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第三話 リュウ

 押火おしび リュウ


 彼は漫画『FREAKS』の登場人物だ。

 主人公のユリベルト・ブラウナー、通称ユリくんが森の中で出会う脱走奴隷の男の子で、ユリくんと恋仲になるキャラクター。


 黒い髪はちょっぴり癖っ毛で、パッチリ大きな猫目が実にチャーミング。確か初登場時の年齢は12歳の筈。まだまだ幼さとあどけなさの残る顔立ちは心にきゅん!とくるものがある。


 設定は前述の通り、リュウはとある所から脱走して来た奴隷くんだ。そして、その正体は日本から異世界に飛ばされて来た可哀想な男の子だったりする。

 ただし、異世界転移時に特殊な力を授かっているので戦闘力はピカイチ。だからこそ、あんな象サイズの虎を一撃で吹き飛ばす事が出来たという訳である。

 少年時代の彼は持ち前の天真爛漫さでユリを振り回す元気っ子で、私に『FREAKS』をお勧めして来たリュウ推しの友人が少年時代の彼をメインに据えた同人誌をリビドーの赴くまま量産していたのは記憶に新しい。


 そんな彼は今、馬鹿デカい水色の虎を一蹴りで軽々吹き飛ばしたかと思えば、私の顔を見るや否や涙ぐみ始めた訳だけど…。

 あ、そう言えばあの虎は…?あ、良かった。向こうで気絶してるみたいだ。


「よかっだ〜おれだけじゃなかったんだぁ〜」


 彼が安心して大泣きしている理由はなんとなく分かる。

 この世界には黒髪も黒目の人間も存在しない。赤・青・黄色などのカラフルな髪色や瞳の色の人間は当たり前のようにいるのだけれど、どうした訳か黒だけは存在しないのだ。 

 作品内でも日本人であるリュウともう1人のキャラクターにしか黒髪黒目の登場人物はいなかった。

 そして彼は異世界に飛ばされてから今に至る1、2ヶ月程、奴隷商人に捕まっていたという設定があった筈。

 その為、今ここにいる私は実に久しぶりに見た黒髪黒目の人間なのだろう。どれだけ心細かったことかは私には到底計り知れない。

 作中でもふとした時に遠くを見ながら、寂しげな表情を浮かべている時があったもんね。そんな彼の心の拠り所がユリくんになるシーンはもう感涙もので…おっと、回想は後々!


 びぃびぃ、と顔中びちゃびちゃにして泣く彼を見て少し冷静さを取り戻す事ができた。いや、でもどういう状況かはさっぱりだ。友人がここにいたら慰めつつもスマホで写真撮りまくりだろうなぁ…って、そんな呑気してる場合じゃない!


 一体どういうこと!?リュウって実在するの?いやいや、まずあんなデッカい虎が本当にいる訳ないし、やっぱり夢…?

 でも擦りむいた膝は地味に痛いし、さっき感じた食べられる恐怖はしっかりと体に刻み込まれている。


「本当に何がどうなってるの…」

「うえ?なんか言ったか?」


 目元をゴシゴシと摩りつつ、リュウが小さく首を傾げた。か、可愛い…。


「あ、えっと、あのね。まずは助けてくれてありがとう。あの、それで…キミの名前を教えてくれない?」


 いまだ慣れないショタボで目の前の彼に名を尋ねる。もしかしたら先程からの私の考えは全て勘違いで、彼はリュウとは全然関係ない別人の可能性だってある。

 だって、ねぇ?そうじゃないとこれって完全に異世界転生…


「おれ?おれはリュウ!押火おしび リュウ!なっ、お前は?名前なんて言うんだ?」


 はい、完全に異世界転生です!本当にありがとうございました!

 …なんで!?やっぱりハサミ直撃で死んじゃったの!?でも、どうして転生!?

 てことは、この世界って『FREAKS』の世界ってこと!?いや、そもそも私の性別は変わってるのは何の何!?…そうだ!気になってる事があったんだ!


「お〜い?名前おしえてくれよ〜」

「ねぇっ!リュウ」

「わっ!なに!?」

「私ってどんな見た目!?」

「え!?なにその質問?」

「いいから教えて!」


 まずはそこ!性別は男になってるし、体は幼くなっている。それなのに鏡も何もないから、今の自分がどんな姿なのかさっぱり分からないと来た!

