映画製作同好会との接触
「はぁ……」
溜息をつきながら、トリアス総合学園の廊下を僕は歩いていた。
トリアス総合学園、いわゆる高等学校と言われる場所というのは、州立というのが一つの州に一つしかない。それは法律で決まっているらしい。私立という物もあるけど、そこは州立よりもお金がかかり、お金持ちしか入れない。そのうえ、私立は州立と違い選択肢が狭い。
それが何を意味するのか、簡単だ。
「相変わらずなっがいな、教室に向かうのも一苦労だ」
一つの州立学園に対して、人が集中してしまう。定員はあるらしいけれど、法律で最低三万人は確保しろと決まっているらしく、その結果死体に集まって来る無数の虫以上の生徒を収容しないといけなくなる。つまり、学園自体が大きくなってしまうという事だ。
高等学校というのは義務教育ではないらしい。だけど、大体の人は高等学校に通わされる事になる。僕もその一人で、出身の孤児院の都合上、必ず州立の学園に通わされているのだ。
もっとも、学園に入るにあたって寮の部屋を得られた訳だから、それは助かっている。
「ふぅ、もっと長いスロープが欲しいな」
「だよね」
「うわ、びっくりしたぁ……」
「おはよう、リク」
願望を口に出していたら、黒を基調とした制服を着たクラスメイトに話しかけられた。
「うん、おはよう、コウ」
名前はホシヤコウ、僕と同じ数学科に所属している一年D組の生徒で、映画製作同好会に所属している。肌の色は僕と違って、薄い。
「聞いてよ、昨日またアミ先輩に絞られてさ、嫌になっちゃうよ」
「えー、羨ましいな。ボクは一回も絞られた事ないから、妬ましいや」
「そうなの? アミ先輩の性癖の対象に入ってると思うけど」
「それがさー、ハジメとかチオは入ってるんだけど、ボクだけは入ってないらしいんだよね」
少しがっかりしたように背中を丸めて、驚きの内容を言うコウ。
まさか、あのイチノセアミ先輩がコウをそういう目で見ていないだなんて、驚きを通り越してジシンだ。コウと同じ映画製作同好会に所属しているチオはもちろん、双子の弟であるハジメにも、発情期のオスってくらい欲情しているというのに。
「はあ……ボクの初恋は叶わなさそうだな」
「シード?っていう悪役扱いしてるくせに?」
「あれはアミ先輩がボクらの部活を潰そうとしてるから仕方なくだよ!」
僕の言葉に憤慨した様子を見せるコウは、本当にアミ先輩が好きらしい。
僕と同じような褐色肌であるアミ先輩、コウはその褐色萌えってやつだ。黒人系統のお姉さんが好きだって恥ずかしげもなくはっきり言ってた。
「それで、アミ先輩に絞られた後はアンズ先輩にボコされたって訳。ほんと、ついてないなぁ」
「それは何かやらかしたんでしょ」
「えー、アカントの図書館でポテチ食べながら本を読んでただけだよ」
「うわ、倫理観ないけどやってみたい奴じゃんそれ」
「おっと、そろそろ教室だね」
「お、いつの間に。やっぱり持つべきなのは話相手だね、長すぎる廊下を歩くのにピッタリだよ」
コウはそう言いながら、先に扉を開けて教室に入った。それに続いて、僕も教室に入る。
そして、僕は一直線で机に向かう。コウは僕の前の席に座っていて、波長も合うから、自然と仲良くなった。
「そうそう、今日の放課後、部室に来ない?」
「え?」
「昨日さ、激レアの『スター・ファイターズ エピソード4』初期版が手に入って、テンションが上がってるんだよね」
「うーん、行こうかな」
興奮した様子であるコウの話に乗っかって、映画製作同好会に顔を出す事となった。
「まあ、それまで長い授業を受けないといけないんだけどね」
「一限五十分でしょ。大した事ないよ」
「でも今日は世界史Aと古文があるんだよ、めんどくさいじゃん」
「そういう時は寝るんだよ」
