初対面に影がつく
「シルフィ・レナ・グラミーと申します。婚約…婚約者のグレン様にお会いしたく参りました。」
やはりフードの女性は婚約者のシルフィさんだ。彼女の言葉を聴いた僕は返事を返したかったが、どうしても身体がミセル姫様の判断に反応して、自発的な行動ができなかった。
そんな中、白銀のプリンセスドレスアーマーを纏うミセル姫がローナル様達を払いひとりシルフィさんの前に、歩んで行った。
「私は ジラフード王国の第一王女ミセル・ジラフードである。グレンの婚約者と名乗る者よ。私を前にして、そんな汚らしい布で容姿を隠すなど、不敬の極みだとは思わんのか?」
権力、権力、権力と威圧。
こんな場所で働いて居ると思われるだけで、僕の評価は台無しだ。
「す、すみません。ミセル様。私は…容姿がその。」
フードをつかみ姿を見せる事に抵抗感が見え隠れするシルフィさん。僕は気にしないけど、女性は女性で美の追求をする人もいる。
恥ずかしい気持ちになるのは仕方がないと思う。
「グレンの前でもフードを外さぬつもりか!」
今日の姫様はなんだか僕の為だけに物事を考えているような気がする。
何となくだけど、いつもと違う雰囲気なんだよな。
「そ、そんなことはしません。」
彼女なりに頑張ってフードを外した。
肌は姫様に引けを取らないほど透き通るほど美しくかった。背格好も姫様と変わらず長身でドレスが似合いそうなほど細身で目を引いた。髪は長く透き通る緑色で姫様の青髪と並んでいると色彩も綺麗だった。
顔はよく見えない。でも近くにいた従者達の武器を落とし見惚れている姿を見たら美人なんだとわかる。
後は姫様の反応を見たら、彼女の容姿の判断はつくだろう。
「貴女…エルフ。いえハーフエルフでしょ。」
「………はい。」
「ごめんなさい。私の配慮が足りなかったわ。」
あ、あ、あ、あの!あの…………姫様が謝ってます。
僕の従者生活であんなに頭を下げる姫様を僕は初めて見た。
「中へどうぞ。案内致します。」
姫様が負けた。僕から婚約者を遠ざける為に朝から軍備強化をして意気込んでいた姫様が、少しの会話で負けを認めた。
これは僕の出番かもしれない。
僕はバルコニーから姫様の私室に戻る。正直、焦っています。姫様の私室なんか興味はないけど色々物色してしまった。身だしなみを…身だしなみだけは綺麗にしなければ…
(容姿に自信がないとか手紙に書いていたくせに、美人ぽいぞ。しかも姫様が負けた。)
どうしたら良いんだ。
(顔はいつもの顔で、今はこれ以上の顔にはならないよ!)
姫様の私室の姿見の前であたふたしている僕。
化粧で身だしなみに色をつけようと考えた。
「うえっ!」
姫様が偶に顔につける白粉。とりあえずつけたが吸い込んで、むせただけだった。
これは…睫毛を際出すインクか!
姫様のメイクなんか見ないから…こうなるんだ。
目の周りが真っ黒になり僕は慌てて服の袖で顔を擦った。その結果、顔全体が薄暗くなり眉毛が繋がる化粧顔が完成してしまった。
(これ以上の化粧を僕は知らないよ!)
せめて汚してしまった衣装だけでも。
姫様の私室の衣装だなを乱雑に開けて衣装を探したが、
男物の衣装はなかった。
当たり前だ、姫様は女性なんだから。
なんでドレスしかないんだ?
僕は全ての衣装棚をこじ開けた。せめてドレス以外の服がほしい。
だから、卑しい気はひとつもなかった。でも僕は姫様の下着を身につけてしまった。
どうして、こんな愚かな行為をしたんだ。
ドレスはひとりで身に纏えない。アクセサリーは汚れを隠すには小さい。
だから、だからって姫様の下着を巻き付ける意味にはならないだろう!
せめて、威厳だけは示したい。
だから僕は、姫様のティアラを拝借し頭を飾る。
国宝【銀夜の星剣】を身体の支えにし上座に当たる姫様専用の椅子に腰掛け座して、その時を待った。
(やれることはやったから!)
扉の向こうから聴こえる声が、近づいてくる。
僕と婚約者シルフィさんの対面が直ぐそこまできている。
(お願いだ。初めは優しい雰囲気でむかえてくれ。)
「この先よ、私の部屋だけどグレンが今は待機しています。」
「緊張します。」
「私も良いのですか。ありがとにゃ姫様。」
シルフィは、扉のノブに手をかける。上質な木材の重みがノブから伝わる。でもその先に婚約者のグレン様がいるのなら、どんな扉でも私は開けて進みます。
きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
二人の初めての会話は悲鳴だけだった。
姫様のティアラをつけた異性は
グレンが初めてです。
次回はシルフィの目覚めからになります。