第5話 偽装花
無事に暗殺者を倒せたし、私は王女様の怪我の具合を確認した。腕にも肩にもお腹にも脚にも、とても深い傷があった。
私は魔法のポーチに残っていたポーションを取り出した。これ、自分で薬草とかから調合したポーションだ。お店で売っているのよりも高性能だし、重傷でも治せるはずだ。
「王女様、これ、ポーションです。使ってください」
「ありがとうございます。……でも、あなたも傷を負っていますよね。いいんですか? あ、半分ずつ飲みましょう」
「いえ、大丈夫です。まだ何本かありますし、どんどん飲んじゃってください。私は服の性能が良いので傷はどんどん塞がっていきますので」
「え……、その服は傷の手当てを自動でしてくれるのですか?」
「はい。他にもスキルが盛りだくさんの服なんです」
王女様が驚いて私の服をジーッと観察し始めた。あまりじっくりと見ないでほしいけど、会話の流れ的にはしょうがないか。
「その服、ご自分で用意したのですか?」
「いえ。ちょっと前まで弟様のパーティーにいまして。弟様の趣味で着させられた服なんですよ」
「弟様?」
「オーランド様です」
王女様の表情が引きつった。ここにはいないオーランド様に激怒しているご様子だった。
「そ、その弟様は今どこに?」
「分からないです……。昨日、私をパーティーから追放して、今はどこで何をされているのやら……」
王女様の表情がさらに引きつられていた。オーランド様に怒り爆発って感じだろうか。
「そ、その弟様は、いったいなんであなたを追放してしまったの? あなたほどの凄腕剣士なら引く手あまただと思うのだけれど……」
「お前は魔法使いとしてダメだから追放なんだと……。上級魔法を覚えたらまた仲間に入れてやってもいいぞっておっしゃってましたね」
「剣士なのに魔法が理由で追放を……?」
「オーランド様は、お前は賢者の森の民だからと私が剣を使うのを禁止にして、魔法だけで戦わせていたんです……」
王女様の表情がさらにさらに引きつっていく。激おこMAX状態って感じだろうか。
「オ、オーランド~~~~~、この子は剣士なんだから、魔法がちょっと苦手でも当たり前でしょ~~~~~!」
王女様はここにはいないオーランド様に向かって激しいツッコミを入れていた。そのせいで身体のあちこちが痛かったのだろうか。王女様が苦痛で表情を歪めていた。
「お、王女様。早くポーションを飲んでください」
「そ、そうですね……。あ、でも、待って……。わたくし、もう一つあなたに謝らないといけないことがあるんです」
「というと?」
「あなたの故郷、賢者の森の村に一方的な理由をつけて侵攻したのは、わたくしの兄なんです。つまり、第1王子のブラッド・フォン・ローズファルコンがあなたの仇ということになります。本当にごめんなさい……。兄と弟が最低な人間で……」
「い、いえ、王女様が悪いわけではありませんから」
まさかこんなところで村を滅ぼした敵の名前を知ることができるとは思わなかったな。これは私には有益な情報だった。なぜか国が情報統制をしていて、どれだけ調べても誰が何の理由で賢者の森の村を滅ぼしたのか分からなかったんだよね。
「ちなみに、第1王子様はなぜ私の故郷を襲ったのでしょうか?」
「森の民が兄の言葉に逆らったらしいのです。それで兄は森の民たちが反旗を翻す恐れあり、と急に言い始めて勝手に兵を動かしてしまいました。父が情報統制をしたので外部には公表されませんでしたが、これは事実です。本当に申し訳ないことをしてしまいました」
王女様が深々と頭を下げた。王女様にそんなことをさせるだなんてとんでもないことだ。私は姿勢を低くして、王女様の頭の位置よりも下にいった。
「王女様が謝ることではないですよ。頭を上げてください。それよりも、現状についてを考えましょう。敵は一人だけですか? 仲間がいる可能性は?」
王女様がゆっくりと頭をあげてくれた。