「せっかく起きてる時間なのに睡眠で時間を削るなんて選択はしたくない」
コウは自身の理論を展開する。
コウ曰く、睡眠は一気にしっかり取って、起きている時間を無駄にしないように生活する事が、正しい時間の使い方らしい。いつもテストで赤点スレスレの点数を取っているくせによく言うけど、内容は理に適ってるかも。
「と言っても、コウは文系科目以外にも理系だって赤点スレスレだけどね」
「ふ、勉強するより映画を見る時間が大切なのさ」
「僕は勉強してないけどいつも満点だよ」
「この天才が……!」
さらっと流したつもりだったけど、コウにとってはとても理不尽な問題らしく、恨めしそうにこちらを見つめてきた。
生まれてこの方、僕は勉強という物をあんまりした事ない。だけど、テストの点数を取るくらいなら楽勝だ。それはコウにとっては違うらしくて、初めて自分が天才であると知った。
「せっかくだし、アミ先輩を勉強に誘ったら? 二人きりで良い雰囲気になれると思うよ」
「えー……」
「アミ先輩は勉強熱心だから、きっと喜んでくれるよ」
「熱心だから嫌なんだよ! エンジョイでやりたいのにガチなのを持って来られたら困るでしょ!」
「そっかー、ってそろそろホームルームだよ」
「あ、ほんとだ」
ホームルームに臨むために、コウは前を向いた。
◇◇◇◇◇
「ふわぁ、やっと終わったぁ……」
授業を全部寝て、昼ご飯を食べて、また寝て、気が付いたら放課後になっていた。
「ずっと寝てるね。退屈じゃない?」
「うーん、夜にあんまり寝ないから、そんなに」
「夜型じゃん」
「そんな事より、行こうよ」
「そうだね」
僕は夜型人間、とは少し違う。好きな時間に寝て起きているだけ。今は授業中が就寝時間になっているけれど、本来だったら時間に縛られない。
コウに先導されて、僕は映画製作同好会の部室に行く。今回が初めてなわけではなく、何度か行った事はある。
教室を出て、また長い廊下を歩く事になるけど、コウと話をしていれば一瞬だ。
「アミ先輩にバレたら説教コースだなー。僕のせいで機嫌の悪くなった先輩が八つ当たりで映画製作同好会に当たっちゃうかも?」
「怖い事言わないで、どうにかして廃部にされないように頑張ってるのに」
「まあ、案外あの人は優しいから、来年までに簡単な十分程度の映画を作れれば、多分だけど認めてくれるはずだよ」
「そうかなぁ」
「ただ、スズ先輩の方が厳しいからさ、審査が通りにくいかもしれないけど」
「うぐっ……何とか説得してよぉ!」
僕の冷たい宣告に、コウは縋るように言った。
長い廊下、たくさんの教室、それをどんどんと過ぎていく。
「いや、無理だよ。だってあの人怖いし、映画製作同好会の事になるともうそれは本当に……」
「どうして厳しいのさ。ボクらは何かしたの?」
「うーん、多分アキヒと何かあったと思うんだけど」
「……やっぱり?」
思い当たる事を言ったら、コウの方もそう思ってたらしい。
アキヒ、映画製作同好会の部長であり、おそらくハチツカスズ先輩と因縁がある人、という事だ。高校に入るのが一年遅れていて、本当なら僕の先輩にあたる人のはずなのに、同級生となっている。
映画製作同好会の部室がある部室棟へと続く連絡通路の目の前に来た。
「まあ、アキヒとスズ先輩の仲を改善しないと、多分廃部確定だね」
「うげ、あの人男の人に対して不信感を持ってる節があるからなぁ……」
「どうかされましたか?」
「ひぃ!?」
「あえ?」
話している途中、スズ先輩と遭遇してしまった。
白く長い、不気味な髪をなびかせている先輩は、雰囲気はいつもと変わらないけど、さっきの会話の内容に対して怒ってるかもしれない。つまり怖い。
「今、私の話題を出していたようですが」
「何でもないよ!」
「神出鬼没過ぎます! 少しは存在感を持って出てきてください!」
