聞いたことある」

 思わぬ名前が出てきて、俺は思わず身構える。そういえば、ミラーナはフェダニスの養女という話だった。あまり深く考えたことはなかったが、あいつもそういう子供だったのだろうか。


「おれは違うぜ。……おれはさ、親もいるしボロいなりに家もあったんだけど……ウチって弟妹が多くてさ、全員食ってくのもギリギリなくらいで、それでおれの聖霊力が高いのが分かったら聖霊廟に出仕することになったんだ。売られたっていう言い方もできるけど」


 ロンガは確か12歳になったばかりという話だった。

「おれが聖霊廟に行ったのは9歳か10歳の時だっけな。大変だったんだよ。そりゃメシは食えるけどさ、聖霊術の訓練は朝から夜までだし、終わった頃にはヘロヘロなんだ。出来ねえ奴がいたら連帯責任でメシ抜きだから、ずっとみんなピリピリしてんだよ」


 なんとなく想像がつく。俺たちの世界の学校でも、飯や命こそかかっていないが、出来ない奴やはみ出す奴、足を引っ張る奴への視線は時に冷たい。


「おれ結構『できる方』だったからさ、皆や自分がメシ抜きにならないように他のやつの分も色々やったけど、でもなんかそういうの疲れちまってて……だからおれ、お前と王女様に感謝してんだ」

「……どういうことだ?」


 話の繋がりが見えない。どちらかというと俺もリューネもロンガには恨まれる側だと思うのだが。


「おれ、傭兵隊の下っ端が割と楽しいんだよ。今まではどこにいても他の誰かの面倒みながら働かなきゃいけなかったけど、ここでは一番のガキ扱いだからさ」

 そう言ってロンガは笑う。


「ハティとマリシュ……聖霊廟で仲間だった奴のことも心配だけど、あんまり戻りたいって思わねーんだ。おれって薄情なのかもしれないけど」

「そんなことはないと思う。俺は、……俺も、元いた場所の暮らしに戻りたいとはあまり思わない」


 ロンガを励ますつもりで言ったことだが、俺にとっても本音ではあった。俺にとって元いた場所は必死になってまで戻ろうとするほどいい場所ではない。心残りはフミヤを家に帰すことだけだったのだが、当の本人は自分を犠牲にして俺を元の世界に帰すなどとのたまっている。


「…………」

 手元でパリンと氷の砕けるような音がした。見れば、俺が力を込めていた石が砕け散っている。石のかけらはオレンジを通り越して赤黒い色に染まっていた。


「あっ、バカ! 力を込めすぎだよ」

 ロンガは俺の手から砕けた石を取り上げて、完成品とは別の袋に入れて片付けてしまう。咎めるような口調とは裏腹になんだか嬉しそうだ。


「なあ、ロンガ」

「んだよ」

「もしお前の仲間……ハティとマリシュがお前を聖霊廟に戻せるように危ないことをしようとしていると分かったら、お前はどうする?」

「んなもん、余計なことすんなよって言うに決まってんだろ。つってもこうして戦争になっちまったし、おれがいないせいでふたりが聖霊廟で困っててそうしてんだったら、抜け出す手伝いくらいはしてやるけど」

 ロンガはそう付け加える。さっきはああ言っていたくせに、結局面倒見のいいやつだ。


「なんにしても本当にハティとマリシュがそんなことしてるとしたら、まずは直接会って話さなきゃどうにもなんねえよ」

 ロンガがそう言うのを聞いて、俺は確かにそうだと思った。

 俺はフミヤの言い分は聞いたが、それは一方的にやつが喋っていたのを聞いただけだ。俺は俺の言いたいことを何一つフミヤに言えていない。


 ……俺は直接フミヤに会って話をしなければならない。

 そのためにはやはり、フミヤとミラーナの乗るフィクシュテと戦って決着をつける必要があるだろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。