作戦会議
それから俺たちは聖鎧ダファティを降り、太守イスミルの下へ案内された。
余談だが巨大なダファティはひざまずかせてもかなり高さがあり、乗り降りするのは大変なのだ。俺たちは縄梯子を使っている。
太守はキャンプ地の中でもっとも豪華なテントの中にいた。
テントには甲冑を身につけた太守イスミルと、同じような装いの男が何人かいた。きっとイスミルの家来たちだろう。
「これはリュネット殿下、我らメガリディア一門衆、お待ち申し上げておりました」
イスミルは仰々しくそう言い、家来のおっさんともども一斉にひざまずいた。以前会った時とはずいぶん態度が違う。
「聖鎧ダファティを手に入れたようですな?」
「ええ。後ほど直接ご覧なさい」
なにせ陣地の端に置きっぱなしだ。今頃ヒマを持て余した兵士たちが見物していることだろう。
「ではこのイスミル、軍の統帥権を殿下にお返しいたしましょう」
これをもって、この軍隊の司令官はリューネということになったらしい。後から解説してもらったことだが、そうはいっても実際に軍を動かして作戦を練るのは、これまでと変わらずイスミルと家来たちだ。名目上リューネを立てたことが大事なのだとか。
そこからメガリディア軍による作戦会議がはじまった。
イスミルはこれまでの経緯や軍の状況、間諜や偵察部隊が集めてきた情報をリューネに説明した。リューネはそれに頷いたり時には質問をしたりしていたが、俺は口を出しても邪魔になるだけだというのは分かりきっているので黙っていた。実際、軍事のことは何も知らないのだ。
わかったことは、今俺たちがいるここは「ブレンローナ村」という場所で、ローナ平原の南端に位置するということ。メガリディア軍はここから先のローナ平原で聖霊廟と王国軍の集結が完了する前に決戦に持ち込むつもりだということだ。
「我が方の戦力はヘヴェール杖兵5個大隊と砲兵大隊、聖鎧兵1個大隊です」
イスミルの家来のおっさんがそう言った。耳慣れない単語が多い。隣のジュゼッタに小声でたずねてみる。
「ヘヴェール杖兵ってのはなんだ」
「ヘヴェール杖……仕掛けのある杖みたいな武器を持たせた歩兵のことだよ。聖霊術を使えない兵士でも、事前に力を込めておいたヘヴェール杖を使うと一度だけ火球を放つ聖霊術で攻撃ができるんだ」
その説明を聞いてだいたいわかった。一発限りの火縄銃やマスケット銃を使う昔の銃兵みたいなものなのだ。
銃は槍や弓矢ほど扱いが難しくない(銃はどんなヘタクソでも引き金を引けば弾は飛ぶ)から、戦士として訓練されていない市民や農民を戦力にできるのがいいところだと歴史の教師が言っていた気がする。それなら多分そのヘヴェール杖は先端に剣がついていて、一度きりの聖霊術を放った後はその剣で突撃するのだろう。
「偵察によると、王国近衛師団のヘヴェール杖兵と騎兵砲兵、聖霊廟の聖鎧部隊がすでに塩の街道から南下を始めています」
説明を聞くと、メガリディア軍はすでに何度か敵方に小競り合いを仕掛け、決戦に有利な場所に敵軍を誘導しているらしい。
その場所はこのブレンローナ村からさらに北に向かった「エルバローナ村」という村だとか。もうすでに先行した部隊が布陣の準備を進めているらしい。
「3日以内には決戦となるでしょう。よろしいですかな、殿下」
「もちろんです」
そこで話は終わりかと思われたが、ジュゼッタがおもむろに「あの」と声をあげる。
「敵の司令官の名前は上がっているの?」
「もちろん、国王陛下の名代として聖霊廟のフェダニスがつとめているとのことだ」
ジュゼッタはいまいましそうに顔を歪める。
「……それは影武者だよ。フェダニスは臆病者だから直接戦場には出ない。本物はおそらくアレンハームという街から指示を出している」
その言葉に太守イスミルの家臣がまさか!と声をあげる。
「アレンハームは旧メガル王国領だ!アレンハーム太守の一族も旧メガル王家の分家筋だぞ!」
「フェダニスは以前から北部に近い領地の太守に調略を仕掛けていたんだ。太守の妻は北部出身だし、かなり前からフェダニスの勢力に取り込まれていたと思う」
イスミルは「ふむ」と顎をさする。
「アレンハームは派兵の要請には応じているが、確か兵を率いてきたのは太守本人でも嫡男でもなく次男だったな。後で呼び出して話を聞いておけ」
イスミルが命じると、家来のおっさんが「はっ!」と応じる。
「さて、聖霊廟の娘よ。他にも知っていることがありそうだ。洗いざらい話してもらおうか」
「もちろん。ボクはそのために来たんだ」
「あれ、オマエあの時の!王女様の家来じゃねーか!」
夕暮れ時のブレンローナ村、その周囲に築かれた軍のキャンプ地の端で俺はひとりヒマを持て余していた。
リューネやジュゼッタはまだイスミルたちのいる司令部のテントで何やら話し合いをしているが、俺はリューネに「少し休んでいたらどうですか」と外に出されてしまったのだ。
しかし、休んでいろと言われてもどうしていいか分からない。あちこちに並ぶテントは集まった兵士たちのものだろうし、聖鎧ダファティはその兵士たちが集まって見物していたから、その衆目の中コックピットに戻るのも何だかバツが悪かった。
そうして俺はキャンプ地の端の岩に腰掛けてその全容をなんとなく眺めていたのだが、そこで声がかかった。
顔をそちらに向けてみると、キャンプ地の中に入ってくる荷馬車の連なりの中から一人の子供が俺を見ていた。どこかで見た顔だ。




