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ダファティ神殿の黒い鎧


 次の日、俺とリューネは街の外に隠していた聖鎧を回収し、オルハと共に再び蝕まれた森へ向かうことになった。

 ただし3人旅ではなかった。さすがにメガリディア太守の跡取り息子とこの国の王女の護衛が俺一人というわけにはいかなかったらしい。


 俺と同じヴェルメーヌに乗った騎士が3人護衛についた。蝕まれた森の中でもどうにか行動可能なほどの聖霊力をもつ、メガリディア軍きっての精鋭らしい。彼らのヴェルメーヌは緑色の塗装に三日月のようなマークが施されている。これはメガリディア伝統の紋章らしい。

 俺の乗るヴェルメーヌが先頭に立ち、リューネのフォーシルがその後ろに。3機のヴェルメーヌはそれぞれリューネを囲むように進んでいる。


「で、なんでお前は俺の聖鎧に乗ってるんだ」

 俺はオルハに話しかけた。彼はいま俺のヴェルメーヌに同乗している。実はこのヴェルメーヌはいわゆる複座型で、俺の座る操縦席の後ろにもう一つサブの座席がある。とはいえこのサブの席に座っている人間が操縦に関してできることは何もない。これは言ってしまえば聖霊力の供給源……『燃料タンクの予備』を積む席なのだ。いやな話である。


「いやあ、私は聖霊力が乏しくってね、聖鎧に乗ったって半刻も歩けやしない。そもそも武術もたしなみ程度に習っただけなんだ」

 まあ、それならここに座っていてくれた方が安全だ。


 そんな形で俺たちは蝕まれし森に数日かけて向かった。オルハや護衛の騎士たちが地元民ならではのルートを知っていたので、行きの時よりは短く済む。幸いだったのは若様たるオルハが顔の利く人間だったため、途中の宿がないような村々でも寝床を貸してもらえたことだ。


「森に入ったらこちらでナビゲートをする。ダファティ神殿の位置は他所の地図には載っていないからな」

 オルハはそう言ったので、実際に森の中に入ってからはオルハの護衛の騎士の先導に従って進んだ。もちろん、嵌められている可能性も消しきれないので俺たちも随時地図で現在位置を確認しながら進んだ。いざとなったらトンズラするためだ。オルハは「マア妥当だな。王女殿下の騎士たる者ならそれくらい警戒できなくては困る」となぜか満足げだ。


 森の中にはやはり魔物も出る。それらはほとんど俺とリューネで倒した。理由は簡単で、そのほうが早いからだ。騎士たちは俺たちよりも遥かに上手く魔物を倒すが、この蝕まれた森の中では聖霊力がさほど保たず、すぐにスタミナ切れを起こしてしまう。なので騎士たちの指揮や指導にしたがって俺とリューネが実際に魔物を倒す形に落ち着いたのだ。


 俺はヴェルメーヌの双剣を魔物に向けて振りかぶる。

 相手は三つ目の熊のような大型の魔物だ。上半身の筋肉と爪が異常に発達していて、動きは遅いがそのぶん攻撃は重い。それに分厚い毛皮のせいで攻撃が通りにくくてしぶといのも厄介だ。

「ユーゴ、飛びなさい!」


 背後からリューネの声。無意識にそれに従って上へと飛び上がる。背後でオルハが「ォぶっ……!」と嘔吐するが何回目かも分からないし構ってもいられない。

 俺が飛びのいたところをリューネが放った炎の壁がなぎ払う。三つ目の熊は炎の壁にその身を焼かれて咆哮をあげた。俺はヴェルメーヌが落ちるにしたがって、双剣を逆手に構えなおし、その魔物の脳天に突き立てた。





「……大丈夫か?」

 俺たちはいったん聖鎧を降りて小休止を取ることにした。


 俺はタライに汲んだ水に手をひたしながら背後のオルハに話しかける。オルハは「君のおかげで、なんとかな……」とガラガラの声でこたえた。振り返って地面に寝転んだ彼の顔を見てみれば、青ざめてはいるがどうにか生気はある。


 ちなみに俺は何をしているかといえば、ゲロで汚れたオルハの上着を洗ってやっている。

 リューネと他の騎士は野営の火を炊いたり、周囲を探索していた。


「君の聖霊力の高さは分かっていたが想定以上だ。戦いの技術は未熟なものの、君ほど思い通りに聖鎧を動かせる騎士はいない。……それにリュネットもだ。君には到底及ばないものの聖霊力はそれなりに高いし、戦術眼もある……」