「ごめんなさい。ただ、私は男の人に対して、深く疑っているわけではありませんよ?」
「結局聞いてるじゃん」
コウの文句を無視して、スズ先輩は目を閉じる。
「……ただ、私に告白してくるような人は、少しばかり疑いますが」
「どうせ元カレに捨てられたんでしょうねぇ」
「チッ」
「あ、ごめんなさい、本当にごめんなさい、だから殴らないで……」
いつも怒られていてウップンが溜まってたから、毒を吐いてみた。その結果、結構ガチ目に殴られてる訳だけど。
まあ、図星だろう。多分元カレはアキヒだし、恨みを抱いてるから――それでも映画製作同好会を廃部にさせたい理由はわからないけど。
「何してるの……」
「憐れむな!」
おバカさんを見るような目でこっちを見たコウに反論する。
「……まあ、捨てられたのは本当です。煽ってきたリクくんは許しませんけど」
「もう言いません」
「よろしい。では、私はこれで失礼します」
ハチのような笑顔で、スズ先輩は去っていった。
「……スズ先輩って元カレいたんだね」
「無様に捨てられてるんだけどね、笑」
「ボクもアミ先輩みたいな彼女欲しいなぁ」
「頑張ってくださいねー」
スズ先輩と別れて、連絡通路へ出向く。
五階の連絡通路だから、窓の外を覗いてみると結構高い事を確認できる。スズ先輩は、部室棟に用があって、そこから戻って来たようだ。
「スズ先輩は何しに行ってたんだろうね?」
「さあ?」
「うーん……」
いろいろと会話をしながら歩いていたら、部室棟に辿り着いていた。
◇◇◇◇◇
「リク! 久しぶり!」
「久しぶりー、チオー」
部室に入るなり、一人の少年が挨拶をしてきた。それに対して簡単に返しながら、僕は部室を見渡す。
大きなダンボール、一人くらい隠れられそうな物が置いてある。それ以外は特に散らかっている訳でもなく、壁には棚が敷き詰められていて、窓とドア以外は見えない。もちろん棚にはたくさんの映画を見る媒体――VHS、DVD、ブルーレイ、その他諸々がぎっしりと詰めてある。
「あれ、今日は監査あったっけ?」
「違うよ、例のアレを一緒に見ようって誘ったんだよ」
「あー、なるほど」
コウの言葉に、容姿がそっくりな少年は納得するように呟いた。
最初に元気よく声をかけてきたのはワニカワチオ、次に声をかけてきたコウにそっくりな少年は双子の弟であるホシヤハジメだ。
チオは青を基調とした制服を着ていて、イメージカラーを青だと定着させたいという意志を感じる程には青い髪である。ハジメは白を基調とした制服で、髪を茶色に染めている。コウが黒色の髪だったから最初は驚いたけれど、染めている事実を知って納得した。
「初期版って、確か敵が人間だったよね?」
「そうそう、他にもいろいろ違う所があるけどね」
目を輝かせながら、ハジメが言う。
僕も『スター・ファイターズ』シリーズは見た事ある。と言っても一回だけで、孤児院で映画を見ようってなった時に、1~6を順番に見た記憶がある。
このシリーズは、4~6をやった後、十五年くらい後に1~3をやった。理由は、面白い所からスタートしたいと監督が思ったからだって、コウが言ってた。
「……うん、俺も初期版を見るのは初めてだから、楽しみ」
アキヒが、唐突にダンボールから出て、そう言った。
先程のスズ先輩、その元カレ疑惑があるムカイアキヒ。髪色はイチジクみたいに赤紫っぽくて、制服は褐色。スズ先輩とは真逆で、髪が短い。そして気が弱そうだ。
ただならぬ雰囲気が一瞬あったが、すぐに消える。
「ちなみに、7から9は?」
「あんな駄作なんて見る必要ないよ」
「お兄ちゃん、7から9はシリーズに愛着がない金の亡者が作った酷い同人映画だよ」
「そうだった」
「そっか」
僕が訊いたら、コウが否定して、ハジメが更に乗ってきた。