「仲間は見かけませんでした。しかし、あの野心家の兄のことです。わたくしの生存を知れば次の刺客を用意するでしょうね」
「では、対策を打った方がいいですね」
「対策と言っても……。わたくしがここで死んだように偽装するということですか?」
「それがいいと思います。その後、しばらくどこかに身を隠していましょう」
「確かにそれが良いでしょうね。でも、肝心の偽装方法が思いつかなくて」
「それは任せてください」
ちょうどついさっき偽装花をゲットしたばかりだ。私はそれを使おうと思う。この花は特定の魔法を使うためのアイテムにもなるんだよね。その魔法は――。
「偽装魔法です。【マスカレード】!」
倒れて死んでいる暗殺者に対して偽装花の魔法を使った。
偽装花がふわーっと淡い光を放つ。それは魔法の光だ。本来ならとても難しい【マスカレード】という偽装魔法だけど、花に魔力を込めて魔法名を唱えるだけで使わせてもらえるんだよね。偽装花ってとても便利な花なんだ。
偽装花の魔法を受けた暗殺者の身体が、私のイメージする通りに変化していく。なんとなんと、傷だらけの血まみれで死んでいる王女様の死体の姿に変わっていった。暗殺者の死体と違って、美少女である王女様の死体は芸術と言えるほどに美しかった。血まみれの美少女って絵になるんだなって思う。
「う……。自分の死んだ姿を見るってなんとも言えない気持ちになりますね……」
「でもこれなら、誰が見ても王女様が死んだように見えますよ」
「確かにそうですね。家族でも騙せると思います。これ、効果はどれくらい続くのですか?」
「魔力をたくさん込めましたので、1週間以上は続きますね」
「じゅうぶんすぎる効果時間ですね」
王女様がご自分そっくりの死体を見て何やら考え始めた。私としては早くポーションを飲んでほしいんだけど、それよりも今はご自分の死亡を偽装することで頭がいっぱいのご様子だろうか。
「決めました。わたくし、いえ、私は、今から新しい自分に生まれ変わるわ」
「新しいご自分に?」
「王女の私はいったんここで死ぬの。そして、名前を変えて新しい自分として生きていくのよ。ということで――」
「ああっ――」
王女様が長い髪を手で持ち上げた。お尻の下くらいまでの長さがあった美しい髪だ。その髪にナイフの刃を当て、スパッと斬ってしまった。しかも斬った髪を炎の魔法で焼いてしまった。
「な、なんてもったいない」
「いいのよ。私は王位継承争いには興味がないし、母親が庶民だから王位を継承できるとも思えないからね。だから身の安全が第一よ。髪くらいは斬るわ」
王女様が白くて可愛いらしいリボンを取り出した。そしてポニーテールを作る。ぴょこぴょこっとして可愛らしいテールだった。
「よし、新しい私はどうかしら?」
「とっても素敵です」
「ありがとう。でも、敬語は禁止。私は庶民の家の子よ」
「は、はい。それではタメ語で……。んんん~、やっぱりムリかもです。私、そもそも誰にでも敬語で話すタイプなので」
「じゃあしょうがないか」
あっさりと敬語を許可してもらえた。良かった。ちょっと安心した。
「それじゃあ私たちがいた痕跡を消して、この場を去ろうか」
「はい。あの、王女様、もしご迷惑でなければ、お供してもよろしいでしょうか。賢者の森の民は王家を支えるという使命がありまして。ぜひ、お仕えしたいのですが」
王女様が心から嬉しそうに晴れやかな表情を見せてくれた。
「嬉しいわ。こちらからぜひお願いしたいくらいよ。あなたなら百人力だからね。あ、そうだ。パーティーを組まない? 私、これでもBランク冒険者なのよ。あなたと一緒に冒険ができたら心強いのだけれど」
「はい! ぜひ!」
こうして、私、アイネ・シュガー・ミルキークレープは王女であるクリーム・ルナ・ローズファルコン様とパーティーを組むことになった。まさか王子様に追放されて、たった一日で王女様に仲間として迎え入れてもらえるとは思わなかったな。これって凄く幸せなことだなって思った。