 そこまで言ってオルハが「オエッ」とまた瘴気酔いにえずいた。気分が悪いなら喋らなければいいのに。

 俺はちょうど洗った外套を木の枝に干し終わる。オルハのところに歩いていき、その体を横向きに転がして背中をさすってやった。


「気分が悪い時は横に寝たほうがいいぞ。万が一吐いても喉に詰まらないらしい」

「ずいぶん介抱慣れしているな、その歳のわりに」

「母親の同僚に習った。酒に酔って帰ってくることが多かったから」

「君の母君は女給が何かか? 君も苦労しているな……」

 ジョキュウが何かは知らなかったが、聞いてみればウェイトレスとホステスの間みたいなものらしい。あながち遠くない。


「ユーゴ! オルハ殿!」

 遠くからリューネの声が聞こえた。その声の方を向くと彼女が駆け寄ってくるのが見える。

「入り口が見つかりました。中に入れます」

 リューネが背後を指差す。

 その先には木々に囲まれた黒い壁の巨大な建造物……戦場の聖霊ダファティの神殿があった。


 俺たちがその神殿を見つけたのは今日、あの三つ目の熊の魔物と戦った後のことだった。

 森の中の少し開けたところに、それはあった。まるで森の中に似つかわしくない、真っ黒な壁だ。ヴェルメーヌで飛び上がって上から見てみたところ、五角錐……つまりは底面が五角形のピラミッド型に近い形をしているように見えた。かなり大きく、それこそエジプトのピラミッドも(実際に見たことはないのでイメージだが)これくらいはデカいんじゃないかという大きさだ。


 しかしその建物はバライバのあらゆる建造物とは趣が異なっていて、どこから内部に入るのかさえさっぱり分からない。それはオルハたちメガリディアの人間も「資料が残っていないので知らない」とのことなので、とりあえず休憩をとりつつ探索してみることになったのだ。


「先ほどフォーシルで外周を回ってみたところ、この扉がありました」

 リューネが案内した先には、巨人でも通す気かと思うほど巨大な扉があり、それはすでに内側へ開かれていた。壁と同じ黒い石でできたその扉は人間の力で押しても開きそうにないが、おそらく聖鎧を使って開けたのだろう。


「中を調べてみよう」

「ええ」

 俺とリューネは聖鎧に乗り、ダファティ神殿の中を見てみることにした。魔物の挟み撃ちにあってはたまらないので、護衛の騎士たちには入口の見張りとオルハの護衛を頼むことにする。


 黒い神殿の内部を光の聖霊術で照らす。その内部は外壁と同じ黒い石でできていた。壁には見慣れない紋様が刻まれており、一定間隔に獣の頭を持った騎士の石像が並んでいる。古代ギリシャの神殿のようだったフィクシュテ神殿とはまるで雰囲気が違った。


 神殿の一番奥には低い階段。その上の祭壇のような場所には黒く巨大な塊があった。

 ……いや、塊に見えたのは「それ」が手足を折りたたんで丸くなっていたからだ。光を当ててよく見てみると、それは猛禽類のような頭部を持つ人型の鎧だった。


 フィクシュテよりは一回りほど小さいだろうか。白く曲線的なフィクシュテに比べて、目の前のそれは黒く角ばっていて正反対の見た目だ。おそらく、入り口の巨大な扉はこれが通る想定だったのだ。


「これは、聖鎧でしょうか」

 リューネの呟いた声が静かすぎる神殿の中に響く。俺はその聖鎧らしきものの胸元に直径1メートル弱の空洞が空いていることに気づいた。……そういえばあの時見た聖鎧フィクシュテの胸には巨大な、それこそ1メートルほどの青い石が埋め込まれていた。この聖鎧にはそれが無いのだ。


「オルハが見ればわかると言ってたのは、多分これのことだろう」

 そうでしょうね、とリューネは相槌を打つ。俺は周囲を見回してみた。魔物が潜んでいる気配はないし、おかしな仕掛けもなさそうだ。

「オルハ殿を連れてきて話を聞いてみましょう。中は安全なようですから」

 リューネの提案に俺はそうだなと頷く。まあ、彼がまともに説明ができる状態だといいのだが。


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