一応、『スター・ファイターズ』というのは7から9の出てる。だけど、コウは見なくて良いって言い切るし、ハジメは同人映画扱い。酷い有様だ。ヤク中が作った映画なのか、もしかして。
確か、エピソード7、8,9は十年程前に公開されたばかりだったはず。最近のシリーズには当たりがないのかも。
「うーん、見た事はないけど主人公が女の人だもんね。やっぱりかっこいいおじさんが欲しいよ」
「ホントそう。というか、宇宙が舞台なのにエイリアンが足りないし、無理」
「8の黒人と黄白色人の恋愛はなんだったんだろう、9で黒人カップルに差し替えられるし」
チオ、コウ、ハジメ、各々が想いについて語っている。このままでは僕の貴重な時間が減ってしまうではないか、それは困る。
「まあ、7の前に出たスピンオフは面白かったよ。初めて見た『スター・ファイターズ』映画だったけど、あれで俺はシリーズにはまったからさ」
「あの名作、良いよね!」
「そろそろ見ようよ。このままじゃ『スター・ファイターズ』を語る回になっちゃう」
「あ、ごめんごめん」
さらにヒートアップしそうなのを制して、僕は映画を見るように催促する。
映画製作同好会の四人が、手早く準備をしていく。窓のカーテンを閉めて、大きな画面が映るようなスクリーンを出して、プロジェクターを起動する。
「よーし、見れるよ!」
「映画鑑賞中って外にかけて、見よっか」
「待って、今スマホの電源を切るから」
「そうじゃん、忘れてた」
映画の雰囲気を味わいたいから、スマホなどの電子機器の電源を切る。
そうして、僕たちは『スター・ファイターズ4』を鑑賞し始めた。
◇◇◇◇◇
「……はぁ」
生徒会室にて、隣に座っているスズが溜息をついた。
とても機嫌が悪そうで、思わず訊く。
「スズ、どうしたの?」
「……あ、すみません、アミちゃん。ただ、リクくんが今日、サボるらしいので」
「今日は別に良いって、スズが言ってたと思うけど」
「ちょっと煽られまして」
「あー……」
どうやら、リクが余計な事を言って怒っているようだ。
ちなみに、今日の生徒会活動は二年生である私とスズ、そして三年の生徒会長であるカイキ先輩の三人で会議をする予定だ。議題は、生徒会のメンバーを増やす事である。
「あの子を監視するために生徒会に入れたのは良いですが、失敗ですね」
「そこまで言う?」
「はい。もう夏休みに入るというのに、彼の素行は改善される予知がありません。そろそろ、軟禁も視野に入れるべきかと」
「そうね。そうしましょうか」
「そうすると、寮の部屋に人を派遣しなければなりませんね」
「うーん、どうするべきかしら」
「待て、何の話をしている?」
リクに対しての解決案を話し合っていたら、カイキ先輩がドアを開けて入って来た。
身長百七十七センチで、顔がとてもイケメンな人だ。もし私より背が低かったら性癖の対象に入っていたと思う。髪も瞳も黒くて、それでいて肌は白くて、とても素敵な男性。
「いえ、リクくんの処遇を決めていまして」
「軟禁しようという話になりました」
「何でそうなったのかはさておき、リクを監視できる程の人員はいない。それに、明後日から夏休みだ」
「そうですね……」
カイキ先輩の言葉に、スズが困った顔になる。
いくらスズだって、自身の時間を大切にしたいはずだ。私だって、好きな人をデートに誘いたい。夏休みは、いろいろできるのだから。
「アンズもエクシオに帰省するし、リクの監視は難しいだろう」
「絶対に悪い事して少年院にぶち込まれるわよね」
「どうしようもないですね……」
「とりあえず、その議論は後にしよう。私がいなくなったら、生徒会の人員が三人しかいなくなってしまうからな」
リクの議論を止めて、カイキ先輩は席に座る。そして、本来の議題を切り出してきた。