 もう、さっきから気になって仕方がない!リュウの発言からおそらく私は黒髪黒目。後は髪の毛の感触から直毛なんだなぁって事しか分かんない!


「え、え〜っと目と髪の毛は黒い」

「もう知ってる!他は!」

「え〜、背はチビ」

「なるほど!他には!?」

「え〜…?わっかんねぇよ、そんなの。他ってなんだよぉ」

「目の形は細い?大きい?顔にホクロは?というか顔立ちはイケメン?普通?それとも残念?イケメンだったらどのタイプ?塩系?ソース系?あと雰囲気は?暗い系?元気系?ぼんやり系?肉食系?草食系?動物に例えたら何?」

「そんな色々言われてもわっかんないって!普通!普通だよ!あ、でもちょっとアレだな」

「?…アレって?」

「たぶんお前ヘンな奴だな」

「そんなん聞いてない!」


 ダメだ!リュウってば私の意図をさっぱり汲んでくれてない!そもそも12歳の子に聞いたのが間違いだった!


「なぁなぁ。名前〜」

「あ、ごめん!えっと、私の名前はれい…」


 リュウに名前を教えようとして、ふと考える。待てよ。今の私の肉体は男の子な訳だ。それなのに黎奈れいなと名乗るのはどうなのだろう。あまりにも女の子の名前過ぎるんじゃ?いや、でも黎奈は黎奈だしなぁ。すんなり受け入れてくれるかなぁ…?


「へぇ、レイか!よろしくなレイ!」

「あ、いや」

「そう言えばレイって何才?おれは12才!後さ後さ!どこに住んでた?おれは東京!東京のなぁ…」


 マシンガントークが始まったせいで訂正もままならない。実に楽しそうにお話し始めたので止めるのもちょっと憚られる。

 …ふむ、でも「レイ」か。まぁ、小中高時代のあだ名と同じだから違和感は別にないかな。うん、よし!レイで通そう!


「レイ?聞いてる?」

「はい!レイです!生まれも育ちも千葉県です!年は…いくつだろ?何才に見える?」

「おれが聞きたいんだけど。そんな近所の姉ちゃんみたいなこと聞くなよぉ」

「いいからいいから。答えてみて」

「え〜っ?…同い年の12才?」

「じゃあそれで」

「じゃあそれで!?」


 森の中は薄暗く不気味だけど、元気すぎるくらいの彼がいるからか恐怖はだいぶ和らいだ。というか「レイ、レイ」とヤケに懐かれている気がする。子ども特有のバグった距離感と激しいスキンシップがちょっとむず痒い。


 同じ日本人の私に出会えた事が余程嬉しかったのだろう。でも、彼の住んでた日本と私が住んでた日本はおそらく別物だと思う。けれど、そんな野暮な事は言わない方がいいよね。折角、リュウが安心できてる訳だし。


「リュウ?リュウはこれから何処行く?」


 ここに居座り続けて良い事は無いと思うので、移動を提案する。

 まあ、流れ的にはユリくんと出会うのだろう。折角だし、ご同行させてもらおう。この森の中で別れると私は即刻、愉快な森の仲間たちのご飯になりかねない。


「おれ?ん〜…めちゃくちゃに逃げてたらこの森に入っちゃったからなぁ。レイは?どっち行くんだ?」

「ん〜…私はリュウについて行くよ」

「え〜?じゃあ、あっち!あっち行こう!」

「わかった!守ってよねリュウ」

「へへ、おれってば強いからな!はぐれんなよな!」


 よーし、彼について行ってユリくんと出会ってそれからどうしうかな!ユリくんとの邂逅後はどんな展開だったかな〜。


 え…?待って。よく考えたらさ。


「あれ、レイ?また静かになっちゃったな。おーい」


 この世界にはリュウがいる。それ即ちこの世界は漫画『FREAKS』の世界。イコール、これは……………


「こ、この世界にはフェデリック様がいる!?!?!?!?!?」


 バサバサバサ!!!


 自分でも驚く程の声量が出た。私の張り上げた声と共に森が大きく揺れ、鳥たちが飛び去る音が聞こえた。

 リュウが目をまん丸にして驚いている。でも。私だって負けず劣らずにビックリしてる。

 だって仕方がないでしょ!あんまりにも衝撃的だったんだもん!だってだって、この世界には生の推しが!フェデリック様がいるんだもん!

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