自滅の禊
グレン様は王都で働いているのよ。自身の領地で見慣れた知り合い達に、嬉しそうに語るシルフィ。
うん。まだあったことはないけれどグレン様のお兄様が仰っていたの。
人種で差別や軽蔑する男ではない。少し剣術に没頭する以外は自慢の弟だって。
顔?
知らないの。でも、お兄様は良い男って領地内で噂になっているでしょ。
そのお兄様が、俺より男前だって言うのよ。
怖くはないの?
あるにはあるよ。嫌われたらどうしようとか。
でもね、私みたいな人にも女神様が、チャンスをくれたと思うのよ。
応援している。
ありがとう!
こんど連れてきたら紹介してね。
勿論よ!
王都まで二週間の旅路。初めて領地を離れるけど、護衛にジルがついてくれるし、きっと大丈夫よ!
え。私の魔法なら野党や魔物なんか相手にならない?
そうかな。怖くて気を失う気がする。
ほら、私って臆病たからさ。
グレン様に早く逢いたい。
これは、私が初めてだした勇気なのよ。
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……………………………………………………?!!!?
「これは夢ですか!それとも現実ですか!!」
ベッドから勢いよく起き上がるシルフィ。
どうやら彼女は気を失い夢を見ていたようだ。
「貴方。なんですかこの有様は。そして…なんですかその奇抜な衣装と化粧は!」
シルフィの眼前にあの変な男が正座をしていた。姫様のお説教が部屋内に響き渡る。
「言い訳はしません。全て僕の判断です。」
僕の未熟さをだしたのは自分のせいだから言い訳はしないのが誠意の現れだ。
「遥々、芋領地からきたシルフィさんに、そんな格好をさせるために旅をさせたの?」
ミセル姫様は少しだけ嫌味を含んだ言い方をしたが、シルフィさんに謝りなさいとベッドから起きた彼女を指差した。
「すいません…。僕が婚約者のグレンです。本当にすみません。」
シルフィは奇抜な男性から婚約者と言われて身体が固まってしまった。
やっぱり理想と現実は違うもの。それなのに自分の生い立ちの不幸を理由に幸せを求めたから、こんな奇抜な男性が私の婚約者になってしまった。
(女神様は意地悪ね。)
「言い訳をしないとはただの逃げ道です。こうなる理由をしっかり説明しなさい。」
「姫様が負けるとは思いませんでした。」
「何よ。負けてないですけど!」
「ここに来ると思うと緊張して身だしなみを整えないとと思いまして。」
「貴方。姿見を見てそれよね。居ましたか?今まで貴方見たいな格好した人間がいたかしら?」
「居ません。いつも姫様が指摘してくださるので、いざひとりで対応しようとしたら…こうなりました。」
二人のやりとりを見ていたシルフィは、少し胸が痛くなっていた。
「化粧が上手くいかないから、衣装で誤魔化そうとして私の下着を身につけたは理由になりません。」
「僕だって男だ。でも姫様なんかの下着をみても何とも思いませんでした。」
「何とも…思いなさいよ!」
「痛い!」
ジルも二人を見ていた。そして小さな声で、この二人…
とシルフィに聞こえるようにつぶやいた。
「僕はシルフィさんの婚約者だ。だから格好良くしたかっただけだ。」
「何、何が婚約者よ!私の品位まで落としてくれて…変な噂が立ちます。そうですよね。シルフィさん!」
僕と姫様は同時にシルフィさんを見た。だから同時に見てしまったんだ。
彼女が声を出して大泣きしながら僕達から顔を背けていた姿に。
「ローナル!ローナル。グレンを退場させて。」
バルコニーからの姫様の声に入り口にいたローナルは急いで姫様の私室へ向かった。そして扉を開けて奇抜なグレンと泣き伏せるシルフィを見て何かを悟ったように、グレンを部屋から連れ出した。
「若いですなぁ。」
ローナル様の言葉を僕は理解できなかった。
僕は大浴場で化粧を落とし従者の服に着替え直した。
そして、姫様の命があるまで普段の仕事をしたが、やはりその日はシルフィさんの話題で宮はもちきりだった。
「グレンさん。ミセル姫様が部屋に呼んでおられるぞ。」
ローナル様からの伝言。僕は剣を腰に着け、襟を正しゆっくり姫様の部屋に向かった。恋愛経験なんかないけど何となくわかる。
あの扉を開けたら、シルフィさんから婚約破棄を言われるのだろう。
失恋だな。
まだ何も知らない彼女を部屋で間近で見て胸が熱くなった。姫様に昔抱いた感情と同じだ。
既に姫様にはそんな感情はなくなったが、僕は恋をしたんだと思う。
そして、今度は相手から避けられるのだろう。
「失礼します。グレン・ステイナーです。入ります。」
私室に入り剣を胸に当て敬意を払う。本来は姫様への態度だが、今回はシルフィさんへも敬意を払う。
「先ほどはお見苦しいお姿を見せて失礼致しました。」
長椅子の端に腰掛けるシルフィさんの前で僕は頭を下げた。さすがの姫様も驚いていたが、下げる意味は謝罪の他にもあるからだ。
「シルフィさん。我が主、ミセル・ジラフード王女様は私に良くしてくれています。そして将来国を統治する器があります。どうか今回の事は、私の独断が招いた不祥事だとお考えください。姫様は関係ないのです。
そして、私を紹介した兄上も責めなでください。兄上には私の愚行は見せておりません。彼がいたら止めていた筈です。兄上は愚か者ではないことだけは…何卒頭にお入れください。」
全てら私ひとりの愚行が招いた結果です。
「大変失礼致しました。」
僕なりの謝罪。そしてお別れ、だから僕は最後までシルフィさんの顔を見れなかった。
意気地なしの禊はこれで終了。また明日から姫様に小言を言われる生活が始まるだけ。
僕は姫様の部屋を出て、廊下を歩いている。誰が書いたかわからない飾られた絵画をみても、普段は何も思わないくせに、意味もなく立ち止まり絵画を眺めてみる。
本当は、あの部屋から誰か出てきてくれるのを期待しているだけなのに。
「グレン様…お待ちを。」
期待している自分がいて良かった。
「もう少しお話しがしたいのです。」
「…ふふ…なんですか…あははは!」
廊下に響く僕の笑い声。
その原因は、シルフィさんが僕の奇抜を真似ようと、眉毛をインクで繋げていたからだ。
「気を失っては駄目ですよ!」
「あはは。大丈夫です。僕は経験済みですから。」
もう少しだけ、彼女と一緒にいても良いのだろうか。