関係ないのだけれど、男の人であるにも関わらず、カイキ先輩は一人称を私って言っていて、珍しい。敬語ではよくあるけど、普段使いの人には会った事がなかったから、珍妙だと会った直後は思ったものだ。
「新入生の募集が一人も来ないのは本当に痛手だった。約五万人は通っているはずなのに、どうしてだろうか」
「まあ、生徒会が忙しいっていう所が大きいかと」
「他の州立学園もそれに悩まされているらしいです。部活や委員会に勤しみたいとか、勉強に専念したいとか、そういう人が多いらしくて」
「やはりそうか……」
一つの州に、一つの州立学園、その法律がある限り、この問題は解決される気がしない。私立学園の学費が安くなり、選択肢が幅広くなれば解決できるとは思うけど、それも期待できない。
唯一、中央テロム州は生徒会が千人くらいいるらしいけど、それ以外はあんまりだ。
「やはり、一つの州に一つの州立学園、これを撤廃してもらわない事には厳しいか」
「中学校までは千人規模だったのに、学園になった瞬間に五万人ですからね。理由はよくわからないですが」
「まあ、昔は学園に進学するのは普通ではなかったみたいだから。それでも異常だけれど」
五十年程前まで、学園に進学するのは五千人くらいくらいだったらしい。それが今じゃ五万人、恐ろしい上がり幅で、法律も三万人の確保を必須にし始める始末。これも、学歴社会になった弊害だろう。
「……トリアス州は他の州と違い、様々な人種がいる。肌が黒い、白いはもちろん、その中間もいる。それも、生徒会の仕事を増やしている要因でもある」
「人種の壁を超えるのは、とても難しいですからね」
「そうね、皆仲良くだなんていうのは難しいわよね」
「……にしても五万人いたら一人くらいは期待していたのだが」
嘆くように、カイキ先輩は言った。
現生徒会長であるカイキ先輩の代も一人、その先輩の代はゼロ、去年は本当に苦労した。今はリクがいるからまだ何とかなったけれど、三年生の代がいなかった時は本当に死が隣にいた。
「とりあえず、生徒会引継ぎ式までには、一人は確保したい所です」
「はあ……勧誘活動、頑張りましょうか」
「……そうするしかないな」
未来への漠然とした不安に、私たちは圧し潰されそうになっていた。
勧誘活動について、どうしたら生徒会に入ってもらえるか。あんまりにも魅力が皆無な生徒会の仕事に、興味を持ってくれる人なんているのだろうか。
「ポスターは全く効果なし、チラシ配布も意味なし、その他いろいろな方法を試してみたが、どれも効果が見込めない……」
「案がもうないですからね……」
「もう嫌……」
しかし、結構な提案は出したのだが、全てにおいて効果がなかった。
もう終わりだ。先生に相談してみたのに、何も良い結果を得られなかったし、もうどうしようも無い。
ピンポーン
どうしようもない絶望、これから大量絶滅事件でも起きてしまいそうな雰囲気が流れていた時、チャイムが鳴った。
「はーい」
それに反応して、スズが出た。
◇◇◇◇◇
「すみません、アカント女子学園出身のイロハシロコです。訪問の許可を貰ってもよろしいですか?」
『あら、シロコさん。何か御用で?』
「リクさんに用がありますが、連絡ができないので迎えに来ました」
『なるほど』
私の言葉に、出てくれたスズさんは少しだけ黙る。
『……アミちゃん、カイキ先輩、どうしましょう?』
『良いんじゃない?』
『まあ、許可しようか』
『はーい……という事で、大丈夫ですよ。ですが、リクくんの居場所がわからないと思うので、私がそちらに向かいますね』
「ありがとうございます!」
あちらでのちょっとした会話が聞こえた後、スズさんは優しく語り掛けてくれた。
一つの州に対して一つの学園しかないという状況では、マップを把握するのにも一苦労だ。アカントでもそうだが、地図を見たところで複雑難解に入り組んでいる事が多くて、全体を把握する難易度が高い。
むしろ、男子と女子で校舎が分かれている分、アカントの方が理解が容易であるという事実さえある。
「はぁ、そろそろ一つの州に一つの州立学園っていう法律をなくしてほしいな」
アカント女子学園の現状について考えて、私は強くそう思っている。
本が好きな私は、アカント州立図書館に憧れてアカント女子学園に通う事を決めた。その図書館がアカント学園の公式図書室としてあり、男子学園側から十二分、女子学園側から十分、電車を乗り継いで行ける。
アカント女子学園のイメージは、華やかな女子高だった。そのイメージを持って通ってみたら、内情として派閥争いが多発しているし、蹴落とし合いも普通に起きている。学園内であるのに、暗殺でも行われるのではないかと戦慄させられて、後悔だらけだ。
そのような事情や、私がトリアス州出身である事が相まって、私にはあんまり友達がいない。授業が終わったら毎回図書館に行って、男子学園側の図書委員の先輩と一緒に仕事をして、本を読んでいる。
風が吹いて、木の葉が落ちてきた。
「せめて貴族と平民を分けたら良いのに。男子学園の方を見習って欲しいな」
毒を吐きながら、思い返す。図書委員の先輩に連れられて、一度アカント男子学園に入った事を。
それはもう、平和としか形容できない程に心が落ち着いた。男子校なのに物凄く綺麗にされているし、ふざけ合いがあるとはいえ、女子学園みたいな牽制などは行われておらず、心が穏やかになったくらいだ。
風がさらに吹く。だけど、木の葉は落ちてこない。
「……はあ、最近はヒヨリちゃんもあっち側だし……」
キョウドウヒヨリ、私の唯一と言っていい友達の事を考える。彼女、最近はエクシオ学園の一個上の生徒会役員と、男を取り合っているらしい。
確かに、好きな人を盗られたくない気持ちはわかる。だが、重すぎるのだ。この間家にお邪魔させてもらった時に、好きな男のポスターを狂気的な程に貼っていた部屋を見て、恐れ戦いた。
まあ、確かに、熊代穂波という好きな女優に対しても愛が凄いと感じる時はあった。しかし、その男にはお願いして私物を借り、更には匂いを自分のベッドにつけているとの事で、知りたくなかった。
自分の近況について思い返していたら、二十分程経っていた。
「お待たせ致しました」
「あ、こんにちは」
いろいろ考えていたら、スズ先輩が来てくれた。
とても綺麗な人で、高い身長に、長い髪。微笑んだ顔はとても美しく、思わず見惚れてしまうくだいだ。
「それでは、リクくんの所にご案内しますね」
「お願いします」
スズ先輩に先導されて、私はリクさんのいる場所に案内されるのであった。
◇◇◇◇◇
「面白かったね!」
「あの気持ち悪い生物が、可愛らしいおじさんだったね!」
映画が終わり、照明を点ける。
三時間程の映画が終わって、いろいろな感情が頭の中を巡る。『スター。ファイターズ』シリーズに思い入れがない僕でも、映画を見終わったら謎の達成感が湧いてくらい、映画は楽しい物だ。
「はー、謎の感動が押し寄せてくる。たまには映画を見るのも良いね」
「でしょ? 君も是非映画製作同行会へ!」
「入らないけどね」
「チッ」
コウが、悪い笑顔で、隙あれば僕を映画製作同好会に勧誘してくる。映画製作を全く進めてないくせに。
「そろそろ映画作り始めたら? 時間かかるんだし」
「ま、まあ、シナリオはできてるんだけどね……?」
「嘘だよ。全然作ってないし」
「な、夏休みからが本番って言うか……」
ハジメが、コウを咎めるように言うと、それに対応して言い訳するようにコウが呟いた。
この兄は、映画鑑賞同好会に名前を変えれば良いのに。本当に映画を作る気があるのか、こいつ。
「……そうだね。夏休みから、本格的に始めようか」
「はい……」
「……本当はあの子に出てほしいけど」
「誰の事?」
「あ、いや、何でもない……」
アキヒが、意味深に発言する。あの子、チオの言う通り、誰の事だろうか。
いや、確定だろう。元カノのスズ先輩の事だ、そうに決まってる。でないとこんなに寂しそうに言わない。
どうせ、捨てた後に元カノの大切さに気が付いた、典型的なパターンだ。きっとこれから没落していくぞ――まあ、仲間がいるからまだ大丈夫だと思うけど。
「お兄ちゃん、私も手伝うから、シナリオ書くよ」
「ホントに!? やっぱり持つべきなのは出来の良い弟だね!」
「やっぱり手伝ってあげない」
「ごめんって、お願いだから手伝って」
そんな兄弟の掛け合いがあった。
私、ハジメはそういう一人称を使う。別にどうでも良いけど、男の人で私という呼称を使う人はあんまりいない。僕が見た事あるのはハジメとカイキ先輩だけ。アミ先輩も、ハジメと初対面の時には、二人目がいるなどという訳のわからない事を言って驚いていた。
不意に、コンコンというノックが聞こえた。
「ボクが出るよ」
チオが、ドアを開ける。
そこにいたのは、二人の白い捕食者だった。一人は、大きなリュックサックを背負っている。
「え、シロコさん!?」
「こんにちは、迎えに来ましたよ」
「待って、え、え?」
シロコさんは、僕を見るなり近づいて来て、手を掴んでくる。
後ろには、満面の笑みを浮かべているスズ先輩がいる。これは、逃げられそうにない。
「ふふ、夏休みが終わるまでは一緒に同棲するらしいですね」
「く、くそー!」
「早く、あなたの寮に案内してください。合鍵もください」
「で、電子キーなので」
「では、暗証番号を教えてくださいね?」
全く笑顔ではなく、表情が変わらないシロコさん。
まるでメスライオン、僕を逃がす気は全くなさそうで、淡々と狙われている。
「あ……」
「……」
シロコさんが怖すぎて目を離すと、丁度アキヒとスズ先輩の目が合っている所を目撃した。
「……」
「……」
「え、怖い。何これ」
「ちょっと、お兄ちゃん」
コウが本音を出して、ハジメがその口を塞いだ。
気まずいというか、恐ろしいというか、二人の間には妙な空気が広がっている。まるで夜の冷気、カエルとヘビの睨み合い、独特の雰囲気が形成されていて、間に入れそうにない。
「……ハチツカさん、さっきぶり」
「……」
それに耐えられなかったらしいアキヒが、スズ先輩に声をかける。スズ先輩は変わらず無口だ。
部室が冷蔵庫の中に早変わりだ。おかしいっていうか、やめて差し上げろ。
「……その、えっと……」
「……私は生徒会室に戻りますね」
「うぅ……」
冷たく、スズ先輩は言い放った。
「では、シロコさん。帰り道はリクくんに訊いてくださいね」
「わかりました!」
そして、恐ろしい白人先輩の姿が見えなくなる。
「ふぅ、怖すぎますね、あの人」
「そうだよね、本当に怖い。アミ先輩じゃなくてあの人がこの部室に来たら終焉が訪れるよ」
「あんまりそういう事は言えないけど、そうだよね……」
「そうかな? アミ先輩みたいにボクには迫って来ないよ?」
「ま、まあね……」
スズ先輩に対して、チオ以外はニンシキが被っているらしい。やっぱり、怖い。
「……」
「そんな事より、早く帰りますよ。いろいろ準備があるんですから」
「嫌です! 今日はゲームセンターで遊びつくすんですから!」
「うるさいな、とっとと案内しろ」
「そんなー!」
「もう帰るの?」
「ごめんなさい、リクさんは貰って行きますね」
「はーい」
「バイバーイ」
「また明日教室でね」
「助けてください!」
「はいはい、早く行きますよー」
シロコさんの理不尽に抗いつつ、映画製作同好会の四人に助けを求めてみた。
誰も助けてくれる素振りを見せてくれなかった。
パクリ判定貰ったら流石に変える予定




